第8話 実妹はツンデレである_義妹はブラコン系である

実妹side

「なんなの、あの女ぁ……!」


 私は手早く転入の手続きを終えると、兄さんの元へと急ぎ足で戻っていった。


「せっかく、久しぶりに会ったのに」


 私はやり場のない怒りを抱えながら、誰に聞かせる訳でもなく一人ボヤいていた。


 それでも、兄さんの顔をを思い出すと怒りで染まった顔色が、別の感情に変わっていくのを感じた。


「久しぶりに会った兄さん、かっこよかったなぁ」


 昔から顔は整っていたけど、歳を重ねるに連れて顔はどんどん男の子の顔立ちになっていった。身長も大きくて、スタイルだっていい。


「でも、急に腕を掴まれたりしたら、は、恥ずかしい」


 先程のシーンを思い出して、自身の体温が上がっていることに気がついた。それと同時に、少しの後悔の気持ちも顔を覗かせた。


 先程は少しばかり兄さんに冷たく当たってしまった。でも、それも仕方がないことだと思う。


 昔みたいに素直に気持ちを表現することができない。兄さんを前にすると、昔と心臓の動き方が違って、思ってもいないこと口にしてしまう。


 でも、それも仕方がないと思うのだ。


心の準備が整う前に、大好きな兄さんが急に目の前にやって来たのだから。


ずっと待ち望んでいた日なのだ。動揺するなという方が無理だと思う。


 兄さんと同じ学園に行けないと知ったあの日から、私は毎日死ぬほど努力を重ねてきたのだ。


『お兄ちゃんと同じ学園に行けない? な、なんで?』


『うーん、少しアリスには難しいかな』


 お母さんにそう言われた日、私は目の前が真っ暗になった。


 私が兄さんと同じ学園に行けない理由。それは単純だった。学力も剣も魔法の腕も足りなかったからだ。


 国内最高峰と言われているエイジェル魔法騎士学園に入るためには、最難関と言われている入試試験に受からなければならない。


 本来、付きっきりの家庭教師などがいなければその入試を突破することはできない。それに加えて、英才教育のような魔法と剣の腕が必要なのだ。


 下流貴族である私の家では、家庭教師は雇えたとしても英才教育ほどの環境はない。例えあったとしても、当時の私では試験を突破することはできなかっただろう。


 兄さんが試験を突破できたのは、兄さんが異常なくらい強かったからだ。


 剣の腕は魔法騎士団であるお父さんを軽く超え、いくつもの魔法を扱うことができた。それでいて、筆記テストも上位で突破し、入試の成績は学年で一番だったという。


 才能があったから。その一言では片付けられないほど、兄さんは修行をしていた。朝早くから夜遅くまで。私とも遊んでくれながら、入試の準備までしていたのだから驚きだ。


 私は兄さんのようにはなれないかもしれない。それでも、兄さんと同じ学園に通うために他の学園に通いながら、仮面浪人をしたのだ。


 自分を追い込むために、兄さんのいない環境で数年を過ごした。


 その努力が実って、ようやく兄さんと家でも外でも一緒にいれると思ったのに。


「おまたせ、兄さん」


 私を待つ兄さんの所に行くと、変わらずに自称妹が兄さんの側にいた。そんな姿を見せられて、私の言葉の節々が強くなっていった。


 私の言葉は機嫌がそのまま口から出たかのように、少しだけ冷ややかだ。私は兄さんにその感情を向けているのではないことを分かってもらうため、視線を自称妹の方に向ける。


 その女はそんな私の態度など気にも留めず、兄さんとの距離を半歩詰めたように見えた。まるで、私に宣戦布告するかのように。


 この女っ!


 兄さんの、お兄ちゃんの妹は私なんだから!


 その気持ち感情に乗せて、私は自称妹を強く睨んだ。


義妹side

 私がこの異世界にやって来た理由は2つある。


1つ目は、キョーマさんに与えた『妹にかっこいいと思われるステータス』が強すぎてしまわないか。


チート能力という物はそもそも世界のバランスを崩す物だ。でも、それにも限度がある。キョーマさんに与えた能力はその天井がない。だから、それがどれほどの物なのか確認をする必要があった。


そして2つ目、こっちが大本命だったりする。


 私が女神になる前に人間として暮らしていた頃、私にはお兄ちゃんがいた。私は根っからのブラコンで、お兄ちゃんのことが大好きだった。多分、お兄ちゃんも同じ気持ちだったはずだ。


 お兄ちゃんは冒険者をしていた。弱くないはずだったのに、お兄ちゃんはある日クエストの最中に命を落としてしまった。


 その兄の名前はタンクスといった。そして、京馬さんの前世の名前はタンクスという。


 つまるところ、キョーマさんは前世での私の兄なのだ。


 後からこのことに気がついた私は、天界からキョーマさんの暮らしぶりを見ていた。


 理想の妹を手に入れて、妹に毎日愛想注ぐキョーマさん。それは、もの凄く充実しているように見えて、楽しそうな日々だった。


 ただ、そんな日常を見せられて何も思わないほど、私は大人ではなかった。


 アリスさんの存在に私は強い嫉妬をしたのだ。


ただ妹というだけで愛を注いでもらっているというのに、その愛情に対してツンとして接している。まるで、愛を受けるのが当たり前みたいな態度。そこまで見えてしまって、私の心は抑えられなくなっていた。


 気に入らない。私が欲しかったものを無条件で手に入れようとしているその様が気に入らない。


 そこで、ふと思ったことがあった。


 キョーマさんの願いは妹が欲しいということだった。そこに、人数の制限はない。それなら、そこに私が参戦してしまっても問題はないのではないだろうか。


 多分、絶対に問題はあると思う。それでも、短い期間でもお兄ちゃんを近くで感じられるのなら……。


 そんな思いから、私はこの地にやってきた。


「おまたせ、兄さん」


 私達が待っていると、そこにはアリスさんがやって来た。


 どうせお兄ちゃんに会えて嬉しいくせに、あえてツンツンと接しているのだろう。一方的に愛を受けることが当たり前だと思っているのだ。


 アリスさんの声色がやや冷たいことから、そんなことを察することができた。


 アリスさんはそのまま視線をこちらに向けた。眼光には実妹としての余裕があるようで、ますます気に入らない。


 お兄ちゃんの愛情を受けるのは、私だけで十分です!


 私はアリスさんに負けず劣らずの眼光で睨み返した。


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