第10話 11月



 悠理はS見温泉にバスで到着した。S見温泉は、E山、C神社という景勝地があり、お土産物屋や食堂があった。悠理はバス停から近い場所にあった食堂に入った。

 

 食堂は貸し釣竿店と兼ねていて、食堂には釣り人が釣った大物の魚拓がそこかしこに張り出されてあった。本棚には男性向けのコミック誌が並べられていた。女性がひとりで入る店ではないのであろう。平日の午後三時、お客は悠理ひとりだった。

 

 店の主人らしき中年男性が水を入れたコップを置いた。山道を歩き疲れ、ビールを頼みたかったが、女性はひとりだけ。悠理はコーラーを頼み、岩海苔ラーメンを頼んだ。



 遅い昼食を食べた後、悠理はS見温泉を歩いた。誰も歩いていない寂れた温泉街。違う、熱海と違い、この地域には温泉で賑わうということはない。もともとこの地域は昔から過疎で過疎のままずっと過ごしてきたのだ。漁業を生業として。


 悠理はS見海岸に戻った。S見海岸は浜辺の中心に堤防があり、それが海に伸びていた。そこで釣りをするためなのだろう。悠理は堤防を海に向かって歩いた。浜辺も堤防も人はいなかった。


 悠理は海を眺めた。ずっと。

 

 やがて、若い男女が車でS見海岸を訪れ、浜辺から二人で海を眺めた。そして海に伸びる堤防のほうへと歩いて来た。それで悠理は海を眺めるのをやめ、帰途に着いた。


 





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