第14話 野暮用は見逃さないシスターズ
「キョーマ、今日うち来ない?」
「リリの所か……そうだな、行くとするか」
「そうでなくっちゃ! ふふふっ、簡単には帰さないからね」
「やぱっり、そうなるのか。いつも結構激しいめの要求されてるからな」
「実は、結構溜まってるんじゃない?」
「それは聞いてみないと分からないな。……アリスとエミリー、悪いけど今日は先に帰っておいてくれーー」
「「絶対いや!」です!」
俺が妹達と家に帰ろうとしていると、俺は一人の少女に呼び止められた。振り返ってみると、いつもの顔馴染みの生徒会役員の一人だった。
ポニーテールに括られたオレンジ色の髪。スポーティーな印象の女の子で、いかにも陸上部とかにいそうだ。
二次元の陸上部系女子って感じだな。スパッツとか似合いそうだ。
少し野暮用ができたため、今日はその子の家に行くことになったので、アリスとエミリーは先に帰ってもらおうとした。
それだというのに、二人は俺の発言を聞き終えるよりも早く、俺の言葉を否定した。それどころか、問い詰めるかのような剣幕でこちらを強く睨んでいる。
「そもそもその人誰? 兄さんとどんな関係なの? そんな高頻度でその人の家に行ってるの? 何しに行くの? 溜まってるってなに? 私達と帰るって言ったのは嘘なの?」
感情を抑え込むような声色でつらつらと問い詰めてくるアリス。全体的にフラットな話し方が逆に怖い。
「この人は、誰なんですか?!」
アリスの剣幕に押されていると、にゅっと割って入ってきたエミリーがそんなことを口にした。
そういえば、二人にはまだ何も言っていなかったか。
「生徒会メンバーのリリだよ。彼女の家って、この辺で有名なギルドなんだ。だから、たまに依頼をこなしに行くんだよ」
「「依頼?」」
「そうだよ。クエストみたいなもんだ」
俺の発言を受けて、二人の上がった熱量が下がったのが見て分かった。怒りのような物で上がった熱量は羞恥に似たような物に代わり、再びアリスの顔色を朱色に染めていた。
「クエストなら、初めからそう言えばよかったじゃん」
「言う暇すらなかっただろ。何だと思ってたんだよ」
「なんでもないっ」
耳まで赤くしたアリスは言葉を誤魔化すように顔を背けた。本当に、何と勘違いしていたのだろうな。
「クエスト、やってるんですか?」
そんなアリスとは対照的に、エミリーの顔色は初めて見るくらい青白くなっていた。普段明るいがゆえに、そのギャップに戸惑ってしまう。
「え、まぁ、やってるけど」
「っ」
俺の返答を聞いて、エミリーは静かに俺の服の裾を掴んだ。
「ちょ、ちょっと」
エミリーの申し訳なさそうに裾を引く様子に、指摘をしようとしていたアリスが静かに言葉を飲み込んだ。
「私も行っていいですか?」
「え、エミリーも?」
エミリーは心配そうな顔でこちらを見上げていた。いつもの元気っぽさが見られず、ただベタベタしているときとは違う。
なんでエミリーがそんな顔をするんだろうか。
会って間もないはずの俺に、そんな顔をすることができるのだろうか。
「別にいいんじゃないかな。そもそも、ギルドってたくさん人いるしね」
俺達のやり取りを少し遠くから眺めていたリリは、あっけらかんとした声色でそんなことを口にした。
そして、少し怒ったように眉を潜めるとおどける口調で言葉を続けた。
「それでぇ、この可愛い子達はキョーマのなんなのかなぁ?」
なぜか少しだけ詰められている気もするが、そんなことは今はどうでもいい。
リリよ、よくぞ聞いてくれた!
俺は自慢げな笑みを浮かべながら、力説をするかのような声を出した。
「そうだ、紹介が遅れたな。紹介しよう、彼女達はアリスとエミリー! なんと彼女達は俺の妹なのだ!!」
「なんだ、そういう設定か」
「だから違うっての! なんでシシリーさんと同じ反応すんだよ!」
「だって、キョーマだし」
なんで俺が妹を紹介する旅に、妄言だと思われなくちゃならんのだ。ただこの世界の出版社に、妹コンテンツが少なすぎるというクレームを入れただけではないか。自作した妹小説を売り込みに行っただけではないか。
「なるほど、妹ちゃん達だったのか。改めて、リリって言います。よろしくね」
「よろしくお願いします」「……よろしくお願いします」
リリは紹介された二人にフランクに挨拶をしていた。リリは老若男女問わず慕われやすい性格をしている。
年上であっても、壁を感じさせないのが凄い所だ。アリスとエミリーも緊張することなく、言葉を交わしているようだった。
「お兄ちゃんがクエスト受けるのが心配なのかな?」
「あ、いえ、これはえっと……」
いつもなら、エミリーの方から絡んでいきそうなものだが、エミリーは歯切れ悪そうだった。
どういう訳か、エミリーの様子が少しおかしい?
「まぁ、いいや。妹ちゃん達にも紹介するね、ギルド『月下の番人』を!」
こうして俺達は、リリの家にあるギルド『月下の番人』に向かうことになった。
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