第11話 新入生代表との模擬戦よりも妹だ

「それにしても、妹と同じ学校に通える日が来るとは感動だな!」


「そうですか? えへへ、嬉しいですっ!」


「あんたに言った訳じゃないでしょ」


「なんで、自分が言われたつもりでいるんですか?」


「ど、どう考えても、私に言ってるに決まってるでしょ!」


 俺は妹二人に挟まれながら、学園への道を歩いていた。初めは俺の腕にしがみついていたエミリーだったが、アリスが何度も引き剝がすうちに諦めたらしい。


 過度なスキンシップはドギマギしてしまいそうになるから、控えてもらいたいものだ。ええ、全く。……全く。


「エミリーを見る目がいやらしいんだけど」


「そ、そんなことはないだろ」


 そして、そんなスキンシップを受ける俺に対しても、アリスは冷ややかな目を向けていた。


せっかくの通学イベントだというのに、きゃっきゃっうふふな雰囲気とは明らかに違っていた。


 ていうか、あんな体を押し付けられたら反応してしまうのは仕方がないことだろうに。


「そんなに強くお兄ちゃんに当たらないでくださいよ。これから毎日そんな目で睨まれたら、たまったもんじゃありません」


「毎日睨まれないようにすればいいんじゃないの?」


「毎日……そうか、これから俺は毎日妹達と登下校をすることがーー」


「できないぞ」


「え?」


 脳内に描いた夢の中に浸ろうとしていたところ、冷静過ぎる声色よって現実に引き返すことになった。


「数日見なかっただけで、二人の女の子を落とすとはな」


「し、シシリーさん」


 振り向いた先には黒髪ロングの女性が立っていた。俺と一つしか違わないとは思えないほどの大人の魅力があり、何をしていても絵になるような美しさがある。


 エミリーに負けない豊満な胸に、すらりと伸びる長い脚。俺とそこまで変わらない身長。スーツが似合いそうな大人な女性だ。


 分かりやすく言えば、エロゲの黒髪ヒロインみたいな女の子だ。


「シシリーさん? お兄ちゃんのお知り合いですか?」


「まぁ、知り合いと言えば、知り合いかな?」


「ずいぶんと酷言い方をするんだな、会長」


「やめてくださいよ。普段会長だなんて呼ばないくせに」


 俺達のやり取りを不思議そうに見ているエミリー。エミリーとは少し違った視線をこちらに向けているアリス。


 双方反応は少し違うみたいだが、今は反応の違いはどうでもいいか。


 ふふふっ、アリスがこちらを見ているぞ。


「俺は生徒会長をやっているんだ。そして、シシリーさんは生徒会の副会長だよ」


「え、生徒会長って、あのエイジェル魔法騎士学園でですか?!」


「まぁ、そうなるな」


 驚くエミリーに対して、アリスは特に驚く様子もみせずにいた。


……なぜだ。


 有名なエイジェル魔法騎士学園で生徒会長をやっているんだから、もう少し驚いてくれてもいいはずだ。


 最高峰の学園で生徒会長になれば、アリスも俺を格好いいって思ってくれる! って思って、生徒会長になったのに。


それなのに、なぜ無反応なんだ。


「別に、知ってたし」


 俺の表情から言いたいことを読み取ったのか、アリスは視線を逸らしながらそんなことを口にした。


「え、だ、誰から聞いたんだ?」


「お父さんとお母さん。手紙で知ったの」


 当たり前のことを言うかのように、アリスはそんなことを口にした。


「て、手紙のやり取りをしていたのか。ははっ、そういえば、いつからかアリスから俺への手紙届かなくなってたなー」


 そう、アリスが屋敷を出てから気持ちだけでも離れたくないと思って手紙の交換をしていた。手紙というには長文過ぎた気もするが、それと同じだけの分量での手紙が返ってくることが嬉しかった。


しかし、それもすぐに返事が来なくなって、手紙のやり取りは終わってしまったのだった。


 それがまさか、両親との手紙だけは続いてたとは。その事実を受けて、少しのショックを隠せないでいた。


「……この日のために、読むだけで我慢してたんだもん」


「ん?」


「なんでもないっ」


 そこまで言うと、アリスはそっぽを向いてしまった。何か聞かれたくないことだったのだろうか。


「生徒会長としての仕事があるんだから、可愛い女の子の相手ばかりしていてはダメだぞ」


「……生徒会長を辞めて妹と毎日を過ごすのも悪くはない、か」


「悪いに決まっているだろう。真剣な顔でそんな冗談を言うでない」


 シシリーさんは俺の顔を見ると、ため息交じりにそんなことを口にした。なぜ俺が冗談を言っていると思ったのだろうか。割と本気なのにな。


「ふむ。初めて見る子達みたいだな。キョーマくん、紹介してもらってもいいかい?」


「もちろん、喜んで。こちらがエミリー、こちらがアリスです。そして二人とも、私の妹達なんです!」


「ていう、設定か?」


「違いますよ! 正真正銘妹です!」


 まったく、この人にも困ったものだ。俺がいつも理想の妹像を話しているからというだけで、妄想と現実がごっちゃになっているとでも思ったのだろうか。


 理想の妹像を数時間話すことくらい、普通のことだろうに。


「妹か。……まさか、本当に実在していたとはな。それも二人もいたのか。聞いた話では、確か一人だった気がしたが」


「まぁ、色々ありまして」


「そうか。まぁ、妹ということなら他の役員達も何も言わないだろう」


「他の役員達?」


 シシリーさんはぴくりと肩を反応させたアリスに目配せをして、視線を再びこちらに向けて頷いた。


「うん、そうか。妹達がいるということは、今日の模擬戦は期待していいな?」


「もちろんですよ。妹にかっこいい所見せるんですから」


「模擬戦ってなんですか?」


「代々、我が学園では新入生主席と生徒会長が模擬戦をするんだよ。そして、生徒会長が破れたら生徒会長は新入生主席がやることになる」


「でも、生徒会長が負けることなんてないんじゃないですか?」


「本来はそうだ。新入生主席の鼻を折るためのものだからな。しかし、去年は違ったんだよ。なぁ、キョーマくん」


 シシリーさんは意味ありげな言葉をこちらに投げた。おそらく、俺の口から説明をさせたいのだろう。一年前の模擬戦を結構根に持っているのかもしれない。

 

「去年は俺がシシリーさんに勝ったんだよ。その結果、今は俺が生徒会長をやっている。でも、それはそれで大変だったんぞ?」


「今年はそんな番狂わせが起きなければいいな」


「起きませんよ。だって、妹が観てますから」


 そんな模擬戦が今日行われる。妹達が観ているという状況で、兄が負けるなんてことは許されない。


 今日こそ、妹にかっこいいと思わせるんだ!


 そう心に誓って、俺は模擬戦までの時間を過ごすことにした。

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