3章 山吹雛の食べ物に関するありがたいお話
第17話
「なあ、なんでおっぱいは二つあると思う? 俺は二つという数がおっぱいを一番輝かせる数だからじゃないかって考えてる。過ぎたるは及ばざるがごとし、いっぱいあるからってそれが無条件に良い訳じゃない。逆に一つだけだとそれは寂しすぎる。二つのシンメトリー、たまにアシンメトリーなものだからこそ、おっぱいはあんなに俺たちを惹きつけるんだ。だけど自分の考えに固執し過ぎちゃいけねぇ、常に探求心を持つことがエロには重要だ。そこでお前の意見も聞きたいんだけど、何か考えはあるか?」
HRが終わって掃除の時間、床を箒で掃いているとこのクラスで一、二を争う程ヤバい奴がヤバい話題で話しかけてきた。
「いや、知らねえよ。おっぱいはエロいからエロい。それ以外の感想は無い。強いて言うなら妹のおっぱいこそが至高ってことくらいだ」
「成程、深いな……」
何だか思慮深い顔で頷くこいつの名前は大村邑(おおむらむら)輝(き)、名前の通りいつもムラムラしてる奴だ。広瀬先生にバストサイズを質問し、停学になった馬鹿が何を隠そうこの大村である。
話す内容の九割は下ネタ、俺はこいつ以上に自重という言葉から遠い人間を知らない。
顔の造形は良いため、入学当初こそ女子が寄ってきてたが、内面が知られる度に少しずつ離れていき、さらに広瀬先生にバストサイズを聞いたことが決定打になり、それ以降大村に話しかける女子は皆無となった。
しかもこのクラスの男子はこいつ以外にも変な奴が多い。まとめておいた方が面倒も見やすいだろうという教師の判断が透けて見えるようだ。
その(悪い)評判は生徒にも知れ渡っていて、他のクラスからは動物園などと揶揄されることもある。そんなクラスに俺が入れられるなんて、甚だ不本意である。
「どーしたんだよ、そんな憮然として」
「いや、何で俺はこんな変人ばっかりのクラスにいるんだろうと思ってた」
きっと俺だけじゃなく、俺を知ってる誰もが考えるだろうことを言っただけなのに、それを聞いた大村は何故か酷く笑いだした。
「ははははは! はっ、ごほっごほっ! は、はははは!」
「そんなむせるほど面白いこと言った?」
大村は感情の弁が外れてるのかってくらい、よく笑うやつだけどここまで爆笑するのは珍しい。当たり前のことを言っただけなのにこんなに笑うとは、やっぱりこいつの感性は普通の人と大きなずれがあるようだ。
「いやー、だってお前がそんな体を張った自虐ネタ言ってくるんだもんよー。そりゃ笑うしかねーだろ」
「自虐ネタなんて言った覚えが無いんだけど」
「…………自虐じゃないならもっと自分を見つめなおした方がいい。そんなんじゃあ社会に出た時苦労するぞ」
大村は笑顔から一変、真剣な顔で諭してくる。失礼な奴だなこいつ。
「だってお前、この前あった将来の目標って課題になんて書いたよ」
「山吹先輩を正式に妹にして、兄妹仲睦まじくいつまでも二人だけの世界で暮らしていく」
「何もかもがおかしいだろっ!」
「おっぱいソムリエって書いたお前も大概だろ」
もちろん結果は二人とも再提出である。何ならクラスの男子の八割は再提出を食らっていた。先生達の苦労が目に浮かぶ。
「お前も学校生活を楽しめるよーな部活に入れたのは良かったけどよぉ、あんまりその山吹先輩って人に迷惑かけるんじゃねーぞ?」
「それも! お前には! 言われる筋合いが無いんだよ!」
大村が入っている部活はバストアップ研究部(部員数三人)、女子の胸がどうやったら大きくなるのか日々語り合っている部活だ。
噂では思春期女子の成長過程を詳しく知るため、この学校中の女子の入学から卒業までのバストサイズのデータをありとあらゆる方法で入手しているとか。民族衣装研究部よりそっちの方がよほど潰されるべきだと俺は思う。
「なんでだよ、俺は誰にも迷惑かけてねーぞ」
「セクシャルハラスメントで一回ググってこい」
そして法の下で裁かれてきてほしい。こいつは塀の中にいるのがお似合いだ。
てゆーか、何で俺は貴重な放課後をこんな話で消費しなきゃいけないんだ。もうこいつの事は放っておいてとっとと掃除を終わらせよう。
今日は火曜日、三日ぶりに山吹先輩に会える夢のような日だ。
「お? どーしたんだ急にそんなやる気出して」
「これが終わったら部活があるんだよ。俺は一刻も早く未来の妹に会いに行かなきゃならない」
「ほどほどにな……」
お前もな。
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