第12話 妹のために鍛えた剣

「それでは、これより生徒会長と新入生主席との模擬戦を開始します!」


 五限が終わり、全校集会が行われた。わざわざ小アリーナを用いて集会を行った理由は、この後にやる模擬戦までを配慮しての場所選びだった。


 今回の模擬線は剣も魔法も使っていい模擬線。それだけに、場所の選定も必要という訳だ。


 我が学園では、毎年新入生主席と生徒会長で模擬線を行うことになっている。いくつかの表向きの理由もあるが、一番の目的は新入生の鼻を折ること。


そして、自分達もこの学園で学べば強くなることができるとイメージさせることだ。


 まぁ、そんなことも知らずに俺は去年、生徒会長に勝ってしまった訳なのだが。


「新入生主席はオラクル・ハード!」


「はーい」


 新入生主席の長髪の男がステージに上がって、こちらを見下すような視線を向けてきた。シシリーさんが言っていたが、この男は良い所のお坊ちゃんらしい。チャラついている見た目からも、あまり良い印象を受けない。


「よう、あんたが現生徒会長だろ? 去年、入学して早々生徒会長を倒したって噂は本当なのか?」


「ああ、本当だ」


「つまり、あんたを倒せば俺もすぐに生徒会長になれるってことだ」


「なんだ、生徒会長に興味があるのか?」


 口も態度も悪い男だが、もしかしたら意外に硬派な男なのかもしれない。見た目で判断をしてしまった自分の思考が、浅はかだったのかもしれない。


「生徒会長ってのは、この学園のトップだろ? なりたがらない理由がないな」


「なんだ、ただの喧嘩好きか」


 魔法騎士になるためには、ある程度才能に頼る部分が大きい。剣は鍛錬次第である程度まで強くなれても、魔法は相性が悪いと上手く使うことができない。


 逆に言えば、両方ともの才能に恵まれれば、それだけで他者を圧倒することができるのだ。それゆえに、目標のない者はつけあがってしまう。


「本来の模擬戦の目的を遂行できそうだな」


「目的?」


 意味が分からないと言った様子で首を傾ける新入生。俺は新入生の疑問に答えることなく、正面に向かい合った。


 右手には模造刀を携え、新入生主席と10メートルほどの距離で向かい合う。


 新入生主席は中々隙の少ない構えをしていた。やけにゆったりと構えているのは、余裕の表れだろう。


 互いが剣を構えたのを確認すると、審判を務める教員が俺達に視線を向けた。模擬戦を開始する旨を伝えるものだろう。


「アリスは……うん、いるな」


 そんな教員の意思確認をスルーし、俺はかっこいい所を見せる相手がその場にいることを確認した。俺と目が合ったアリスは、気まずそうに視線を少しだけ逸らしたようだった。


 ……最近、妹が冷たい件について。


 そんな風に心が折れそうになっていると、アリスが観ている席の前方の席にいるエミリーと目が合った。


 笑顔と真剣さを交えたような表情で、大きく口を開けて応援をしてくれているようだった。


義妹の応援。……中々、胸に来るものがあるじゃないか。


「よそ見してくれるとは良い度胸だな、生徒会長さんよぉ!」


「ちょ、ちょっとオラクル君!」


 試験開始の合図がされるよりも早く、新入生主席は地面を強く蹴って俺の懐に潜り込んだ。


 剣には魔力が込められているのか、剣が地面をかすめた際に地面を大きく削り取った。新入生にしては、剣に込められた魔力が大きい。


 悪くない踏み込みだったが、懐に入るまでに隙があり過ぎだ。これが実践なら、すでに体を切り落とされていることだろう。


 まぁ、この歳でこのスピードにカウンターを叩き込める奴もそうはいないだろうな。


 そんなことを思いながら、俺は下から切りかかってきた模造刀を軽く払いのけた。


「いっつ!」


 重い金属が響き、新入生主席の手から剣が手放された。いや、剣が吹き飛ばされたといった表現の方がいいだろう。


「終わりだな」


「ひっ」


 後方に弾き飛ばした剣が地面に着くよりも早く、俺は剣先を新入生主席の首元に向けた。


 ただの模造刀なのに、そんなに脅えることはないだろうに。


「勝者、生徒会長キョーマ!」


 審判の判定を受け、小アリーナは湧きあがりを見せた。特に湧き上がっていたのは、新入生側の席だった。


 驚いている表情から、オラクルが負けるという予想をしていなかったのだろう。それだけ、新入生達からしたらこの主席は強いらしい。


 新入生が驚いているということは、同然アリス達も驚いているということになる。


 俺は先程見つけたアリスの席に視線を向けて、アリスの驚いた表情を見ようと……。


「……」


「え?」


 俺と目が合ったアリスは、驚いてはいた。しかし、それ以上に別の感情を抱いているらしかった。


 歯ぎしりでもしていそうな悔しそうな表情。とても、勝利した兄に向ける顔ではなかった。


 突然そんな顔を向けられた俺は、反応をすることができずにただ茫然としてしまった。


 周りの声援が遠くなっていき、俺は席を外そうとしているアリスをただ見つめることしかできないでいた。

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