第7話
試してみたいことはたくさんあるけど、まずは命の危険を取り除かなくては……どう考えても食事の量も栄養も足りていないんだもの。
もう少し食べることができれば、マチルダさんだって体調が良くなるかもしれないという気持ちもあるし……わたしもお腹いっぱい食べたいなとも思う。
下手に前世の記憶があるとさ、美味しかったものばかりが思い浮かんで切ないのね……いつか、必ず再現して飽きるまで食べてやるんだ!って思うことで乗りきってる。
そのためにもまずはこの状況を変えていかないとね。
「うーん、身近なえいようげんか……やっぱりそこらへんの雑草をむしるしかないかなぁ」
「メリッサ、何か言ったかい?」
「ううん、なんでもないよ」
「……そう」
雑草ならばわりと簡単に手に入れることができる。
そこら辺にたくさん生えている上、外に出ても水汲みバケツさえもっておけば見張りに咎められることもほとんどない。
こういう面では死にかけグループも悪くない……意外と自由に過ごせるから。
記憶が戻る前にも水汲みの途中に生えていたのを食べて飢えをしのいだこともあるし……死にかけグループに来る少し前の頃にはどの雑草を食べてもお腹を壊したりしなくなっていたからね……ここでもまず雑草を食べてみることを考えた。
栄養源という意味では虫という選択肢もあるんだけど……今世のわたしは食べられるならなんでも平気なタイプだけど、前世の私が拒否してる感じで気が進まない……まずは雑草、そのつぎに虫かなぁと考えている。
でも、雑草より虫の方が栄養ありそうなんだよね……いや、やっぱり雑草からにしよう。だって、火もろくに使えないこの状況で虫の踊り食いはハードル高いって……それに雑草の方が集めるのが簡単だ。虫は探す手間や時間と成果が釣り合わない!……ということにしておく。
さっそく、水汲みの時やトイレの時に周囲をチェックしてみたら……のびるっぽいもの(うっすらネギっぽいにおいがするからいけそう)やツユクサっぽいものを見つけることができた。
以前は手当たり次第に食べていたから良く覚えてない草も多いんだけど……今回はまず、前世で食べることができた草に似たものを中心に選んで、踏まれたり汚れたりしていない比較的きれいそうなものを選んで少しずつ採取。
これを食べればお腹が膨れる……その上、すべてを取り尽くさず次回に残す徹底ぶり……
「ふふっ……」
フランカお姉ちゃんには不思議そうにされたけど気にしな……そんな目で見つめないでっ。ちょっと、雑草ハイになっちゃっただけなんだからっ!
自分でも雑草をぷちぷち折りながら「ふふっ」って笑ってたのはどうかと思うよ……他のひとがやってたらどうしたのかなー?大丈夫かなー?ってなるよ。
「え、えっと……ぐ、具合悪い?だ、大丈夫?」
「いえ!おもいだし笑いですのでっ!」
気分は絶好調であります!……やべ、雑草ハイが抜けきってないぞ。
こういうときは深呼吸だ!
すぅー、はぁー。すぅー、はぁー……あ、落ち着いてきた。
「そ、そうですか?……な、何かあったら言ってね?」
「うん。わたし、トイレ行ってからもどるね」
「わ、わかったわ」
ごめんね。ほんの少しだけ寄り道してから帰るね……サボりじゃないから!食料調達だからっ!
雑草は前世の祖父母と共に山菜採りをしていたから、おぼろげな記憶もあるしなんとなく食べれるものがわかって助かった。
山は虫は多いし足元も悪いし、疲れるから渋々行ってたんだけど……おじいちゃん、おばあちゃん前世ではめんどくさがってごめんなさい!今世でとても役立ってます!
あー……おばあちゃんの山菜の天ぷらとか山菜のおひたしとか山菜の炊き込みご飯たべたい……山菜採りの手伝いのご褒美だったなぁ……
大人は誰ひとりとして雑草に目を向けない。食料になり得るとは考えもしないようで、むしっても生えてくる迷惑な草程度にしか思ってないみたい。ま、雑草だから当たり前か!
そういえば以前も食べていたのは子どもくらいだったような気がする……いや、わたし以外に数人しかみたことないや。わたしの真似して食べてたみたいだけど、その頻度はかなり少なかった。よっぽどお腹すいてるときにみたいなしか食べたくない味ってことだ。つまり、不味い。
ただ、水は多少自由に使えるけど火は決まった場所で限られたひとしか使えないから……生で食べるのは確定だ。
えぐ味や苦味もあるけど食べられなくはない……美味しいとはいえないが多少腹は膨れる。
今は味どうこうより、少しでも栄養があって腹が膨れることが重要なのだ。味より食感を楽しむという境地にいたれば楽しく雑草が食べられるかもしれないけど……
あーあ、ハーブっぽいもの生えてればいいのに……あれなら生でもおいしくいけるやつたくさんあるのにな。
トイレの時にはなるべくひとがあまり歩いてなさそうな所を探す……つまりトイレ処理の最短ルートをさけているのだ……だってたまに地面に落ちてることがあるんだもの。踏んでしまったときなんかテンション急降下ですよ……共同トイレのなかにも罠があるからめちゃくちゃ神経使うんだ……
少し遠回りしながらチェックしていく……と、ホトケノザっぽい花を見つけた。
「あ、これ」
見た目は完全にホトケノザだ。ということは……花を思わず手に取りその場で蜜をチューチューしてしまった……やはり、今世のわたしは食べ物に貪欲みたい。衝動的に動いてしまったもの……
「うわぁ。おいしー」
うん、貴重な甘味であった。
ほんのわずかに感じる甘さだけど、今のわたしにとってはごちそうに近い。日頃が味の薄いスープとあごが鍛えられる固いパンだからね。
ただ、花によっては蜜に毒が含まれる場合があるので注意が必要である……え?これ?大丈夫だって信じてる。大丈夫じゃなくても止められない気がする……どうしよう。
この花はきれいそうなものをぼろ布に包めるだけ採取しておこう。非常食にはならないけど、嗜好品にはなる!場所をしっかり覚えておく。
わたしがこれですこしでもお腹が膨れれば、他のひとがすこしは多く食べられると思う。
みんなには死んでほしくないし、元気に過ごしてほしいから小さなことでも工夫しないと……ちりも積もれば山となるかもしれないし。
他のみんなにも雑草を分けてもいいんだけど、万が一毒があったりした場合が怖いから保留中。自分が毒に当たるのは自業自得でも、他のひとを巻き込むのは……ね。
前世と今世では同じような食材もあるし、大丈夫かもしれないけど……同じに見えてたとしても毒や身体に悪い成分が入ってるものがあったりしたら困るし、悩みどころだ……決して、雑草を独り占めしたいというわけではないので誤解しないように。美味しくない雑草より味の薄いスープどっちがいいって言われたらスープだよ?
でも、全員で生き残るためには我慢も必要だから。
おそらくわたしにはこの辺りの雑草には色々と耐性ができてると思うんだよね……以前から頻繁に雑草を食べていたみたいだし。
たとえ食べた後に多少具合が悪くなっても懲りずに何度も食べていたのね……お腹がすいてたから。
そのうちどの雑草を食べても具合が悪くなることがなくなったから耐性がついたのかなぁって……
帝国にあるという鑑定道具で調べたら毒耐性とかのスキル持ってるかもしれないな……でも状態異常耐性はないと思うんだわ。ソレあったら熱病にならないでしょ……というかあれも伝染性の熱病ではなく、肺炎とかだと思う。
雨のなか水汲みとかワケわからんことさせるからでしょ……高熱だした子どもが多いのは帝国の見張りのせいだ。
あぁ、食べることを考えたらコーンポタージュ食べたくなってきた。いや、コーンじゃなくてもいいジャガイモでもカボチャでもいい。いっそ、ポタージュじゃなくてただ茹でたものでもいい……無能な見張りがジャガイモとかとうもろこしを『家畜の食べ物はお前たちにお似合いだっ』とか言ってわたしたちにくれないかなー?ほら、ジャガイモは毒があるから家畜の食べ物とかって小説でみたことあるよね?
あ、火が使えないから茹でられないか……とうもろこしならワンチャン生でも……
「はぁ……え?」
いつのまにか採取した雑草を無意識でむしゃむしゃしてた……まじか。自分にビックリだわ……
◇ ◇ ◇
部屋に戻り、魔石作りを再開しながらさっそく花の蜜をチューチュー……いや、美味しくてなかなか手放せないんだよ。
なんか中毒性があるっていうか……さすが嗜好品。心なしか魔石作りもはかどってるような?気分って大事なのね。
「……」
「ん?」
あれ?気付けば目の前にハワードが立っていた。えっと、魔石は?まだできていないね……何かあったのかな?
トイレでもご飯でもないのに自分から行動するなんて珍しい……
「ハワード……どうしたの?」
「……………」
……ん?ハワードの視線はわたしの手元に固定されてる?
「あっ!」
あっという間にわたしの手から花を抜き取り口にくわえてしまった。ハワードがこんなに素早く動いたのはじめて見たっ!
「ハワード、だめ!どくかもしれないでしょー!」
「ハワードが自分から動くなんて珍しいな……つーか、メリッサお前!毒かもしれねぇもん食ってたのかよっ!」
「えっ?ど、毒?」
「わたしはおなかこわしてないからたいじょーぶだったにょ!」
それよりもハワードから取り上げないと……あちゃー、チューチューしちゃってるよ。ペッてさせないとっ!
「ハワード!ペッってしないと!ペッって!」
無視するなよぉー!
ハワードの口から奪おうと手を伸ばすが器用に避けられてしまう……くっ、わたしがちびっこなばっかりに……
「……おや?懐かしいね。それなら私も子供の頃に食べたことがあるよ」
「え?おばばさまもたべたことあるのっ?」
「ああ、それなら平気さ。毒はないよ」
「ほんとっ?よかったー」
それなら安心してみんなに配れるね。
「じゃあ、みんなでちゅーちゅーしましょ!はい、どーぞっ!」
「いいのか?」
「はい!」
「あ、ありがとうメリッサちゃん」
あまり量はなかったけれど、みんなに行き渡ってよかった。この花だけは多めに採取したかいがあったね。
おばばさまやマイケルじいちゃんは懐かしそうに。
グウェンさん、マチルダさん、フランカお姉ちゃんは恐る恐るといった感じで……口に含んだ。え?ハワード?無表情でチューチューし続けてるよ。
「懐かしいね……こんな味だったかね」
「よく覚えとらんが小さな頃に食べた気がするの……ほんのり甘いのぉ」
「だな……すげぇ久しぶりに甘いものを食べたぜ」
「わ、私もですっ」
「私は甘いものは数えるほどしか食べたことないの……ありがとうメリッサちゃん」
「いーえっ!」
そうか……グウェンさんやフランカお姉ちゃんはここにくる前、森で採集や狩りをしてたから甘いものを食べたことあっても、マチルダさんのように数えるほどしか食べたことないひとも多いのか……
以前のグループでは5日に1度生野菜か果物が食べられたとはいえ、果物は滅多に食べられないし、酸っぱかったり味がぼやけたものだったり、時には腐りかけもあったりして甘くて美味しい果物は数年に1度食べられるくらいじゃないかな?少なくともわたしは食べたことないと思うな。食べてたら覚えてる自信あるし!
あぁ、またお腹減ってきた……
でも、ほんの少しでもみんなが幸せそうにしてくれたのは嬉しいな。
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