第13話 1月



 悠理は部長にお願いし、12月の30日から正月の三箇日は店を休みにしてもらった。

「美人は得ね」と幸子に嫌味を言われたが、笑顔で聞き流した。

 望美は冬休みに入ると毎日店にやってきたが、年末から正月の三箇日を休みにすると伝えると反対した。

「みんなすることがないからここに来るのに、休みにするってひどくない?」と言った。

 また悠理は、漁師の幸吉さんが店が来たときには、正月の三箇日は店を休みにするので、「探偵コナン」を借りたいなら早めに借りてほしいと伝えた。



 12月の30日、悠理はあまった食材を朝食にし、Z海バスの切符売り場に行き、9:30発のD駅行きのバスの切符を買った。

「悠理さん、東京に帰るんで?」所長さんが切符を用意してくれた。

「はい、皆さんにはわるいですが」

 悠理はバスに乗り帰省した。


 バスはゆっくりとL町から海沿いの町を進んで行った。悠理はふいに眠りに落ち熟睡した。

 2時間かけてバスはL駅に着いた。D駅は伊豆中央に向かうであろう旅行客がたくさんいた。悠理は新幹線に乗った。年末帰省で人が多く座ることはできなかった。

 

 新幹線は1時間で東京駅に到着した。東京駅はL町では考えられないくらいの人が歩いていた。

 悠理は荷物をロッカーに預け、この夏まで自分が通勤に通った道を歩いた。

 悠理は冬の寒さを身に感じたが、そうではない違和感を感じた。東京の風景はわずか1ミリほど薄いと感じた。自分が飽きるほど見たその東京が今は遠くになっていた。

  

 悠理は街を歩いた後、銀座の方を歩き、お気に入りのブランドショップを訪れ、新作の服を眺めた。

 

 そこから東京駅へ戻り、千疋屋のフルーツパーラーでフルーツサンドを食べた。

 不思議なことにキーウィに苺、パパイヤ、パイナップルの食感が東京を思い出させた。悠理はL町では自分が魚ばかり食べていたことを改めて実感した。

 


 悠理は東京駅で荷物を取り出し、夕方までに実家のある駅にたどり着いた。

 そして実家への道を歩くと、そこには色濃さを感じた。東京は今はもう薄くなっていたが、実家への道は濃さを増した。ああ、これが故郷なの。悠理はそう感じた。

 実家の玄関にたどり着いたときには、悠理は涙した。



 正月、家族と一緒に過ごした悠理は幸福を感じた。

 それは自分の人生に於いて感じることのなかった郷愁というものに包まれた。







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