第9話 11月



 L浦歩道。


 R温泉のR地海岸の浜辺から歩いてきたこの歩道は、山へと上って行き、山道となった。

 誰もこの歩道を歩いている気配はなく、時に蜘蛛の巣が歩く前を塞いだ。道はだんだんと険しくなり、落ち葉と枯葉が道を覆った。道は狭くなり、舗装もされていない土がむき出し、上りになったり下りになったりと獣道の様相を呈した。

 四方八方を木の茂みに囲まれる。太陽の陽を木の茂みが遮る。暗い山道を悠理は歩き続けた。すると、ふいに木の茂みが少なくなった小さな平原が現れた。そこは陽が降り注ぎ、木のテーブルと木の椅子が二脚置いてあった。悠理は座って腰をかけ、息を漏らした。この山道を1時間は歩いただろうか。

 そして、悠理は眼前の青空の向こうにうっすらとした陰を見た。あの影は富士山だろうか。


 休憩の後、悠理はまた山道を歩いた。この先はどうなっているのか?、ペットボトルのお茶を持ってくれば良かったと考えた。人が誰も踏み入れることのない山道は泰然としていた。可愛い丸い形をした葉々が自若と群生していた。陽がまだ高い時間だった。悠理は木々に、葉々に、花に微笑ましく思った。そして先を急いだ。日が沈む頃には、この山道から出られないと笑顔でいられなくなる。


 山道を歩き続け、悠理は感じた。海を。

 その予感は当たった。L浦歩道は突然の急斜面から山を下り、U部海岸にたどり着いた。


 L浦歩道は、太古の道なのだ。


 西Y町、L町は、海沿いの町で大きさ違えど海岸を持つ。そして海岸の端は山となる。つまり、西Y町~L町~R温泉のR地海岸~U部海岸の間はすべて山で、平成・昭和・大正・明治よりもっと昔はこのL浦歩道を使って、村を行き来したのだ。おそらく江戸時代以前もっと昔の人類が生まれる前は、西Y町~L町~R温泉のR地海岸~U部海岸すべてはひとつの山だったかもしれない。大きなひとつの山を海が削り取り、砂浜を作った。その砂浜に人が移り住み、村を作った。



 U部海岸は、R地海岸の半分ほどの小さな村だった。R地海岸と違い、弓形の海岸と云うよりU型の急しなりの海岸で北側は完全に埋め立てられ舗装された真四角の湾が作られてあり、そこに漁船が停泊してあった。

 

 U部海岸は店もない小さな村のため、悠理は自動販売機でアイスコーヒーを買ってのどを潤した。

 バスの時刻表を見るとちょうど二時間に一本のバスの時間が近かったため、バスに乗り、S見温泉に移動した。





 

 

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