第3話 母乳を貪り妹を待つ
目が覚めると、そこには知らない天井が広がっていた。
いつもよりもはっきりと見える景色。まるで、悪かった視力が回復したかのようだ。
しばらくの間ぱちくりとしていると、10代か20代くらいの女子が俺の顔を覗きこんできた。疲れていながらも、達成感に満ちたような表情。
「ふふふっ、可愛い顔」
あなたの方が可愛いですよと言いたくなるほど整った顔。長く伸ばした金髪が良く似合う女の子だった。
あろうことか、俺はその女の子に抱かれていた。変な意味ではない。抱っこされる形で抱かれていたのだ。
「うー、うー」
上手くしゃべれない言葉。俺よりも大きい少女。記憶にない景色。
……これが異世界転生というやつか。
聞いたことがない言語のはずなのに、意味の分かる言葉。異世界転生時に与えられると言われている言語翻訳を実感し、不思議な感覚に陥っていた。
おそらく、言葉も話すことはできるのだろう。今はまだ話をできるほどの筋力がないから、上手く言葉を話せないだけだと思う。
そんな風に現状を把握していると、左腕に何やら柔らかい物が当てられていることに気がついた。
柔らかく温かい双丘。
これは、もしかしなくとも『おっぱい』という奴なのではないだろうか。
上手く動かない腕をなんとかそちらの方に持っていく。すると、手の平でそれを触ることができた。
「んー? おっぱい飲みたいのかな?」
手に触れた瞬間、昇天するほどの感動が手の平を通して伝わり……いや、伝わらないな。何というか、人間の脂肪を触っているような感じだ。
おかしい。エロ漫画とかでは触れた瞬間に射精するくらいの勢いなのに。
人生で初めて触れたおっぱいの感覚は、拗らせ過ぎた俺にとっては感動が薄かった。
「ちょっと待ってね」
そう言うと、何を考え出したのか目の前の女の子は着ていた服をはだけさせ、片方のおっぱいを俺の前に露出させた。
「あー、あー(ま、まじすか?! い、いいんですか?!)」
「ほら、飲んで」
目の前には女の子のおっぱいが露になっている。触れるだけではなく、舐めて吸う許可を目の前の女の子は出したのだ。
これって、犯罪とかにならないだろうか。誰かに見られでもしたら……。
「おー、ちゃんとおっぱい飲むんだな」
俺の心配が的中したのだろう。俺の景色の一端に若い男がカットインしてきた。ふらりとした体躯に、短く切り揃えられた短髪。そして、甘いマスク。状況的に見ても、この男性がこの女の子のパートナーであることが察せられる。
「あー! あー!!(ち、違うんです! まだ未遂です!)」
「ちょっと、ルーク。急に話しかけるから驚いちゃったじゃないの」
「え、ただ話しかけただけなのに。ご、ごめんな!」
俺は冷や汗をかきながら、必死で弁明をした。しかし、俺に怒るどころかルークと呼ばれた男性は俺に謝罪をしたではないか。
「ほら、キョーマ。ちゃんと飲みなさい」
自身のおっぱいを差し出す女の子と、その様子を穏やかな顔で見守る男性。
新手の寝取りプレイという奴だろうか?
いや、そうだった。俺は今赤ちゃんなのだ。つまり、ただ授乳をしているだけ。お咎めを受ける云われはない。
つまり、俺は合法的に若い女の子のおっぱいを舐めて吸ってもよいということか。
「くちゅっ。ねちょっ。ちゅっ」
「……っん。ふぅ」
「ちゅぱっ。ちゅー。ちゅっ」
「っん。あんっ」
「……イーナ。なんかこの子のおっぱいの吸い方いやらしくないか? なんか、こっち見てるし」
「ふふっ、ルークに似たのかしらね? ほーら、ちゃんと飲まないとダメでしょ」
寝取られプレイを意識して乳頭を弄っていると、イーナという女の子に怒られてしまった。
仕方がない。赤子に興じるとしよう。
そう思い、おっぱいを真剣に吸い出した時だった。
「っ!(なんだこの豊潤な旨味は! ただの牛乳とは違い、確かな甘みと温かさがある。体が欲している必要な栄養素全てを含んでいるようで、飲むたびに母乳を欲する欲がとまらないくなる)っ!(乳首なんか弄ってる場合じゃないぞ! そんなことよりも母乳だ!)」
「おー、ようやく普通に飲みだした」
「本当。元気がいいのね」
女の子に抱きかかえられながら、俺は本能の赴くままに授乳されていた。それは唐突な眠気が襲われるまで留まることはなかった。
それから目を覚ますと、しょんべんをしたくなった。尿意を知らせるために泣き、便意を感じたら泣き、お腹がすいたら泣いた。
そのループを何百と繰り返し、俺はすくすくと成長していった。
初めはお風呂屋のように体を綺麗にしてくれるイーナにドキマギしたが、それが毎日続くとさすがに落ち着いてくる。
何より、産まれてすぐ過ぎて性欲があまり湧いてこなかった。倦怠期に入った夫婦の気持ちが分かり始めた今日この頃。
俺は待望の日を迎えることになる。
「おぎゃー! おぎゃー!」
俺は首が座り、ある程度自在に歩けるようになった。
産声を上げるその先に目を向けると、俺が一年前に見た光景が広がっていた。
イーナに抱かれている、産まれて間もない赤ちゃん。
まだ容姿ははっきりとしていないが、俺達の両親から生まれた赤子だ。当然、容姿が整っていないはずがない。
気のせいかもしれないが、一瞬その赤ちゃんと目が合った。
それだけのことだというのに、俺の心は小さく跳ねあがっていた。
今日、俺に妹ができた。
異世界での妹とのイチャイチャ生活。それが幕を上げたのだった。
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