第18話

 タッタッタッタッと、まだ三回しかきてないのに既に歩き慣れた感のある廊下を怒られない程度の早足で歩き、部室へと向かう。

 部室の前まで辿り着いたら、金曜日の失敗を繰り返さないためにもコンコンと扉をノックして入室の許可が下りるのを待つ。

 あんな痛みを味わうのは二度とごめんだからな……、無謀な冒険はしないに限る。妹のためとかだったらその限りではないけど。


「東君? 入ってもいーよー」

「あ、はい。失礼します」


 鈴の鳴るような声が中から聞こえ、俺は扉に手をかけて中へと入った。

 今日は三人ともが俺より早く来ていたようで、既に皆が制服から民族衣装へと着替えを済ませていた。


 全体的に肌を隠していた先日までとは違い、今日は露出が多い服だった。半袖の白いブラウスにロング丈のジャンパースカート、そして腰にはエプロンを巻いている。

 シンプルと言えばシンプルな構成だが、鮮やかな色とチェックや花柄といった可愛らしいスカートの柄が女の子らしさを引き立てていてとてもおしゃれだ。

 何よりも目を引くのが大胆に露出された鎖骨から胸にかけてのラインである。きめ細かいきれいな肌が惜しげも無く晒されていて、一度そこに目をやったらそこから目が離れなくなってしまった。


「こ、怖い! 怖いよ! 何で一言も発さないまま一点を見つめてるの!?」

「……………………」

「話しかけてもなお無言なんだねっ! その集中力の発揮するところはここじゃないと思う!」


 山吹先輩はそう叫ぶと、ばっと胸元を隠して背中を向けてしまう。

 しまったっ! 夢中になるあまり警戒させてしまった! まだ堪能してる途中だったのにっ!


「す、すいませんっ。あまりのことについ我を忘れてしまってました! もうそんな凝視しないんでどうかこっちを向いてください!」

「……ほんとに?」

「もちろんです!」


 山吹先輩の警戒を解くため、俺は全力で自らの安全性をアピールする。その必死さが功を奏したのか、山吹先輩がゆっくりとこちらを向いてくれた。


「……………………」

「やっぱり変わらなかったねっ! ちょっとでも信じてみようとした自分を呪いたい気分だよっ!」


 ああっ! もう条件反射的に見てしまう! 俺の理性はどこに行った!


「やっぱこいつこの前もっと痛めつけといたほうが良かったかな」

「露出度的には私が一番なんだけどこっちには一秒たりとも目を向けないねぇ。見られたくないからいいんだけど」


 山吹先輩が再び後ろを向いてしまったショックで膝から崩れ落ちていると、宮川先輩と仙堂先輩の声が聞こえてきたので顔を上げた。


「ああ、言われてみれば宮川先輩凄い格好してますね」

「こっちの方が可愛いからねっ!」


 山吹先輩と仙堂先輩が胸元近くまで開いているブラウスとくるぶしまでのロング丈なのに対して、宮川先輩は肩まで出していたり(オフショルダーと言うんだっけ?)丈も膝までしかなかったりと肌色面積が多い。その上バストもそこそこあるものだから、谷間も少し見えてしまっている。

 山吹先輩の愛らしさには敵うべくもないがこれはこれでいいものだ。


「良いと思いますよ。エロくて。後、そうですね……。エロいです」

「語彙力死んでんの?」


 心から湧き出た褒め言葉をそのまま伝えたというのに宮川先輩は辛辣だった。

 俺は語彙力が無いわけじゃない、言葉を飾る術を知らないだけなんだ。


「いや、実際あれなんですよね。山吹先輩の姿を見てからというもの、その衝撃が強すぎて脳みそが上手く働かなくなっちゃったんです」

「東君の脳は元から正常かと言われれば首を傾げるところなんだけどね……」

「今日の雛ちゃんはヤバすぎるからね。その気持ちは理解できるよ」

「分かっちゃうんだっ!?」


 山吹先輩を愛でる者として宮川先輩と意見が一致して、お互いに深く頷き合う。


「ロリとしての愛らしさと女としての艶めかしさが同居していて、見てるだけで絶頂しちゃいそうだよ」

「ええ。妹として必要な子供っぽさや健康的なエロスも感じられて、今すぐ家に連れ帰りたい気持ちに駆られますね」

「うわああああん!! 助けてー! 仙ちゃーん!」


 同士として宮川先輩と山吹先輩の好きな所を語っていると、山吹先輩は急に泣き出して仙堂先輩の後ろに隠れてしまった。


「泣くな泣くな。雛さんはあたしがちゃんと守ってやるからよ」

「仙ちゃん……」


 山吹先輩に縋りつかれた仙堂先輩は、山吹先輩の頭をポンポンと撫でて慰める。

 な、なんか一番美味しいポジションじゃないか? そこは兄(仮)である俺が収まるべき場所なのでは?


「ずるーい! そうやって一人だけ株上げようとしちゃってさ! 何で雛ちゃん私の所には来てくれないのっ!?」 

「そうですよっ! 宮川先輩に近づきたくないのは分かりますけど、だったら俺の後ろに隠れるべきじゃないですか!」


 俺と同じ事を感じたらしい宮川先輩が抗議の声を上げたので、それに追従する。

 しかし山吹先輩は隠れたまま出てきてくれる気配が無く、仙堂先輩の背中に顔をうずめたままだった。


「お前らみたいなロリコンどもがいるせいで、すっかり雛さんがビビっちゃってるじゃねぇか。自重しろや変態ども」

「私が一番年上なのにロリと断言されたらそれはそれでショックだよ……」


 仙堂先輩に守られている山吹先輩がなんとも面倒なことを言い出す。

 年下に泣きついてしまった時点で年上の威厳とかは諦めた方がいいと思いますよ。

 いや、それよりも仙堂先輩の言葉の方が問題だな。あんなことを言われたらこっちも黙ってるわけにはいかない。

 俺は仙堂先輩の言にどうしても認められないことがあり、憤慨して言い返す。


「ロリコンではないです! 妹萌えです! そこは間違えないでいただきたい!」

「どっちでもいーよ。私からしたら似たようなものだし」


 そんな風に山吹先輩に一蹴されるが、ここで折れるわけにはいかないと思い、主張を続ける。


「いーえ、そこを一緒くたにされてしまっては俺の名誉に傷が付きます。いいですか? 確かに俺は未成熟なのも理想の妹の条件だと言いました。でもそれは俺がまだ若いからです。さすがに自分より圧倒的に見た目が年上の人を妹と見ることは出来ません。だけど俺はロリコンじゃない、なぜなら自分と一緒に成長していく妹を見守るのも兄の務めだからです。今まで小学生だった妹が中学生になって大人びて見える……、それも兄妹の醍醐味の一つなんです」

「遠回しに私の事を小学生みたいだと言ってるのかな?」


 山吹先輩が言葉尻を捉えて目を怪しく光らせる。

 ロリだロリだと言われ続けたせいで、そういう言葉に敏感になっているのかもしれない。


「私にも妹がいるけどそんないいもんじゃないよー? 昔は食べちゃいたいくらい可愛かったのに、いつの間にか私の身長まで追い抜かしちゃって……」

「そこは姉として成長を喜んでやれや」


 リアル妹のいるらしい宮川先輩が現実の苦労を語るが、それは宮川先輩(ロリコン)特有の悩みなのでスルー。兄妹と姉妹ではまた事情も変わって来るし。

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