第10話

 そして、わたしもみんなに触発されてなにか新たなものを作りたくなった……時代の先端をいかなくては!わたしはこの部屋のわらじのパイオニアなのに!


 結局、思い付いたのは前世で藁できた雪用のブーツみたいな靴。

 でも試行錯誤しても編みかたがわからなくて渋々あきらめた……カーブ部分が難しいんだよぉ。

 その代わりとして作ったのはすね当てである。

 板状に編んだ草をすね当てのようにぐるりと巻きつけ、よったひもで結ぶだけの簡単なものだったけど、これのおかげで草むらでの擦り傷が激減した!防御力アップである。

 調子にのって同じものを腕当てとしてつけたら、腕が使いづらくなったので却下。もっと柔らかい素材でないと動きに支障がでてしまうのだ。残念。

 でも、すね当ては防寒具としてもかなり優秀な気がする。 

 前世でも太い血管のある場所をあたためると……とかあったじゃない?つけていると、足先の冷えが違うんだよね。

 

 うん、昔話の絵本とかに出てきそうな格好をしている自覚はあるのだ。

 まあ、服はボロボロであちこちポロリしちゃいそうなくらいだし、作ったものたちが意外と機能的にも優れているので問題ない。でも、さすがに下着は雑草で作れなかったよ……バナナの葉みたいに大きな葉があればふんどしもどきが作れそうなのになぁ。え?いま?ノーパンですがなにか?

 え?ぼろ布で作れ?……衛生的に不安なので却下です!食べ物は毒草でもばくばく食べるくせに変なとこでこだわってるって自分でも思うんだけど、ばっちいふんどしよりノーパンがマシだって、思っちゃうんだもん。

 

 草を集めるのが大変だったけど、思っていた以上にいろいろなものが用意できてよかった……最後の方は周辺のい草もどきや使えそうな草を刈り尽くす勢いだったしね。


 

 余談だが……試しに魔石の受け渡しに完成した腰簑やわらじをつけたまま行ってみたのだが……見張りたちはチラリとこちらを見たけどなにも言われなかった!

 でも、大人の奴隷のたちにはかわいそうな子を見る目で見られてしまった……内心ドキドキしつつも、フランカお姉ちゃんについて回るボーッとした子の演技をしたり、虚空をみつめてヘラっと笑ったりした成果……だといいな。


 ちなみに見張りには防寒具たちはただの草の塊にしか見えないようで、部屋の草布団たちや座布団には見向きもせず、受け渡しにフランカお姉ちゃんが腰簑をつけていってもスルーされ取り上げられることはなかった。

 あとはどこまでスルーしてくれるかが問題だ。見張りの目が節穴なのはこっちには都合がいいんだけどね。

 思うんだけどさぁ……見張りって仕事してる?ってくらいほとんどの帝国人はやる気がなさそうなんだよね。

 でも、時々鋭い目とオーラをまとったひとが数人いるんだよなぉ。

 大体そういうひとの胸辺りに勲章らしきものがいくつもあるので多分、お偉いさんかやり手のひとだと思う。

 つまり、そこらへんで普段偉そうにしている奴らは帝国では下っ端兵士ってことか。そして、その下っ端に命令されているわたしたち……ちっ。


 勲章(仮)があるひとたちに目をつけられたら面倒そうなので、なるべく気配を消したり視界に入らないように気を付けている……

 ただ、はじめて遭遇した時には腰簑状態だったからなぁ……スルーされたとはいえ、どう思われているかは微妙なところだな。


 ◇ ◇ ◇


 防寒具や草布団作りもひと段落し、それぞれが自由に過ごす中、わたしは中断していた瞑想を再開した……が


 「あー……全っ然、だめだぁー」


 雨の音で集中が途切れた。いや、元々瞑想が苦手なだけかもしれない……

 ポツポツと降りだした雨があっという間に大雨になったようだ。

 先程から天井からザーザーと雨が降り注いでいる……そう、少し前から長雨の季節がはじまっていた。


 それにしても、雨の勢いすごいな……これならしばらくは降っているかな?


 「うーん……水あびしようかな?いっしょにするひとー!」


 思う存分水浴びができるっていいよね……パーテーションとか目隠しがないのが残念ポイントだけど。え?羞恥心……そんなものより清潔さよ!今は雨雲で月が隠れて薄暗いし、ちょうどいい。それに、わたしちびっこだし!へーき、へーき。

 ちなみに、部屋の天井には大きな穴が空いているが……周囲の壁はこの部屋で一番大きいグウェンさんよりも高い位置にあるので外からみられる心配はないのである。


 部屋のイメージとしてはこんな感じだ……


  ┌出入口────┐

  │■■ 水   │

  │■■■    │

  │■■■■   │

  │■■■■   │

  │壺■■  布団│

  └───────┘


 ■は天井の穴……というか空が見える場所で布団は草布団がまとめて置いてあり、その一角でマチルダさんが寝ていることが多いかな。

 水は水瓶で、壺はトイレをしめしている。

 他にも雨漏りする箇所もあるけど、大体こんな感じで身を寄せあって生活している。

 長雨の時期は水浴びができるのと同時に生活空間が一気に半減してしまんだよねぇ……


 防寒具があるおかげで、服ごと水浴びしても寒くて震えることはなくなった。やったね!

 水浴び後、素っ裸にい草もどきの防寒具やエプロン服(マチルダさん考案のやつ)を身に纏って、ボロ布製の服はちぎれないようにそおっと干しておけば、明日の朝には着れるくらい……ジメッとしてるくらいには乾いているのだ。それでも寒かったら、草布団に潜り込めば意外と大丈夫。


 作ってよかった防寒具!そのおかげでみんなも水浴びするようになって、清潔度がぐんと上がったんだ。

 清潔は健康に繋がると信じて、みんなに水浴びをすすめつつ、ハワードも花の蜜をだしに使うことで洗わせてもらっている……うん。花の蜜に反応するってことは少しずつでも自我が戻ってきてるのかな?それなら嬉しいな。


 「おや、メリッサ。水浴びするのかい?」

 「うん。おばばさまもする?てつだうよ?」

 「そりゃ、ありがたいね」


 今日はおばばさまと一緒に水浴びすることになった。ふたりで交代しつつ手の届かないところを擦ったり、服の洗濯をするのだ。手でごしごしするだけでも垢がポロポロとれるのだ。

 はじめて、水浴びをしたときの衝撃ったら……ちょっと手に力をいれて腕をなぞっただけでポロポロと……ショックすぎて鳥肌立ったわ!

 贅沢をいえば、ムクロジみたいなものがあればなーって思うけど、ないものは仕方ないよね。もちろん、石鹸なんて見たことないよ?それに近いものは存在はしてると思う……下っ端のクセに小綺麗にしてる帝国のやつらがいるんでね!毎日ではなくても水浴びする習慣はあるっぽい……もしくは魔道具かもなぁ。けっ!



 雨の降る日にもよるけど……この季節だと3、4日に1度は水浴びができるようになったと思う。毎日のように雨は降るけど、自由時間に雨が降り、なおかつ水浴びできるほど……ってなるとどうしても限られてくるのだ。

 髪の毛はその時の寒さによって洗ったり洗わなかったりだけど……次にいつ洗えるかわからないのでなるべく洗うようにしてる。

 濡れた髪の毛は極限まで絞ってから結ぶんだけど、これ絶対髪が傷むやつだって思いながら寒いよりはいいって割り切ってる。しかも、まともに頭を洗うことになってはじめて自分がくせっ毛で緩くウェーブをかいていると気づいた。どれだけ汚れがこびりついてたんだっていうね……水浴びは衝撃的なことばっかりだったよ。


 ほんとは毎日でも水浴びしたいけど、自由時間も限られているし難しい……水浴びができるだけマシだと考えるようにしてる。

 みんなは5日に1度くらいの頻度かなぁ……体調や気温にもよるからさ。

 それに最初はみんな水浴びに乗り気じゃなかったんだよね……拭くだけで十分だって。

 やっぱり雨に濡れたままは危険だから躊躇してしまったんだよね……生死をさまよったわたしが言うんだから間違いない。

 それでも防寒具が出来たことと、おばばさまが率先して水浴びに参加してくれたことでようやく習慣になってきた。


 余談だが、わたしたちの髪の毛は長いひともいれば短いひともいるのね。

 茶色や金髪、濃紺などの帝国によくいるカラーのひとはカツラ用にパン1個とか野菜1個で髪の毛を買い取ってもらえるらしい……

 はじめて聞いたとき、カラフルな髪は差別対象なのにそれは買い取って(物々交換)までカツラで利用するんだって思ったよね。

 だって、親がカラフルな髪で子供が茶髪っていう場合もあるのにさ……見た目でしか判断してないんだなーって。

 まぁ、ほとんどのひとがカラフルな髪をしているので少数らしいけど……あ、でもハワードは濃紺だからか1年に1度カットしてもらっているとか。

 マイケルじいちゃんやグウェンさんは魔方陣作りの道具で時々バッサリカットしているため短髪で、マチルダさんは濡れた髪で体を冷やすとよくないと短めのボブだ。

 もちろん使った道具はその後きれいに掃除して返却するのだが、意外とバレないらしい。

 結構、そうやって工夫(道具でこっそりとか石を割ってナイフにとか)して短くしたり髭を剃ったりする人も多いみたい。やっぱり長い髪は作業するときに邪魔くさいからかな。

 わたしも腰くらいまで伸びてきて鬱陶しくて……ぼろ布の細長いので結んだり、そこら辺の細い枝をかんざしがわりに使ってまとめてるんだけど、今度切ってもらおうか考え中……だったが、なぜかみんな反対らしいので切ってもらえなそう。

 自分では絶対、切るっていうよりちぎりってひどいことにかねないし、上手く切れても全体をみたらガタガタだったなんてこと請け合いなので、もうしばらくはこのままかなー。



 ◇ ◇ ◇


 一応、マイケルじいちゃんやグウェンさんは気を使って反対側を向いてくれる(トイレも暗黙のルールで同じようにしている)ので、遠慮なくごしごし……

 最後にいい匂いだけど、生食には向かない草を体や服に擦り付けつければ終了だ。

 いい匂いだと気分がよくなるよね?

 あ、毒はないよ?食べたらちょっと吐き気を催す草なんだけど、肌に擦り付ける分には問題ないみたい。

 一応、いくつか匂いのいいものをピックアップして試した。

 匂いだけで選んだから、食ベたことのない草も混じってしまったので安全性のためにも、少しでもかゆくなったり、ヒリヒリしたりと変に感じたやつは却下した……え?試したのはわたしじゃなくてグウェンさんだよ?

 わたしはどれも平気だったので、グウェンさんが体を張って調べてくれたのだ。ありがたや。


 基本的に水浴びは2、3人で協力しながら浴びるような感じ……

 グウェンさんは片腕が無いので洗いづらいところを手伝ったり、マチルダさんはずっと立っているのがしんどいようなので支えないと危ないし、ハワードは花の蜜で釣ってその間に洗う。

 おばばさまとマイケルじいちゃんは年齢的にも心配だからね。雨だから冷たいし……協力すれば短時間で済むのも大きい。

 わたしとフランカお姉ちゃんはひとりでも平気だけど、どうせならって誰かと浴びてるかな。

 まあ、なるべくちびっこのわたしが男衆を担当するようにしてるので、おばばさまと水浴びするのは結構珍しいことだったりする。



 おばばさまの体にいい匂いの草を擦り付けていたとき……


 「おっ!おばばさまこの模様って?」


 おばばさまの腕の内側に細い蔦に絡まるように羽の様な模様を発見した!

 これがマイケルじいちゃんの言ってたやつかな?

 へぇ……こんな感じなんだぁ。


 「これかい?」

 「うん。きれいだね!そういえば……むかしはこういう模様があるひとがたくさんいたんでしょう?」

 「あぁ、これは精霊の加護のしるしだと信じられていたのさ。それこそ力のある精霊ならもっと大きな模様だったそうだけど……大小あわせれば国民の半数以上にあったらしいよ」

 「精霊のかごかぁ……じゃあ、おばばさまにも精霊のかごがあるってことっ?」

 「……どうだろうね。今となってはわからないねぇ」

 

 なんか精霊とか加護とかファンタジーな話がでてきたぞ!まぁ、魔方陣とか魔石とかも十分ファンタジーなんだけどね。

 えっと、国民って……帝国のことじゃないよね?


 「おばばさまはこうなるまえのことって知ってるの?」

 「ん?こうなる前……ああ。私たちが奴隷になる前のことかい?」

 「……うん」


 死にかけグループでもおばばさまは長生きしているみたいだし……もしかしてって思ったんだ。

 まぁ、それが何百年も前の話とかなら知らない可能性も出てくるけど……時々、おばばさまの口から昔の話が出てくるし、そこまで昔じゃないと思うんだけど、どうだろうか?


 「そうさね。こうなる前を知ってるのは私の年代で生き残ってるひと握りくらいか……マイケルは幼すぎてほとんど憶えてないだろうし」


 あぁ、やっぱりおばばさまは生き証人なんだ……マイケルじいちゃんが幼い頃ってことは5、60年くらい前ことなのかな?


 「できればおしえてほしいです!」


 どうしてわたしたちが奴隷になったのか。そして、魔力についてヒントはないか。食事の時に祈らされる神を元々崇めていたのかなど、知りたいことがたくさんある……



 「ここで生まれ育ったというのにこうなる前のことに興味を持つとはメリッサは本当に珍しい子だね……私もまだ子どもだったから、大体のことしかわからないんだ……それでもいいかい?」

 「はい」


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