第8話


 そうだ!よいしょっと……


 「おばばさま……これとかこれはたべれる?」


 ぼろ布に包んで隠し持っていた雑草たちをおばばさまの前に広げていく。じゃじゃーん!


 「うーん、どれどれ……子供の頃の記憶だからねぇ」

 「ちょっと、俺にも見せてみな!」

 「うん」


 どうかな?食べられるものあるかな?わくわく……


 「これは食べたことあると思うね」

 「お、これは俺もあるぜ!あー、でもこっちは毒草だな……食べたら数日は腹痛で苦しむぞ。あとこれも口にするとしばらく痺れるはずだ」

 「そ、そうなんだ……」


 ふむふむ。おばばさまとグウェンさんのチェックの元、いくつかのものが食べれることがわかった。そして毒草も……中にはわたしが普通に食べていたものも含まれていた。さっきも無意識でむしゃむしゃしてました……全然お腹もいたくないんですけど。

 そもそも、全部食べれると思って持ってきたのに半分くらいは食べちゃいけない草だったなんて地味にショックだ……お腹がいたくなるという草を食べても全然平気だったし、口にすると痺れる草はピリピリしてて、味はマシな方だと思ってたのに……


 ふぅ。みんなにむやみやたらに雑草わけなくてよかった。


 「あ、でもこれは火を通さないとえぐ味がすごいはずだよ」

 「まー、食えねぇことはないけどな」

 「でもたべたら、ちょっとはおなかもふくれるし、えいようもあるよね?」

 「……えいよう?はなんだか知らないけど、食べないよりは腹が膨れるかもしれないね」

 「まぁ、食わないよりは膨れるわな」


 そっか、栄養とかの概念はないのか……お腹が膨れるかどうかの方が重要かぁ……


 「というかメリッサよ……なんでこんなに雑草を集めたんじゃ?」

 「た、確かに。き、今日頑張って集めてました」

 「ん?前のへやのときからときどきたべてたから?」


 「「「「「え?」」」」」


 そんなに驚くことかな?


 「それは、前の部屋で食事を分けてもらえなかったとか、そういうことかしら?」

 

 え、マチルダさんなんか怒ってる?ほかのみんなも眉間に皺寄せたりしてどうしたんだろ?


 「ううん、ちゃんともらってたよ?でも、おなかすくからむしってたべてたの」

 「そ、そう……」

 「あれもひじょうしょくにつんできたの!」

 「雑草が非常食……」


 みんなのために自分の分を減らそうとしたとは知らせない方がいいような気がして、とっさに非常食にしてしまった。間違ってはないか。


 気まずい空気が流れるなか雑草の仕分けを再開……ほ、ほらほら、まだあるよー?


 「おおっ!こいつはすげぇぞ!」

 「んー、それかい?私は知らないねぇ……」

 「おう!これは俺たちが森で採取してたもんだ!」

 「え、えっと……わ、私も見たことあるような気がしますっ」


 グウェンさんが指差したのはギザギザした赤い葉が特徴の草で、他の雑草に埋もれるように生えていたものだ。

 赤いから生えていればすぐわかるのに数が少ないのか今日はそれしか見つからなかったんだよね。

 それ、珍しかったから採取したはいいものの……今まで食べた記憶はなかったし、色からして食べられるか微妙だったので、あとでほんの少しだけ食べて具合悪くならないか様子見しようと思っていたんだけど……

 ちなみに、念のため雑草たちは採取後に水ですすいであるので、すぐに食べられる仕様だ。安心してくれたまえ。


 「これは他に似た草がないから間違えようがねぇ!」


 グウェンさんがすごく興奮している……珍しい雑草だとは思ったけど、そんなに美味しいのかな?


 「えっと……それ、おいしいの?」

 「美味いかどうかは知らねぇ……が!これはポーションの材料になる草らしいぞ!」

 「へぇ……」


 ポーションとかあるんだ……新発見。


 「まぁ、採取しかしてないからポーションの作り方は知らねぇけどな!」

 「ポーションか。私も知らないねぇ……」

 「へぇー」


 でも、せっかくあるんだから試してみたいよね。

 ということで……


 「よし、ポーションつくってみよう!」

 「作り方はわかんねぇんだぞ?」

 「うん、だからこうやって……」


 まず用意しますのは、器と水。そしてポーションの草でごさいます。すりつぶすための石などがあればさらによいでしょう……今日はそこにある魔石で代用します。


 ということで……器にポーションの草を入れ、水で洗った魔石でゴリゴリ……


 「メリッサ……いくら石がそれしかないからって」

 「そうじゃの……」

 「ま、魔石は結構頑丈だしいいんじゃねーの?」

 「て、手伝いますっ」

 「ありがとう……でも、もうできたよ!」


 すりつぶした葉っぱに水を加えて……赤茶色のドロドロのポーションもどきが出来上がった。

 見るからに美味しくなさそう……


 「な、なんとも言えない色味だね」

 「おう……」

 「うーん……のんでみる?」



 当然、断られると思ったのにハワード以外は首を縦に振った。

 そうか。みんなが嫌がるなら、わたしだけでも試してみようと思ってたのに……いくらポーションの材料とはいえ、草をすりつぶしたものだよ?みんな意外と勇気あるんだね。


 「でも、マチルダさんものんでだいじょうぶかな?」

 「そうだね。ポーションなら喜んで飲ませてやれるけど、これはねぇ……」

 「大丈夫ですよ。それに、効果がもしあるなら私がいちばんに感じるはずだもの」

 「そうかい」


 どうやら、マチルダさんの意思は固いようだ。出来上がったポーションもどきの器をガシッと……つかんで離さない。絶対、飲むってことだね?


 「う、器にわけましょう」

 「そうね」

 「うん」


 6人でわけたらひと口分くらいの量になった。試してみるにはちょうどいいかな。


 ハワード以外(ハワードはいまだに真顔で蜜をチューチューしてる)の全員が車座になって座り神妙な面持ちで……


 「「「「「「……いただきます」」」」」」


 一気に飲み干した……


 「にがーっ!」

 「うえぇ……」

 「うわっ、苦げぇ……」

 「……ごほっ、ごほっ」


 まっず!


 それぞれが苦味とえぐ味に悶えつつ、少しでも口の中の不快感をなくそうと水を飲んだり蜜をチューチューしたり……


 「ふぅー……ようやく苦みが消えてきたぜ」

 「強烈じゃったのぉ……」

 「ええ」


 今まで食べた雑草のなかでもトップクラスに美味しくなかった。


 「まずかった……」


 ……ん?少しだけ怠さが軽減されたような気がするぞ?


 「おや……効果ありかい?」

 「うむ」

 「な、なんか効いてるような気がしますっ」

 「ええ……私も少し体調がよくなった気がするわ」

 

 それぞれが体調や調子の悪いところがほんの少し改善したらしい。プラシーボ効果かもしれないけど、本当に効いてるのならすごいことだ……だって、たったひと口でこんなに効果を感じるならたくさん飲んだら……あ、ものすごく苦くて水を飲んでも口の中にずーっと味が残るから大量に飲んだら逆に吐いてしまうか。

 難点もあるが、貴重な発見だ。

 

 「メリッサ……これは見つけたらなるべく採ってきておくれ」

 「はい!」

 「メリッサ、この薬草は全部採り尽くさないよう気を付けろよ。葉を数枚残すことと根を傷つけないよう注意するんだ。そうすればまた採取できるからな!」

 「わかった!」


 今日、全部採り尽くさないで正解だった。味見程度に考えて採取した数時間前のわたし、ぐっじょぶ!……うん、場所もなんとなく覚えてる。


 「わ、私もさ、探してみますっ!」

 「2人には苦労かけるが頼んだよ」

 「「はい!」」


 その後、おばばさまとグウェンさんが食べられると言ったものをみんなでわけて完食……雑草かぁと若干躊躇していたけど、おばばさまの食べられるという言葉を信じ、貴重な栄養源だと食べきった。

 そして、さっき不味いのを飲んだせいか普通に食べることができた。味覚が麻痺しているうちに食べたともいう……


 え?……ハワード?わたしがもう花を持ってないとわかると雑草には見向きもせずに定位置に戻ったよ。なんだったんだろうね?


 毒草は……残念だけどポイした。わたしは食べられるけど、みんなに心配されること間違いないから。

 そこの君!真似しようなんて考えないように!

 ファンタジーな今世ではたまたま問題なく食べられただけなんだからね!

 専門家の指導なしに実際にやったらどうなるかわからないぞ!非推奨だぞ!



 ◇ ◇ ◇



 それから、ポーションの材料となるこの草を見つけたときは葉を数枚残して採取し、みんなで飲むを繰り返す……とマチルダさんが起きあがっていられる日が一段と増えたのだ!顔色も少しよくなってきたし、本当によかった。

 あんな適当な作り方でも効果あるなんて実はすごい草なのかもしれない。念のため魔石でゴリゴリするのも続けている……なにが効果をもたらしているかわからないからね。

 唯一、ハワードだけ飲んでくれないのが残念だけど。


 ちなみにポーション草(赤いギザギザの葉の草をそう呼ぶことに)はすりつぶさずそのまま食べても効果があるみたいだが、数が少ないのでみんなでわけるにはすりつぶして水を加えてかさ増しすることにしている。

 そのまま食べても味は変わらないのだ……これは、ほんのわずかの量で味見したので間違いない。

 これがすりつぶすことで苦味成分が溶け出して不味くなるとかならそのまま食べたのになぁ……残念。

 ポーションもどきの残りかすはそれぞれが器を指でぬぐい自分の体の調子が悪い場所につけたり舐めたりしている。

 わたしは主に切り傷かな……飲むより効き目は悪そうだけどもったいないし少しは効果を感じるから舐めるより塗ることが多いかなぁ。


  「なぁ、今日は俺がメリッサと水汲みやら行きたいんだが……いいか?」

 「急にどうしたんだい」

 「いやぁ、じっくり探してみたらもっと食える草があんじゃねぇかと思ってさぁ」

 「た、確かに。わ、私も森での記憶も曖昧なので……ポ、ポーション草のように特徴があるものならまだしも、そ、そうでなければ見てもよくわからないかもしれません」


 そうか……【採取、狩猟グループ】にいたグウェンさんならではの視点でみたら別ものもが見つかる可能性もあるか。


 「私も今日は体調がいいから、フランカちゃんが基盤作りを手伝ったらどうかしら?」

 「マイケル、どうだい?」

 「うむ。儂のほうもフランカちゃんが手伝ってくれるなら問題ないかの……」

 「そうだねぇ……念のためグウェンがメリッサと行動するのは食事の後にしたらどうだい?」


 確かにそれならば、午前中に頑張ればノルマの心配も少し減るかも……


 「俺はそれでも構わないぜ」

 「うむ。儂もそれでいいぞ」

 「ええ」

 「わ、わたしも大丈夫ですっ」


 とのことで午後はグウェンさんと行動が決定した。


 ・

 ・

 ・


 「じゃあ、いくか」

 「うん」


 「「「「いってらっしゃい」」」」


 「おう、期待してろよ!」

 「いってきます!」


 バケツと雑草採取用のぼろ布をもって出発……よし、見張りはいないね。ここで見張りがいると動き回れないからひと安心だ。


 「メリッサ、いつもはどの辺を探してるんだ?」

 「えっと、トイレと水くみルートしゅうへんかなぁ?あ、でもポーション草はちょっとはなれたとこ」

 「そうか……まずは水汲みがてら探してみるか」

 「うん」


 グウェンさんは大股でさくさく移動しては、ポーションの材料になるものや食べられる草があるかあちこちをチェックしている……その間、わたしはいつもの採取ポイントで雑草を確認し、採りきらないように注意しながら集めていく……いくら雑草とはいえ念のためね。


 「うーん……この辺はポーションの材料になるもんはねぇな」

 「そっか……」

 「ただ、この草。今はねぇが、花のつく時期があんだ。そんときは花ごと食えるぞ」


 グウェンさんが見せてくれたのは地面を這うように生えている雑草だった。前世の世界のクローバーをもっと大きくして、青みがかった色にした感じかな?よし、クローバーもどきと命名しよう。


 「おおー!……花がないとダメなの?」

 「おう、なんでも草だけ食うと、具合悪くなるんだが花と一緒に食うと平気なんだとよ」

 「へぇ……」


 花には毒を中和する効果でもあるのかな?


 「ただ、花だけ食っても具合悪くなるらしくてな……手を出すやつはいねぇわな」

 「ほー」


 とりあえずクローバーもどきは花と草がセットで必要なのね……わたしはともかくみんなのためにもしっかり覚えとこ。


 「この辺はもうねぇな……ちょっと違う方向に行ってみっか」

 「うん」

 

 その後も水汲みをしつつ(グウェンさんがするとわたしの半分以下の時間で水瓶がいっぱいになった)……いままで行ったことのない方面を捜索した……


 残念ながらポーションの材料とされる他の薬草はみつからなかったけれど、根っこや若葉だけ食べられるもの、ポーション草の新たな生息場所を発見。


 「でも、ここ結構遠いよな?水汲みのついでで来れるか?」

 「うーん……毎日はしんどいかなぁ?」


 ま、1度採ったらしばらく採取できないから問題ないっちゃないか。


 「あ。これ、育てられる?」

 「あぁ?どうだろうなぁ?」


 栽培失敗したら採取出来なくなってしまうデメリットと栽培成功ですぐに採取できたりうまくいけば増やせるかもっていうメリット……むむ。


 「あ!ほかの雑草持って帰って育てればいいんだ!」

 

 失敗しても大して問題ない雑草をうまく育てられれば、ここまでポーション草を採取しに来る時間ができるかも?


 よく食べる雑草をいくつか根っこごと掘り返し、部屋から出たすぐの場所に植えてみよう。あの辺りはなんでか毒草ばっかりだし、ちょうどいいよね!

 クローバーもどきはどうしようかなぁ……今は確実に食べられるものにしとくか。


 「メリッサ、ひとりでニヤニヤしてねぇで教えてくれや」

 「うん!あのね……」


 思い付いた名案をグウェンさんに伝え……


 「ほう。それなら俺や部屋のやつでもすぐに採取出来ていいな!爺さんやマチルダもみんなの役に立てることが増えて喜ぶかもな」

 「じゃあ、持って帰ろう!」

 「おう!」


 ふたりでたくさんの雑草を抱えて帰宅し、雑草の生命力を信じて部屋の外に植えておいた。

 部屋の外なら部屋の中で育てることに比べてメリットが多い。見張りも道端の雑草に見向きもしないはずだし、土や水を用意する必要もないから楽チンだ。


 「というわけで、へやを出たすぐのところに食べられる草うえておいたよ!」

 「そうかい」

 「ほう……」

 「お疲れ様」

 「わ、わかりました!」


 ホトケノザもどきも一緒に植えておいたのでハワードも喜んでくれるだろう。


 みんなの方はフランカお姉ちゃんが魔道具の基盤作りを、マチルダさんが魔石作りを頑張ってくれたらしく……わたしたちがいつもより長い時間を外で行動していてもノルマぶも無事に達成できたらしい。


 今日はみんなの協力のおかげでいくつか食べられるものを新たに発見することができた。

 採取してはいけない毒草など(半分くらい食べたことのあるものだったのは秘密)わたしの知らないものもあったけど、新たに増えた雑草のおかげで、栄養不足もほんの少し改善できるだろう。

 カサカサでハリのなかった肌も少しずつ改善してきているし、ちびっこならではのぷるもち肌が楽しみだ。

 それに、食料が増えて心に余裕がでてきた気がする。

 


 それからもフランカお姉ちゃんとふたりで毎日少しずつ食べられるものを集めたり、いままで行ったことのない方向へ探索することも増えた。

 そして、水汲みやトイレの際にはまんべんなく探せるように毎回ルート変えて、見つけ次第ササッと採取している……手際がどんどんよくなって雑草採取のプロみたいだもん。

 心底見張りがサボり魔でよかったわー。

 そして、トイレ帰りのハワードの手にホトケノザもどきがあることが増えたため、ホトケノザもどきを部屋の周囲にたくさん植えることとなった……だってハワードが採り尽くす勢いなんだもん。ホトケノザもどきって雑草みたいに繁殖力強いのかな?他の雑草に負けるようならこまめに周辺チェックしないとなぁ……

 念のため、他にも嗜好品となる草や花を探しだしたいところだ。


 他の死にかけグループのひとたちにも食用可能な雑草のことを教えたいところだけど、水汲みの時間が違うのか全く会わないんだよね。トイレは使っているひとと遭遇したことないし……


 遠目に多分、あのひとは死にかけグループかな?って見かけるることがあっても話せる距離のときはだいたい見張りのいる場所だから、どうしようもできない……おばばさまやグウェンさんたちが隙をみて伝えてくれる予定らしい。え、なんで遠目でわかるかって?明らかにボロボロの服だから。

 ただ……ほかの部屋のひとたちがわたしたちの言葉を信じて雑草を食べるかはわからないし、毒草を見分けられなかったら本末転倒になってしまう不安もある。

 まずはわたしの手の届くひとたちを優先すると割りきるしかないのかも……


 旧広場地区への道中は見張りがいることも多いから……見たことのない草があっても採取するの我慢しているのだ。美味しそうな花とかあるのに!ポーション草っぽいのもあそこに見えるのに!いつか目を盗んで採取してやるんだからっ!


 こうして食べられる雑草の種類が増えたことで、食生活がほんの少し改善し……命の危険もその分だけ遠ざけることができたのだった。

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