4章 OP作戦
第22話
広瀬先生が来襲した次の日、俺たちが見せられた部活動の制度変更についてのプリントが全校生徒にも配られた。
突然の事態に混乱している生徒もいるが、大多数の人間は今回の事に否定的で、職員室に押し掛ける生徒もいるほどだった。
それもそのはず、民族衣装研究部と同様に少人数でやっている部活はこの学校に山ほどある。一年生の中にもこの一か月で部活を創り上げた生徒が何人もいたはずだ。
小さくともそれが自分たちの居場所、その居場所を無理やり作り替えられようとしているのだから反発しない方がどうかしているともいえる。
しかしそれらも全て門前払いを食らったようで、生徒たちの間には半ば諦めの雰囲気が漂っていた。
いつも明るい大村の顔も今日ばかりは悲しみに暮れてしまっている。
「どーしよう東ぃ……。このままじゃ俺の所も潰されちまうよぉ……。バストアップ研究部の血と汗と涙と色んな体液の結晶の全校生徒バスト記録まで没収されちまうかもしれねぇ……。そんな横暴ってあるかよ……」
「お前の所は早く潰されてしまえ」
そんな学校全体が暗い水曜日の放課後、俺は部活用校舎の端っこにある民族衣装研究部の部室に向かっていた。
本来なら今日は活動日ではないのだが、昨日の件で緊急招集がかけられたためだ。
そして部室の前まで辿り着き、ノックをして入室の許可を取ってから中に入る。
「こんにちわー」
部室の中には既に俺以外の三人が揃っていたが、その装いは普段と違って学校の制服だった。活動日じゃないというのもあるだろうが、さすがに昨日の今日で民族衣装を着てはしゃぐ気持ちにもなれなかったのだろう。
「こんにちは東君」
「やっほー」
「おう」
皆挨拶は返してくれるが、笑顔に陰りがある。昨日の事がそれだけ堪えているのだろう。
もちろん俺も気持ちは同じだ、入部してまだ日は浅いが思い入れは人一倍ある。せっかく見つけた俺のオアシスなのに潰されてたまるものか。
「今日は広瀬先生対策会議ですよね? 何か進展とかありました?」
「いや、私たちもさっき来たばかりだから、今から話そうとしてたところだよ」
進捗状況を確認しながら、用意してくれていた椅子に座る。
俺が座ると山吹先輩は鞄からノートとシャーペンを取り出して、会議を進める。
「一日だけっていう短い時間だったけど、何か思いついた人はいる?」
山吹先輩の問いかけに、仙堂先輩が小さく手を挙げた。
「はい、仙ちゃん」
「ああ。そう難しい作戦でもないから皆気楽に聞いてくれ。まず学校が終わった後、広瀬の後を付けるだろ」
「う? うん……」
仙堂先輩の不穏な話の入りに山吹先輩は一瞬戸惑うが、とりあえずは最後まで聞く姿勢を見せる。
「そして広瀬が人気の少ない場所を通る時に、覆面を付けたあたし達で広瀬を拉致る」
「……うん」
「それで廃工場にでも連れてって、『一栄高校の部活動に関するルールの改定に反対しろ、さもなくば酷い目に合う』って脅すんだ。そしたら万事解決……」
「しないよっ!」
山吹先輩に自分の出した案が強く否定されると、仙堂先輩はそんなまさか、みたいな顔をして驚いている。
え、なんでそんな顔出来んの? 今の話ってもちろん冗談ですよね?
「ダメだね、全然ダメ。たとえ覆面してようが、そんなん言ったら声とか体格でばれるに決まってんじゃん」
「駄目なのはそこじゃないからね!?」
常人とはズレた感性で宮川先輩も仙堂先輩の案を却下する。
この人達に遵法精神は存在しないのだろうかと些か不安になる。
「じゃあお前の案を聞かせてみろよ。さぞ完璧なものを考えてきたんだろうな」
「もちろん、雛ちゃん次は私が言ってもいい?」
「う、うん。一応言っとくけど、本当なら言うまでも無いんだけど、犯罪は駄目だからね?」
「分かってるってー」
あまりに軽い返事のせいでより不安になったのか、山吹先輩は眉根を寄せて不審そうに宮川先輩を見る。
「まあ、聞くだけ聞いてみるね。琴ちゃんはどんなのを考えてきたの?」
「うん、まずはクラスの男子にお願いして広瀬先生を体育館倉庫に呼び出すの」
「………………」
おっと、もはや山吹先輩は返事をする気力も無くなったようだ。
「それでその内の一人に『言う事を聞かなかったらその豊満な体を滅茶苦茶にしてやる』って言わせてルールの改定を約束させる。どう? これで万事解決……」
「しないっ!!」
山吹先輩はさっきよりも語気を強めて、宮川先輩の案も却下する。
……もしもこの部に山吹先輩がいなかったら今頃広瀬先生は酷い目に遭っていたんだろうなぁ。
「えー、なんでー?」
「こっちが聞きたいよ! 犯罪は駄目だって言ったじゃん! つい数秒前に!」
「だから犯罪はしてないじゃん、私たちは」
「広瀬先生を犯罪に巻き込むこと自体が駄目なのっ! いやなんで仙ちゃんも、なるほどそれだ、みたいな顔してるの!?」
こんな時だというのに、あっちこっちに振り回されて大変そうな山吹先輩を見てると心が和む。この人はアロマディフューザーと同じ香りでも発生させているのだろうか。
「はぁ……、はぁ……、まともな案は期待してなかったけど、ここまでとも思ってなかったよ」
「ひどーい」
「あたし達だってちゃんと考えてきたんだぞ」
「ちゃんと考えてあれなら余計に救いようがないよ」
山吹先輩は昨日広瀬先生に向けていた目と同じくらい冷たい目を二人に向ける。
俺も山吹先輩に全面的に同意だ。脅迫というスタート地点から離れることは出来なかったんだろうかこの人達は。
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