第2話
「せっかく部活見学に来てくれたのに、バタバタしちゃっててごめんねー? まあ見学に支障はないからさ、とりあえずこっち来て座りなよ。今、椅子用意するから」
三人の内の一人が話しかけて来る。
髪を茶色に染めていて明るい雰囲気を纏っているその人は、こちらに近づいてきて俺の背後に回ると、背中をぐいぐい押してくる。
そしてその間に一番身長の高いウルフヘアの人がパイプ椅子を用意して、一番身長の低いボブの子がドアや窓の全てに鍵をかけた。
どうにも不穏な空気を感じて俺は思わず声を上げた。
「いや、ちょっと待って下さい。何で鍵をかけるんですか」
部活見学をするだけなら、そんなことする必要はないはずだ。
そんな当たり前の疑問を呈した俺を、三人は笑顔のままスルーする。
「無視しないでください。聞こえてないはずがないでしょう。……あの、何で無理やり椅子に座らせて来ようとするんですか? というか椅子の配置がおかしいんですけど。部屋のど真ん中に、パイプ椅子が一つだけ置かれてる状況っておかしすぎるでしょう」
なんとなく無駄なことを悟りながらも抗議を続けるが、やはり三人は聞く耳を持ってくれない。
抵抗むなしく、三人がかりで無理やり椅子に座らされると、三人は俺の周りを囲ってきた。
依然笑顔のままなのが恐怖を加速する。圧が凄い。
「ふふふー、何も乱暴しようって訳じゃないんだから、そんなに警戒しなくてもいいよ?」
「説得力皆無なんですけどっ!」
既に精神的苦痛は十分に被ってる気がするし!
「落ち着いてください、私達だって歴とした高校生です。暴力で物事を解決する年齢ではありません。むしろちゃんと話し合いをするために、貴方にここに座ってもらったのです」
「はぁ……」
ウルフヘアの人が馬鹿丁寧な口調で諭してくるが、生返事しかできない。
それにしても一人称がわたくし、な人初めて見たな。どこぞのお嬢様だったりするのだろうか。…………さっき言い合ってるときはこんな口調してなかったような?
「そーなの! だからまず、自己紹介からさせてもらうね。私はこの民族衣装研究部の部長、
微かな疑問を抱いたがその疑問が解消される前に、先ほど二人の間に入って諍いを静めようとしていた一番小さい子が、胸を張ってびしっと人差し指で指してくる。
「三年生……、小学三年生……?」
「違うよ! 小学校の最高学年って六年でしょ!? 高! 校! 三年生!」
目の前の現実が信じられずどうにか自分の常識に当てはめて考えようとしてみたが、それが聞こえたらしい山吹先輩に激昂される。
でもなぁ……、どう見ても150センチも無いし、なんなら小学六年生の方が発育良いぞ。
しかし本人はそのことをとても気にしているようで怒りが収まる気配が無い。
それをどうやって宥めようかと思案していると、腕を振り上げて怒る山吹先輩に茶髪の人が抱き着いた。
「あははっ! まあ信じられない気持ちは分かるけどね。こーんなに小さくて可愛いんだし。あ、私は
山吹先輩に抱き着いた人、宮川先輩は横ピースしながら自己紹介してくる。
「よろしくお願いします。……宮川先輩が副部長なんですね」
「そうだよー。なになに? 似合わないとか言う気?」
宮川先輩がいたずらな笑みを浮かべて顔を近づけて来る。
「まさか! むしろ部長じゃないのかと思ったもので」
「なにをーっ!」
宮川先輩に返答したつもりなのだが、自分が煽られたと思ったのか山吹先輩が噛みついてくる。
おお……、これはやばいな。自分の中の感情が抑えられなくなってきそうだ。
「確かに見た目はあれですけど、雛さんはしっかり部長をやっておられるのですよ。そこのなんちゃって副部長と違って。最後になりましたが、私は
「見た目があれって!?」
「役職もない平部員にとやかく言われたくないんですけどー!」
二人に喧嘩を売りながら自己紹介してくれたのは長身の仙堂先輩。
山吹先輩も宮川先輩もそれを無視できる性格はしていないらしく、仙堂先輩に掴みかかりそうな勢いで叫ぶ。
「うるさい二人は放っておいて貴方の名前も聞かせてもらっていいですか? 話し合いはそこからです」
しかし仙堂先輩は二人の文句を意に介さず、こちらに自己紹介を促してくる。
すると二人も騒ぐのを止め、仙堂先輩を睨みつけていた顔をこちらに移してきた。
「あー……、はい。俺は
そしたら先輩たちが窓を割った場面に遭遇しました、とは言わない。
「ふぅん? この学校に来てまだ帰宅部なのは珍しいねー」
山吹先輩が顎に指を当てて首を傾げる。
その疑問は最もだ。皆何かしらやりたい部活動があってここに入学してきてるし、俺も俺以外で帰宅部の生徒は見たこと無い。
「特に興味のある部活とかは無いの?」
「今の所は。俺としては他にやりたいこともあるし、正直部活内容よりも緩くて大して部活に参加しなくてもいい場所を探してるんですけど、こんな学校ですし中々見つからないんです」
俺は中学でも帰宅部だった上に、得意なことも特に無い。だから本気で部活内容に関しては重視していない。
そういった、聞く人が聞けばあまりいい顔をされない理由を話したのに、何故か俺の理由を聞いた途端の先輩たちが異様に食いついてきた。
「それはちょうどいいね! この部活で強制参加の日とか無いし、まさにここは君の求めてた部活だと思うなっ!」
「私たちも君みたいな人材を求めてた! さあ、今すぐこの入部届けにサインしてっ!」
「まさに運命ですね! はい! ここにボールペンもありますから早く! 悩むなんて男らしくないですよ! こういうのは即断即決です!」
「話し合いはぁ!?」
鬼気迫る表情で入部届けを押し付けて来る先輩たちは、人の話を聞く気が一切無さそうだった。
何があっても入部させてやろうという内心がひしひしと伝わってくる。
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