第10話 出現!したのは恋敵?

 シュワシュワシュワシュワ、という音を聞きながら。


 あたしは、確か龍の玉集めて願いを叶える的なアニメで、主人公が変異した後こんな効果音が流れてたなぁ、と思い出していた。


 だけど目の前の光景は、もっと鮮明で現実的で(いや現実なんだけど)眩い光を放っている。

 しかもその光の矢はまるでウエハースに楊枝を刺すかのように、サクっと地面に突き刺さっていた。


 飛んできた軌道を考えれば、あたしが祥太郎さんを突き飛ばした後に、あたしの両腕の間を通っていったのだとわかる。


一歩間違えば、脳天ぶっすりだったことを思えば、中々の間一髪具合だ。


 ……にしても。

 

 しかし。


 めーちゃめちゃ光の矢なんですけど、コレ。


「何これ……ナニコレ○百景状態なんですけど何これ!? 矢! 矢が光ってる! 祥太郎さん、矢が光ってるよっ!」


 雑草の間、土の地面に刺さる光の矢を見て興奮したあたしは、先程よりちょっと離れた位置にいる祥太郎さんにはしゃいで言った。

が、当の祥太郎さんは、自分の胸元を押さえて、じっとこちらを見つめている。でもって、やっぱり空中に浮いたままだった。


 って祥太郎さんが押さえてる所、ついさっきあたしが突き飛ばしたところじゃない……!


 や、やり過ぎた……!? 痛かったのかな!?

 もしや握力が平均以上なのがバレたの……!?


 二つの心配で慌てたあたしは、光の矢をひょいっと飛び越え、祥太郎さんの元に駆け寄った。それからとうりゃっと背伸びをして、なんとか指先で彼の胸元に触れてみる。


 痣とかなってないかな……っ。

 けど脱がせるわけにもいかないし、取りあえず腫れてはいなさそう……だけど打撲って腫れるんだっけ? 胸元なら痣? どっち?


 心配しつつぺたぺた触ってみるけれど、やっぱりよくわからなかった。

 代わりにわかったのは、祥太郎さんの実は程よくついてる筋肉の感触くらいだ。


「祥太郎さん大丈夫? 痛い? ごめんね痛かった?」


 彼の顔を見つつ、もう一度名前を呼んでみる。すると、はっと我に返ったのか、祥太郎さんは無遠慮に胸元をまさぐっていた(いや触診ね触診)あたしの手をがっと掴み、そのまま自分の方に引き揚げた。


「ぅおっ!?」


 我ながら女らしくないと思うが、突然お空に引っ張り上げられたのだ。流石に致し方ないと思う。たぶん。


 などとほんの少しだけ自分の女子力低さにショックを受けつつ、あと頬にくっついた祥太郎さんの胸元にどきどきしつつ下を見ると……。


 今度は数本に増えた光の矢が、雑草だらけの地面に突き刺さっていた。


 ふ、増えてるんですけどーっ!!


「戯れも大概にしていただけますか―――刑部(おさかべ)」


 眼下に見える光の矢(数えてみたら六本でした)に恐々としていると、低く重たい声が祥太郎さんの胸元から響いて伝わった。


 ……嘘。

 祥太郎さんのこんな恐い声、初めて聞いたよ。


 高倉君とあたしが話していた時に聞いたものとは種類の違う、もっと低く冷たく、告げた相手を声だけで貫き殺してしまうような……そんな、人とは違う『声』。


 吃驚して顔を上げれば、形の良いシャープな輪郭と、やっぱりまだ赤い瞳が見えた。

 祥太郎さんの広い背中から生えた黒い羽根はあたしの身体を包むように折られていて、星と月の光がその艶やかさを讃えている。


 うん。大丈夫。祥太郎さんだ。ちゃんと。


 『あたしが好きになった』祥太郎さんだ。


「……人間の分際で貴様を守ろうとはのぉ。ほほ、妾にも視えなんだわ」


 祥太郎さんの顔に見とれていると、突然、彼が向いている方向から鈴の音がした。

 正しくは、鈴の鳴るような声、というやつだ。


「貴様が妾にそのような顔を向けるとはの。元は塵芥に等しかったモノが……よう妖力(ちから)をつけたものじゃ」


 星と、月が雲を払い顔を出す夜空の上に。


 鮮やかな真紅の姫装束を着た美しい女性が、まるで古に伝わる月の都人が地上に降りるように厳かに、魑魅魍魎を引き連れ、あたし達の前に姿を現していた。


 そしてその女性の顔は……あの時見た、綺麗なお姉さんと瓜二つだった。


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