第6話 10月



 10月になると悠理はほぼ仕事を覚え、店員一人での業務となった。書店業務とレンタルビデオ・DVDの貸し出し業務は、従業員兼店長でも店長気分を味わえて悠理は気に入った。

 問題は客がほとんど来ないことだった。

 

 まず、平日の朝の9時から午後1時まで客はひとりも来ない。

 午後1時からは、Z海バスの切符売り場に観光客がたどり着き、時間つぶしがてらにこの店を訪れるかと思えば、なかなかこの店には来ない。ほとんどが下の一階のコンビニで(漫画の)コミック文庫などを購入して終わりなのだ。

 客はほとんどが、学校終わり、会社帰りの、16時から20時の間に訪れる。

 それでも一人で困るほど客が溢れるということはない。

 

 本に関しては、週刊誌、漫画コミック、女性誌、一通りの小説と置いてあったが、これは漫画コミック以外、ほとんど売れなかった。これは昨今の出版不況の体現的なものだったと考えられる。

 だから悠理の仕事の中心は、レンタルビデオ・DVDの貸し出し業務となった。

 悠理が店を見渡すと、映画は主に新作のアメリカ、アクション映画と「僕の初恋をアナタに捧ぐ」や「ただ、君を好き」など、学園ものの日本映画が中心になっていた。

 あとはなぜか子供向きアニメの「探偵コナン」がビデオでひとつの棚をまるまる横並びで制し、並べられていた。

 これはなぜかと仕事を教えてくれた幸子という既婚女性に尋ねると、幸吉さんというおじいちゃんの漁師のためだと教えられた。幸吉さんは、孫が来たとき孫を飽きさせないようにたくさん借りるのだと。 


 悠理は前任者の作成したクリント・イーストウッド作品の映画紹介のPOPを見た。

 

 「ヒア・アフター」

 「インビクタス/負けざる者たち」

 「アメリカン・スナイパー」

 「グラン・トリノ」と、最近の作品に宣伝POPが添えられ、並べられていた。

 

 悠理はその並びを、

 「ジャージー・ボーイズ」

 「マディソン郡の橋」

 「ミリオンダラー・ベイビー」

 「硫黄島からの手紙」

 「パーフェクト ワールド」に変更した。


 最近の学園ものの日本映画が中心になっていた棚には、古い日本映画「Love Little」「華とアリス」「桜の園」や香港映画の「ラヴ・ソング」「ターンレフト ターンライト」を紛れ込ませた。

 そして、まるまる横並びで堂々と並べられていた「探偵コナン」は、すべて縦並びに変え、下の方に置き、空いた一番のいいスペースに「24」と、一番最近人気のテレビドラマの作品を置いた。

 これは、ドラマ作品を借りてくれた方が第一話から第十二話、第二十四話と複数レンタルしてもらい、売上げを上げるためのものと考えたのだった。

 こうした映画タイトルをただ並び替えると云うのは、従業員兼店長の悠理の特権だった。







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