第四話 墨の知識
今日の社会科見学場所は考古資料館だった。
県内の遺跡や古墳で出土したという銅鐸や銅鏡、錆の塊状態の青銅剣や、そのレプリカなどが壁際一杯に並べられていて、生徒達は各自好きなように見て回っている。
あたしは墨と一緒に回っているけど、正直歴史関係の説明文がさっぱりだった。
ただ、古代の人々が使っていた道具を見るのは物珍しく存外楽しかった。
「あ、これってもしかして、この時代の戦装束かな? 結構格好良いね」
茶色く変色した短めの胸当てらしき物をあたしが指差すと、墨が少し細めた目を向けた。
そして、ふん、と息を吐いてからどこか懐かしむみたいな表情をする。
「……これは短甲(たんこう)、もしくは『みじかよろい』と呼ばれているものだ。こいつは鉄製だな。板状の物を革紐で綴じて組み上げてるんだ。かなり重いぞ」
ただ相づちを打って欲しくて声をかけただけなのに、思いの外すらすらと答えられて驚いた。
おかげで、あたしはぽかんと口を開けたまま、墨の顔を凝視している。
なんでそんな詳しいの、コイツ。
「明日香? お前……何、アホづら晒してるんだ」
「いや、何はこっちの台詞よ……! 墨、アンタなんでそんな詳しいのよっ」
「なんでって、それは……」
「それは?」
首を傾げながら言葉の続きを待っていると、墨は何か言いたげな顔をして、だけどきゅっと唇を引き結び黙り込んでしまった。
その上、ふいっと顔を背けてしまう。
何。
今の。
「墨?」
「……別に。ゲームに出てきたから覚えてただけだ」
「ゲーム? 墨が? そう、なの?」
「ああ」
普段ゲームをしている素振りなんて全く見せない癖に、墨は嘆息しながらそう答えた。
絶対嘘だろ、と言ってやりたかったけど、だから何なのか、という気もしてあたしは結局口にはしなかった。
だけど、何か物言いたげな墨のあの一瞬の表情が、やけに心に引っかかった。
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