チルド室

鋭利

チルド室

冷蔵庫にチルド室ってあるじゃないですか。

私が小さい頃 夏休みによく遊びに行ってた祖母の家の台所にね、マグネットなんかが沢山ついてる、少し古びた冷蔵庫があったんですよ。

開けると上の方の大人の目線のあたりに、よくあるカバーがついた引き出しみたいになったチルド室があるやつ。



それで、そこにいつも、ちっちゃい真っ黒くて中身が見えないバターケース?みたいなのだけが、ぽつんと置いてあってね。それが物凄い臭かったんです。いや、なんていうか、正確には酢の物みたいなのの強烈な臭いが、周りのにおいを打ち消すみたいに漂ってて。


その奥から、時々、何かが腐ったみたいなにおいが細く、臭ってたんです。



んで、何がこんなに臭いのかなぁ、ってちょっと覗いて見たら、その奥に、やけに綺麗な小さくて丸い石みたいなのが1つ見えたんです。なんで冷蔵庫に小石?とか私冷蔵庫開くたび思ってて。


でも、おばあちゃんにそのことを聞いてみても、あははって笑うだけで 何も言ってくれなくて、怖いだけだし 結局よくわからないまま、いつもおばあちゃんと一緒に縁側でアイス食べたりして過ごしてました。その時間がすごく心地よかったし、今も時々思い出すんですよね。








まぁそんなことはよくて、私が大学生になったあるお盆休みの時期にね、久しぶりに祖母の家に家族みんなで行って2、3日泊まらせてもらうことになったんです。


到着して早々、揺れる風鈴とか見て うわ懐かしいなぁなんて思いながら、喉が乾いたんで、おばあちゃん麦茶もらっていい〜?って冷蔵庫を開けたんです。

そしたら、その瞬間ツンと鼻を刺すような臭いがして。



あれから7、8年経ったのに、まだ、

チルド室の奥の方に、あの真っ黒い入れ物と小石があるのが見えたんです。

私ぎょっとして、気味悪いなってその時はすぐに冷蔵庫を閉めて、代わりに蛇口を捻って水を飲んだんです。



でね、それからね、晩ご飯をご馳走になるって時に、○○ちゃん冷蔵庫からお豆腐とってー って言われて

開けてみたら、増えてるんです。小石が1個から、5個ぐらいかな、複数個に増えてたんです。


それでね、その後もみんなでアイスとか食べよーって時とかに、アイス取るついでに覗いてみるとね、どんどん増えてるんです。

もう10個以上はあったんじゃないかな、なんだか、

その真っ黒い入れ物を囲むみたいに増えてたんです。



それであのなんか、その入れ物から、濁った汁みたいなのも出てて。

腐った臭いもより一層強くなってて、刺激臭と混じって、もう本当に吐き気を催すほど酷い臭いがしていたんですよ。

私は本当に気持ち悪くて、何のために保管していて、なぜこれを誰も不思議に思わないのか、恐怖を覚え始めてました。









でいよいよ帰るってなった日の夕方、玄関までみんな出てきた時に、母親に


「そういえばこっちでお土産を買って冷蔵庫で冷やしてたから、持ってきて。」


って言われて、うわ冷蔵庫か、嫌だなって思ったんですけど しぶしぶ台所に入ったんです。



そしたら何かシンクの中に黒い物が置いてあるのが見えたんですよ。そこで、私の悪い勘は当たっちゃって、それあのチルド室にあった入れ物で。


私は凄く怖かったんですけど、もしかしたら中身の正体が分かるかもって好奇心の方が勝って、恐る恐る近づいていこうとしたんです。


なんですけど、1歩踏み出してみると そこら一体がもう、とても近づけないくらいの、まぁ酷い悪臭がするんですよ。何か、豚肉なんかが腐ったのを、長いこと放置したらこんな感じかなって臭いがしてたんです。



私はなんかそこで、みなきゃ って

衝動に駆られて、シンクの中を見に行って

そしたら、あの黒い入れ物の蓋が開いてて




そこから濁った液体が排水口まで伝って流れてて、

中では どす黒くて、鮮やかな赤がちょっと混じった感じの色をした、肉みたいなのと、

ぐちゃぐちゃになった大量の蛆や羽虫みたいなのが一緒になって蠢いてたんです。




うわ   ってそれから視線を逸らしたら、

シンクの隣のまな板の上に、箸と包丁が置いてあって、

どうやら丁度、入れ物の中の「それ」をまな板に移してたとこだったみたいなんですよ。

不思議とか恐怖とか通り越して もう私声も出なくて、とにかく台所から早く出たかったので、用事を済ませるために冷蔵庫を開けたんです。



そしたら、チルド室が、びっしり積まれたあの小石で埋まってるんです。

私そこで分かったんですけど、それよく見たら多分

ばらばらにした数珠で。


ぐわって嫌な感じがお腹から喉の方までせり上がってきて、お土産を乱暴に取ったあと 一刻も早く家族の元に戻ろうとしたんです。



そしたら台所から玄関に繋がる所におばあちゃんが立ってたんですよ。

それで、声を絞り出して「これ、おばあちゃん何してるの?」って聞いてみたら




おさまりきらなくてねぇ




って言って、眉を下げながら、悲しんでるのか喜んでるのか分からない様な見たことない顔で、ニタニタ笑ってたんです。

その時私は、これ以上ここに居ちゃいけないって感じて、「そっか じゃあね」って挨拶をしたあと、足早に家族のところに戻って、祖母の家を後にしました。






…まぁ、それだけのお話です。そうそれだけ。

あんなこともあったなぁって今ふと思い出したんで。ちょっと変な話ですよね、すみません。

あれ以来あの家に行ったことはないです、行く気にもなれないですけど。


おばあちゃんの方は、あれから持病が悪化して入院しちゃったんですけど、今も電話で時々話すし、元気みたいです。だから、本当に、大丈夫なんです、なんにも心配なんてすることなくて、みんなあんな事すっかり忘れてて、てかそもそも知らないみたいで、心配しないでください、なんでもない話なんです。

でもまぁ、結局おさまりきらなかったから、もうなんでもなくしちゃったってことみたいですけど。





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チルド室 鋭利 @eiri00

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