第十二話 折檻

※ヒョウくんがちょっと暴走します。ご注意ください



 

 一方的という言葉を此処まで思い知った例は記憶にも久しい。


「く、そがぁぁッ!」


 今もまた大砲のような突きが放たれた。

 しかしヒョウはそっと触れるだけでその腕を絡み取り、ふわりと投げ飛ばしてしまう。

 メリッサの体重の倍以上あるはずのギルヴィアが、何ともあっけなく地面から足を剥がされ宙を舞った。

 すぐ立ち上がったギルヴィアに外傷は無いが、息は肩でするようになっていた。対し、ヒョウは涼しそうな顔のままだ。


「パワー、スピードにスタミナ、頑丈さ。どれも大したモンだ。北極熊ですら可愛く思える」


「上から、モノ言ってん、じゃねえぞ……! そのドヤ顔、直ぐに歪ませてやる!」


「おまけに気骨ガッツもある。逸材だな」


 吶喊し、再び空を泳ぎ、大地へと帰還する。その繰り返しだ。

 自分が通用しない事もだが、あまりに優しく投げ飛ばされる事が彼女の気に障っているに違いない。

 先程も女王がされたように、ギルヴィアもまるで綿が落ちるかのように土に転がされるのだ。

 つまり、それほどの力量差だということ。隠しようも無いレベル差が、ヒョウとギルヴィアの前に立ちふさがっていた。


「ぜぇ、ぜぇ、げほ……てめぇ、さっきまでは、手を抜いてやがったな……⁉」


 息も絶え絶えに喚くギルヴィアに、ヒョウは首を横に振る。


「竜の娘と戦うのは初めてだったからな。まずは見させて貰った。なるほど、確かに筋力や心肺機能は桁外れだ」


 しかしと、彼は続けた。


「関節の向きや可動域、靭帯の性質、視野の広さとかは人と大差ないらしい。ならば技が使える。昆虫とかに普通の合気は通じないだろうしな」


「では、もしかして……!」


 ヒョウが先程まで防戦一方だったのは、決して反撃の隙が見つけられないからでは無かったのだ。

 察するに、彼は亜人種――少なくとも竜人族との戦いになれていない。それどころか見たことも無いのだろう。

 故にヒョウは見に徹したのだ。

 ギルヴィアが……竜人族の戦士がどのようなものか、情報を集めていたのだ。


「ヒョウ様がギルヴィアを注視していたのは、彼女の肉体に劣情を抱いていたのではなく、身体機能を確かめていたからなのですわね⁉」


「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あたぼうよ」


「やっぱり!」


 もしわたくし達が逆の立場だったのなら、きっと興奮して戦いにもならなかったはず! 鼻血とか出してむしゃぶりついていましたし、実際昨晩はそうしましたわ!

 ヒョウ様をワタクシ達と同レベルで考えていた自分が恥ずかしいですわー!


「チィッ!」


「おっ?」


 再び同じような攻撃が繰り返されたかに見えたが、結末は違った。ギルヴィアは拳を囮にし、反対の手でヒョウの手の平を掴んだのだ。


「ほぅ」


 両手が組み合い、純粋な力比べの態勢へと変化した。体格差は大人と子供ほどもある。ギルヴィアは上からのしかかり、腕力と体重を利用して覆いかぶさった。

 竜の口に喜悦の笑みが歪む。


「ようやく、捕まえたぜ! このまま押しつぶして、ぐ、ぅ⁉」


 加虐心に満ちた表情は長く続かない。太い腕を震わせヒョウの細い体を潰そうとするが、彼はビクともしなかった。


「言っとくが俺は……」


「ぬ、ぅ、ぐ、お、おおおおお……ッッ⁉」


 シャツの袖がはだけ、ヒョウの腕が露出する。

 ギルヴィアとは比べるべくもない細腕は、昨晩メリッサを愛しそうに抱きしめてくれた優しく柔らかい腕だった。

 しかし今は金剛石の鉱脈のようにメキメキと隆起し、内側からギルヴィアのおおきな手を握りつぶしていく。


「力だけでも充分強いぞ」


 いつの間にか、ギルヴィアの頭の高さがヒョウのソレを下回っていた。

 馬鹿な、と呟いたのは自分かもしれない。屈強な竜人が庸人に、それもひ弱で華奢な男に手も足も出ないなんて。


「クソがァァッ‼」


「げっ」


 横薙ぎに竜の尾が振るわれ、ヒョウの首を襲う。加減も相手も考慮しない一撃は、当たりどころか悪ければ骨折……それどころか、欠損もあり得る威力を持っていた。

 今更、当たるはずも無かったが。

 どういう力の流れが発生したのか、ギルヴィアの巨躯は宙に円を描いて背中から叩きつけられた。


「ガ、ハッ⁉」


 庭園の土が捲れ、彼女の肉体がバウンドするほどの威力だった。肺から一切の空気が失われ、ギルヴィアは白目を剥いて苦悶する。


「不覚。見させて貰ったとか偉そうなこと言っておきながら、尻尾を失念していた。驚いて、つい手加減を忘れちまった」


 未熟者めと自分を罵るヒョウは何処か他人事ですらあった。

 強いなんてものじゃない。デタラメだ。

 いったいどれほどの鍛練を重ねれば、コレほどの高みに到れるのか。それとも、彼の世界では普通なのか。


「げぇ、お、ぉぇっ……ぐ、はっ、ぐ、ぐそっ、たれが……!」


「……っと、まだ立てるのか。ホント、タフさは超一級品だな」


 やがてフラフラとギルヴィアは立ち上がった。

 打ち所が悪かったのか、頭からは血が滴っている。体中土草で汚れ、息も全身でしている。満身創痍の見本だ。

 だがそれでも、彼女の瞳には未だ戦意が漲っていた。


「黙れ! もういい、テメェはもう許さねえ!」


 喚くとギルヴィアは着ていたタンクトップを乱暴に引きちぎり、紐状にしてから額に巻いた。流れる血潮が邪魔だったのだろう、髪まで掻き上げ、怒りに濡れた瞳に広い視界を与える。

 当然、上半身は裸だ。


「⁉ 待っ、オイまて! まだやるつもりか⁉」


「ったりめーだろうが! ここまでコケにされて、ギルヴィア様が引き下がれるか‼」


「でも、もう止めた方が……これ以上は俺もちょっと都合がな……うぉっデッカ……え、重力どこ……?」


「まさか、このアタシに情けまで掛けようってのか⁉ ふざけんじゃねえ! コチとら血ぃ見てんだぞ‼」


「いやその……血というか乳が見えてるんですが……ごにょごにょ……」


「ゴチャゴチャなに抜かしてやがる! クソ……露骨に視線逸らしやがって……! そんなにかよ、そんなにアタシの身体は気色悪いのかよ! アタシが怖いのかよ!」


「……――っ」


 悲痛な訴えはメリッサにも聞こえた。ギルヴィアのその言葉だけで、数少ない男から彼女が普段どのような目で見られているのかが察せられた。

 ズキンと、メリッサの大きな乳房の奥が痛む。

 好きで大きくなったワケではない。望んでバストや臀部を膨らませたワケではないのに、何故そんな目で私達を見るの。

 この男尊女卑の世において、男性に疎まれる女性の立場というものは惨めの一言に尽きる。

 だから彼女は……いや自分達は、強くなるしか無い。強くなって、素敵な殿方を勝ち取るしか無いのだ。


「……――優しくブッ叩くもう止めだ。手足をもいででも、アタシのものにしてやる」


「ぬゥ……⁉」


 抑揚のない静かな声に、ヒョウの表情が変わる。

 泰然としていた彼の身体に初めて緊張が走り、そしてヒョウ以上の緊張がメリッサ達にも伝播した。

 膨大な魔力が竜の娘を中心に渦巻き、収束していく。彼女を中心に台風が発生したかのように突風が渦を巻いた。

 ギルヴィアの左手が筆のように振るわれると、魔力を帯びた手が宙のキャンパスに光を残す。奇怪だが、秩序だった紋様が空間に描かれていった。

 空印という、魔術式を紙も道具も使わずに描くという高等技術だ。


「上級魔術……⁉ いや、違う……アレは『掌喚陣』! では、まさか……!」


 ――アレまさかは、わたくしが手に入れることが出来なかったもの……! 王国騎士の中でも、選ばれた者のみに許された奥の手!


「やめよ、ギルヴィア! 斯様な場で……男を殺すつもりか‼」


 女王の叫びも、もはやギルヴィアの耳には届かない。ギルヴィアの両側頭部から生えている角も放電し、バチバチと音を立てる。竜人族が大きな魔力を使うとき特有の反応だった。


「恨むなよ、アタシを此処までさせたお前が悪いんだからな」


 ギルヴィアが残光で描かれた紋様に右手を添える。

 やがて力が集約し、いつの間にか何も持っていなかった筈の掌に柄のような物が握られていた。


「『武臣兵装』、抜剣!」


 遥か彼方、王国を守護する大精霊達より拝領した破壊の力。その一部が顕現する――


 ――より早く、ギルヴィアの首が宙を舞った。


「え……?」


 くるり、くるりと、鮮血が螺旋を描く。

 首は青天に赤のコントラストをぶち撒けながら、やがてゴドン、と生々しい音を立てて地面に叩きつけられた。後を追ってきた血潮がビチャビチャと庭園の芝を濡らした。


「――ぎ、ギルヴィアッ……‼」


 歪な球体は不規則に芝の上を転がり、やがて止まる。

 胴体を失った頭部のほぼ中央、双眸は驚愕に見開かれたが、しかし徐々にその光を失っていた。


「――ッひ、ぃ……って、あ、あれ……?」


 という光景は、もう目の前に無かった。悲鳴を上げるより早く、皆は我に返っていた。

 斬首など起こってないし、ギルヴィアも健在。そもそもヒョウは剣も持っていなかったし、その場から動いても居なかった。


「見間違い……? いやでも、確かに今……」


「ギルヴィアさんの首、スパって……」


 向こうもコチラも、それぞれ互いの顔を見合わせる。

 ザワザワと、未だ恐慌から完全に回復しない青い顔をして己の目や光景を疑っていた。

 たとえば、メリッサだけが見た幻覚とかで無いのは間違いなかった。


「……優先順位の話だ」


 視線の中央、手のひらをはたきながらヒョウが言った。


「彼女の魔法だか奥の手だかに興味はあったけど、メリッサ様達に危害が及ぶのなら、出させるワケにはいかん。故に斬った」


 どんな魔術を使ったのかはしれないが、彼は手も剣も使わず竜人の首を落とすという幻覚を、皆に見せつけたのだ。

 皆の首筋が粟立った。自分が刃を振るわれたワケではないのに、凄絶な殺気の風に吹かれ、自己の命を頼りないものに思えたのだ。


(本当に、ヒョウ様はいったい何者なんですの……?)


 イケメン、絶倫、巨胸、巨◯など、男の構成する要素のほんの一部。ヒョウという雄の全貌は、肌を重ねたメリッサですらまだ分からない。


「ぅ、あ、ぁぁ……」


 膝から崩れ落ちたギルヴィアに、憤怒と戦意に満ちていた顔はもうない。脂汗をびっしょり浮かべた蒼白顔、ほとんど死人のソレだった。


「続けるか、ドラ娘」


「はっ、はっ、はっ……!」


 彼女は短く浅い呼吸を繰り返している。目の焦点すら合っておらず、ガチガチと歯を鳴らしている。

 目撃者である自分達にですらあれほどの光景を見せたのだ。当事者であるギルヴィアが受けた衝撃は如何ほどか。


「……終わりだな。じゃあ、仕上げだ」


「ひっ……⁉」


 反撃も継戦の意志もないと見るや、何を思ったか、ヒョウはギルヴィアの近くにまで歩み寄った。彼我の身長差は完全に逆転し、今は男が女を見下ろしている。

 決着。そして、勝者の倣い。

 ギルヴィアが勝てば、ヒョウの肉体を己の欲望もまま貪るつもりだった。ならば敗者は……? 負けた女は、どんな目に遭うのか。

 恐怖か、あるいは期待か。彼女の大き過ぎる乳房が小刻みに震え、デコルテをピンク色に染めている。


「な、なんだよテメェ……あ、アタシに何をするつもりなんだよ……って、おい⁉」


 いきなりヒョウはギルヴィアを突き飛ばし、彼女を大地に転げさせた。それから力なく暴れるギルヴィアをひっくり返して、うつ伏せにさせ、更に彼女のズボンを勢いよくズリ下げていた。


「うわぁああ⁉」


「えええ⁉ ちょ、ヒョウ様⁉」


 図体の割に柔らかそうな、それでいて張りのある臀部が日光に艶めく。尻尾の根元まで丸見えだった。


「くっ……! ケツまで完璧かよ……いかんいかん、色即是空、色即是空……」


「て、て、ててててテメェ! 男のクセにいきなりケツ出させるとか、変態かよ――」


「ふんッ!」


 バシィ!


「ひぎぃ⁉」


 ギルヴィアの羞恥に濡れた抗議は、強い破裂音にかき消された。強烈な音波はメリッサ達の耳にも間違いなく届いた。

 青年は右手を振り上げ、第二撃の構えを取った。


「クソガキへのお仕置きは、昔からオシリペンペンって決まってんだ。そらっ!」


 バシィ!


「ふぎゃあ!」


 逞しい手のひらがギルヴィアの尻肌を打ち据えると、彼女の全身は弓なりに跳ねた。音以上に威力があるらしく、彼女の目には涙すら浮かんできた。


「だ、誰がクソガキだ! アタシは今年で21だぞ⁉」


「はっ、そうかよ! なら、17になったばかりのガキにケツぶっ叩かれて、さぞや惨めな気分だろうな!」


 彼ってば年下でしたわ! ヒョウ様はヒョウ様は可愛い、年下の男の子でしたわ!


「力がアレば存分な振る舞いをしても許される、人様に迷惑かけても見逃されると勘違いしてるのは、頭の中がガキのままなんだよ。それとも何だ? 脳ミソまでプリンプリンの桃なのか?」


 ピーンと張る尻尾を邪魔に思ったか、ヒョウはソレを脇に抱え込み、更に尾の尖端を逆の手で抓んだ。


「あっ、あっ、て、テメ、し、尻尾は……! 尻尾は止めろ……! ひっ、先っぽ、コリコリって、するなぁ……!」


「黙れ。お前は今まで何人の男を手籠めにした? 何人に呪いを押しつけた? 完全に聖女の呪いが祓われるまで、どれだけの犠牲を出した?」


「の、呪い……? 呪いって、なに言ってんだよ……ワケ分かんねェよぉ……」


「シラを切る気か。いいだろう、青少年たちの無念、俺が晴らしてくれる!」


「ま、だ、だからなにをさっきから言って――」


 バシィ!


「くひィ‼」


 バシィ!


「はぅッ‼」


 バシィ!


「かひぃ!」


 バシィ!


「ふぅぅっ」


 バシィ!


「あァン♡」


「「「おお……(ごくり……)」」」


 敵も味方も関係なく生唾を呑んだ。

 もはや言わずもがなの事だが、現代の女たちはほとんどが肉食系。故に女が男に責められるという光景は新鮮だった。なんなら、内股を擦り合わせている者もいる。

 ちなみに当家のメイド達は、輪になって互いのお尻の叩き合いをしていた。おやめなさいな、はしたない!


(はて、おかしいですわね? なんかこう、さっきまではもっとシリアスな場面だったではなくて? しりassってことですの? やかましいですわ)


「う、うう……痛ぇよぅ……あ、あんまりだよぅ……」


 やがて音が止む頃には、臀部を本物の桃色に染めた竜の娘が転がっていた。誉れ高い竜騎士の哀れな……いやちょっと羨ましい姿だった。


「ふぅ……さて、侍女長!」


「はっ」


 汗を拭いながらヒョウがそう呼ぶと、侍女長は音もなく駆け寄り、恭しくガラス製の容器を差し出した。


「ここに軟膏ポーションを用意しております。ご自由にお使いください」


「相変わらず、気の利くひとだ。後で頭をナデナデしてやる」


「オホっ♡ ……おほん、ありがとうございます」


 いやなんですのそのコンビネーション⁉ しかも昨日が初対面ですのに、何が相変わらずなのです⁉

 ヒョウは瓶詰めの軟膏を指に取ると、ゆっくりと彼女の赤くなった桃尻に塗っていった。


「冷っ! ぅぅ、し、しみる……」


「動くな。傷が沁みるのは当たり前だ」


 先程までとは違う優しい指使いで傷の手当をしていく。飴と鞭ならぬ、ポーションとムチだった。


「いいか、痛みというものは誰にでもある。お前は誰かに苦痛を与えて生きてきた。無論、俺もだ」


「……――」


「誰かを傷つけずに生きる事も、また傷つかずに生きる事も出来ん。けど、だからこそ自分の強さに責任を持て。人と獣の違いは、弱肉強食に異を唱えられるかどうかだと俺は思う」


「クソ、イヤミかよ……それとも、このアタシに説教か……?」


「別に。ただ……」


 一度言葉を切り、


「せっかく可愛い顔してんだから、性根も綺麗にしないと勿体ないだろ」


「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………かわいい?」


 あ。


「ちょ! ヒョウ様それは――「なんだそのツラ。お前、今まで鏡みたこと無いのか?」あああああああああああああああああー‼」


 ぽかーんと、お尻もお胸も丸出しのまま固まるギルヴィア。ワナワナと震えるのはメリッサばかりだ。


 な、なんてことをー! 先程の下手な挑発の時も咎めましたのに、学習能力がゼロなんですのー⁉


「あ、あー……ふーん? へ、へへ……そうかよ……! 怖いとかデカいとか、よしんばカッコいいとかならあったけどよ……可愛いなんて、世辞にしたって初めてだぜ………わ、悪くねえなぁ……」


 ホラもおおおおおおおお! 完全にメスの顔じゃありませんの! ギルヴィアさんってば、今まで見たことない顔してますもの!


(いや、無理らしからぬこと! お臀部を撫で回されながらそんなん言われたら、排卵通り越して産卵祭りですわ! わたくし達を鮭にするおつもりですの⁉ じゃあヒョウ様は熊ですわ!)


「…………悪かった」


「ん」


 呟いた一言は小さな声だったが、確かにヒョウの耳に届いた。


「つい子宮はらに……もとい、頭に血が昇っちまった。ここまで完全に……しかも叩きのめされたのは、生まれて初めてだ。これからは、男にももっと優しくするぜ」


「よしよし。よく分かってくれた。じゃあコレで折檻は終いに――――などと言うと思ったか‼」


 バシィ!


「きゃあン⁉」


「ええぇー⁉ ちょ、ヒョウ様⁉」


「十や二十の尻しばきで人が変わるものか! これを期にギルヴィアなにがしの性根、完全に叩き直してご覧に入れます!」


 バシィ!


「ぅわぁん‼」


「いやヤリ過ぎでは……⁉ 流石に羨まし――ではなく、痛ましいですわ!」


「鉄もケツも熱い内に叩かねばならないのです! 口出しは無用にお願いします! そいや! そいや! そいや!」


 バシィ! バシィ! バシィ! バシィ! バシィ! バシィ! バシィ! バシィ! バシィ! バシィ! バシィ! バシィ! バシィ! バシィ! バシィ! バシィ! バシィ! バシィ! バシィ! バシィ! バシィ! バシィ!


「うわぁああああああああああああん! やだやだ、もうヤダーッ‼ ごめんなさい、ごめんなさいいいいいい♡」


 再開された臀部しばきを、女王側もメリッサ側も区別なく呆然と、また羨ましそうに眺めるしかなかった。


「なんで余、こんな辺境まで来て臣下のケツ叩きを見せつけられねばならんの……?」


 それにつきましては、完全に女王の言うとおりですわ。

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