第11話


 むかしむかし、フェアルース精霊国は豊かな土地として近隣国で有名でした……


 他国からは山や森、崖に囲まれ陸の孤島と揶揄されたりもしましたが……

 フェアルース精霊国は花が咲き乱れ、緑が生い茂り、おいしい果実や野菜が1年中実り精霊が飛び回る。精霊に愛された、とても美しい場所でした……


 国民は精霊を信仰し、精霊と共に生きる純粋で素朴な人々ばかりでした。

 フェアルース精霊国では何千年も前に精霊と人とが交わりできた国とされていたほど精霊と関わりが深かったのです。


 かつての先祖に精霊王の子がいるとされた6つの家が中心となり国を運営しており、それぞれの家には火の精霊王、風の精霊王、土の精霊王、水の精霊王、闇の精霊王、光の精霊王からいただいた宝珠があり、それはそれは大切にしていたのです。

 そのため国民には精霊の血がうっすらと混ざっていると信じられていました。

 その証拠としてあがるのは……精霊の加護をもらいやすいということでした。他国と比べると圧倒的に差があったのです。

 そして、髪の毛がカラフルなことも……なぜなら、親子で髪色や瞳の色が違うなど日常茶飯事で精霊の血がそうさせているのだと信じられていたそうです。


 血筋によりもらいやすい加護があること……例えば、赤い髪の子は火の精霊の加護を。青い髪の子は水の精霊の加護をもらいやすいなど。そして、加護がある属性の魔法ほど覚えやすかったり、威力があがること、相性がよいと精霊と契約までできるということも……精霊のお導きという不思議な現象も精霊国では常識だったのです。

 

 なかには血が混ざったり複数の加護を受けて紫やグレー、ピンクなどの髪色のひとも多くいました……時々、全く違う加護をもらうひともいれば加護がなくとも魔法を自在に使えるひともいたのでそれがすべてではなく、なんとなくの目安とされてはいたものの、優劣などなくみな平和に暮らしていました。



 「……ここまではいいかい?」

 「うん」

 

 わたしたちの先祖は精霊信仰だったんだ……国の名前はフェアルース精霊国かぁ。

 そして、髪がカラフルなのは精霊の血筋なのね。わたしにも精霊の血が流れている可能性があるなんてロマンがあるよなぁ……オレンジ色ってどんな魔法が覚えやすかったんだろう?

 ん?ということはずっと教会跡だと思っていたこの建物も、精霊を祀っていた場所だったのか……



 ◇ ◇ ◇



 おばばさまは少しつらそうに続きを語り出した……


 

 今から60年ほど前……

 ある日突然、友好国だと思っていた隣国ドゥルーダ帝国が豹変し、フェアルース精霊国はあっという間に蹂躙されてしまったのです。

 フェアルース精霊国は小さな国でしたが、国民の魔力が他の国より多かったこと、帝国が唯一神と崇めるドゥルーダ神を信仰していなかったことに密かに目をつけられたのです。


 ドゥルーダ神は帝国ではこの世界を作ったと祀られていて、帝国が世界の中心だと信じていたので精霊を信仰し、精霊国を名乗る小国が気に入らなかったのでしょう……


 その上、フェアルース精霊国の資源が豊富なところも大きかったようです。


 帝国の人々はいつからか魔力が少なくなっており……魔法による古代の文明は廃れていき、少ない魔力で使える魔道具や魔石が生活や戦争に必要不可欠となっていました。そのため魔石を採掘することのできる鉱山は垂涎の的だったのです。



 ドゥルーダ帝国が攻めてきたとき、精霊国民だって手をこまねいて見ていたわけではありません。

 魔法を使うこともできたし、精霊と交流だってありました。人によっては精霊と契約していたため立ち上がった者も多かったのです。

 しかし、何故かいつものように力を出せず次々と帝国に倒されてしまいました。


 精霊たちと契約していたものが力を発揮できなかったのは、精霊王たちから授けられた宝珠をあっという間に破壊されてしまったためでした。

 破壊されると精霊王の力が一気に弱まり……他の精霊にも影響し、いつもの力が発揮できなかったのです。


 宝珠についても精霊国の人々は隠してはいなかったし、聞かれたらなんの疑いもなく話してしまったので帝国はまずそれらを標的としたのです。


 人々は抵抗しましたが力及ばず……精霊国は地図から消え去ってしまいましたとさ……


 「ま、こんなもんかね……」


 しかし、その話には続きがあって……精霊国を占領したもののなぜか帝国人だと森では迷い、鉱山では毒ガスや強力な魔物が出たらしい。

 そのため元精霊国の人々を利用することにしたんだって……彼らだと帝国人ほど問題も起こらなかったため、当初の計画(帝国内で奴隷として売られる)を変更したそう。


 天然の要塞をそのまま利用して奴隷施設にしたらしい。ある意味植民地化したってことかな。


 森や鉱山を利用できるのはきっと精霊の加護があるか無いかの違いじゃないかな?

 もしくは偶然……いや、ないな。今でもうっすらと加護はあるから森や鉱山で過ごせるとか?

 時々、腕に変わった模様が浮かび上がるのは先祖返り的なものだろうか。


 きっと、精霊国の人たちあまりにも純粋すぎたんだろうな……そこを帝国に突かれたってことか……聞いた感じ虎視眈々と狙ってた雰囲気だわ。 

 


 「にげたひとはいなかったの?」

 「わずかにはいるだろうさ……でも、ここは故郷だからね。精霊様は見えなくなってしまったけど、きっとどこかにいるから……と逃げずに残ることを選択したひとが多かったのさ」


 そして、元々国外で暮らしていたもの達もいて、精霊の加護がない土地だと体が弱るという情報があったらしい。そのため逃げることを躊躇したひとも……


 「そうなんだ……おばばさまは魔法はつかえないの?」

 「残念だけど使えないんだ……精霊国では魔法は危険性を考え12歳から学ぶことになってたのさ。まぁ、8歳ぐらいから魔力を感じる練習はするんだけどね。それに当時、魔法使いは見つけ次第牢に入れられたり処刑されたりしてね……魔法の素養はあっても実際に行使できなかった子供らは生き残ったが使い方は知らないままさ」

 「……そっか。おばばさま、むかしはどれくらいのひとが魔法をつかえたの?」

 「そうさね……10人のうち6、7人ぐらいさ。訓練次第ではもう少し……かな」


 今は誰も魔法を使えないのか……でも、昔はそれだけのひとが使えたなら可能性はありそうだよね……



 「へぇー……くんれんってどんなことしてたのかな?」

 「私も当時はまだ魔力を感じる練習中だったからねぇ。親や先生の手伝いがないと練習もままならなかったからよく知らないんだ。まずは魔力を感じることから……それができれば魔法が使える可能性があるだったかな?あと、精霊が手伝ってくれるとかいう話もあったような……」

 「そっか……おばばさま、話してくれてありがとう」


 質問責めにしてしまった……新たな情報が多すぎて……止められなかった。あと10倍くらい聞きたいことはあるけどね……


 「いや、私も懐かしかったからね……また、なにか思い出したら話してやろう」

 「うん!」


 うーん、魔力を感じることからと精霊さんのお手伝いかぁ……精霊さんはともかくとして、魔力を感じることってやっぱり瞑想で間違ってなかったかも……しばらく瞑想頑張ってみようかな。



 ◇ ◇ ◇


 

 おばばさまの話を聞いてわかったことも多かった。

 そして、重要な情報もあった!帝国の人々は魔力が少なくなっていて、魔法は廃れていること。

 それに少ない魔力で使える魔道具や魔石が必要不可欠ってところだ。

 魔石や魔道具の存在は知っていたけど、魔法についてはなにもわかってなかったからね。

 60年前にそうなっていたのなら、今は魔石に魔力を込められる帝国人なんていないんじゃない?

 わたしたちなら魔力量も腕をみれば簡単にわかるもんね……そりゃ、子どもを増やさせようとするわけだよ……


 それに、帝国の神はドゥルーダ神っていうことも知らなかったし、ドゥルーダ帝国っていうのも新情報だね……いつも神よとしか言わないから。

 それにしても不思議なのは食事の度に帝国のドゥルーダ神に祈ることを強要するのはなぜだろうか。

 強要するくせにドゥルーダ神について教育はしないのって矛盾してる気がするんだけど……徹底的に洗脳してもおかしくなさそうなのに。

 5歳まで育った場所でも食事のときに『神よ、日々の恵みに感謝します』は必ず言うようにしつけられた。子供に教えるにはこれが限界だったのかな……

 帝国ではもっと長い文言で祈るらしいけど……


 どうしても裏に何かあるのではないか?と疑ってしまう。

 今ですら祈らなかったのを見咎められれば隷属の魔法陣を通じて痛めつけられるんだから余計に……まぁ、毎回見張ってるわけじゃなくて、数日に1度は抜き打ちでチェックされるってみんなもわかってて、ちゃんと祈ってるので無駄足だけどね。

 


 例えば……信仰が強まるとドゥルーダ神が降臨するとか?

 うーん……この地に帝国の神を浸透させたかったのかな……でもそれならドゥルーダ神についてきちんと教育した方が信仰は高まりそうだよね。

 それともドゥルーダ神に祈らせることでこの地の精霊に力を与えたくないとか?

 あー、わかんない……


 とりあえず、気になることは片っ端から試してみることにしよう……なにかわかるかもしれないし。

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