第7話 11月



「最近お客さん増えた?、やっぱり美人が入ると人が来るのね」

 幸子が言った。

「違いますよ、『探偵コナン』を下にして、

 ドラマを中心に棚に並べたからですよ『24』とか」と悠理は言った。 

「あれ?、コナンは人気でしょ?、それに今さら24観る人いるの?」

「コナンを借りに来る人は、どこに置いていても借りますよ、『24は、やっぱり観ていない人が多いんでしょうね』」

「24なんてネットNetflixで観ればいいのに」

「ここに来る人はNetflixを使えない人ですよ」

 

 11月に入ると、悠理も仕事に慣れた。毎日9時に出社し、昼の1時から2時間から3時間休憩。店には幸子が交代にやって来て、売上げの管理を行う。

 その間に、悠理は晩御飯の買い物を済ませて、自分の部屋で昼食を済ます。朝に夜の分も合わせて作る日もあれば、手を抜いて、ラーメンやパンで済ます日もある。

 太陽の陽が優しい日は、L海岸を歩いたりもした。


 そして、目に見える感じで店にはお客が増えた。幸子には言えなかったが、やはり自分の魅力のおかげなのだろうと悠理は思った。売上げも目に見える形で上がり、それは悠理の自信となった。それに一人勤務の気楽さは悠理の肌に合い、孤独など感じなかった。人寂しい時などは、お客とお喋りをした。

 お客も悠理のような美人に人懐っこく話しかけられると大いに喜んで、また店に来るのだった。Netflixを契約している人であろうとも。


 

 この店の特徴でもあるのだが、L中学の生徒やL高校の生徒が、北の西Y町、南のU部温泉、S見温泉に帰る生徒が、Z海バスの切符売り場のバス停を経由し、自宅に帰る。そのため、下校時間にL中学の生徒やL高校の生徒が現れ、この生徒たちが一番のお客様となった。

 

 その生徒の中に、望美というL高校の2年の生徒がいた。

 綺麗な子だったので、悠理が暇なときたまたま話しかけたのがきっかけなのだが、それ以来、学校をサボってまで悠理とお喋りする為にやって来ることもあった。

 望美は高校を出た後、東京のホテルに住み込みで働くと決めていた。実家の民宿を継ぐかどうかはわからないが親は継ぐ必要を求めていないらしい。

 悠理が「大学に行かないの?」と聞くと、望美は漁師の娘を引き合いに出し、裕福に一人暮らしをさせてくれるのなら大学には行きたいが、節約とアルバイトで節制した(貧乏)生活をしてまで大学には行きたくないと言った。

 悠理は実家から大学に通ったため、大学はどれだけいい大学にいけるかという考えだったため、生活に関しては考えたことはない。それを17歳で理解している望美に悠理は大人を感じた。


 悠理は望美に自分の密かな楽しみを教えた。

 娯楽アクション映画の棚に「ミッドナイト・エキスプレス」や「インディアン・ランナー」「スターマン」など素養ある映画を紛れ込ませることや、誰にも知られないよう、自分のお気に入りの映画コーナーを勝手に作ったこと。

 

 「さよなら、アドルフ」

 「厨房で逢いましょう」

 「小さな中国のお針子」

 「バーレスク」

 「オーケストラ!」

 「セブンティーン・アゲイン」

 「ジェイン・オースティンの読書会」

 「ピクニックatハンギング・ロック」

 「ダンス・ウィズ・ウルブズ」

 「ケス」

 「エンゼル・ハート」

 「ラスト、コーション」 

 「ユー・キャン・カウント・オン・ミー」

 

 望美は、なぜ悠理は外人の映画ばかり観るのかと聞いた。

 今時の望美は洋画など観ないことに悠理は驚いた。

 それで悠理は望美から意見を聞き、L中学の生徒やL高校の生徒向けのコーナを勝手に作った。

 

 「(500)日のサマー」

 「ラブ・アクチュアリー」

 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」

 「ある日どこかで」

 「ゴースト ニューヨークの幻」

 「恋人までの距離(ディスタンス)」 

 「小さな恋のメロディ」

 「タイタニック」

 「ターミネーター2」

 「イン・ユア・アイズ 近くて遠い恋人たち」

 「あと1センチの恋」

 

  

 この頃、悠理はようやく休みの日を自分のために使うようになった。

 悠理は隣の西Y町まで歩き、T浜海岸で海を眺めた。

 それからバスに乗り、R温泉のR地海岸に行き、海を眺めた。

 R地海岸からは歩いてU部海岸に行き夕陽を眺め、バスに乗ってマンションに帰った。

 ある日は、悠理はR温泉のR地海岸に行き、U部海岸まで歩いた後にバスに乗り、S見温泉に行き、S見海岸で海を眺めた。

 冬が近づく海の波濤は小さくも強さを増していた。







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