同郷の幼馴染?
「――武器を捨てろ!」
唐突に始まった十六夜薔薇さんとの決闘?
その勝敗が決したはいいものの、ここは往来の激しい大通りに面したレストラン。
それ以前に、第二騎士団の凱旋の最中だ。
当然、第二騎士団の団員たちに包囲される。
さて、この状況をどうやって切り抜けたものだろう?
逃げるだけなら何の問題も無い。
しかし、逃げた後が問題だ。
冒険者資格は停止になるだろうし、何よりアヤさんの立場が悪くなるだろう。
それなら、大人しく捕まるか?
そちらの選択の方が有り得ない。
典型的な専制政治であるこの国で、容疑者のまともな取り扱いがされる可能性は限りなくゼロだ。
そもそも、僕はどんな冤罪で剣を向けられたか分かってすらいない。
……よし。
ここは十六夜薔薇さんを脅そう。
ステータス画面を開き、彼女にフレンド登録の申請を送る。
驚いた顔をする十六夜薔薇さんだが、少し思案した後、僕からのフレンド申請を受理した。
これでチャット機能によるメッセージのやり取りができるようになった。
まず、これから第二騎士団の団員たちに披露する演技のシナリオに従う旨の文面を送る。
そして、これを無視した場合、発生する惨状を克明に記載する。
顔を青くする十六夜薔薇さん。
こちらが確認のメッセージを送るより早く、彼女から了承のメッセージが届いた。
「最後の忠告だ! 武器を捨て、投降しろ!」
騎士たちの包囲が狭まっていく。
そろそろ始めよう。
「皆さん、剣を収めてください」
「ローズ団長?」
「ええっと、これは……その……」
……十六夜薔薇さん。
貴女、配信していたはずなのに、何でこんなにアドリブ力が無いんですか。
ここは下手に彼女を喋らせるよりも、僕が話した方がいいかもしれない。
「ローズがお世話になってます。私、ローズの幼馴染のアラタと申します」
幼馴染というフレーズに、一部の騎士らの警戒心が緩む。
しかし、大半の騎士は気を緩めることなく、僕の隙を窺っている。
なかなか練度が高い。
「本当ですか、団長?」
「ええ、間違いありませんわ」
十六夜薔薇さんが僕の言葉を認めたことで、ようやく場の空気が弛緩した。
しかし、まだ警戒をする騎士も居る。
「ですが、なぜ唐突に剣を抜いたのですか」
「ええ⁉ あ、それは……」
「ローズは昔から喧嘩っ早い性格なんですよ。おそらく、ここでも色々と無茶なことをしているんじゃないんですか?」
「そ、そんなことありませんわ‼」
団員たちに助けを求める十六夜薔薇さんだが、彼らは皆、揃って目を逸らす。
その反応に「裏切られた!」という表情をする十六夜薔薇さん。
やっぱり、治ってなかったか。
動画でも後先考えずに、よくモンスターに突撃しては痛い目を見ていた。
猪突猛進な性格は、異世界に来た今でも健在のようだ。
騎士団の活動でも、同じことをしていたのだろうか?
最後まで疑っていた騎士が、僕の説明を心底納得したような表情をしているんだから……したんだろうな。
ゴブリンの大群に「総員、突撃!」とかやってそうだ。
僕に対する疑いの目は完全に晴れたので、もうナイフを下げてもいいだろう。
「故郷に居た時も、毎日のように勝負を挑んできたんですよ」
「それは……」
十六夜薔薇さんを擁護する言葉が見つからない団員たち。
これだけで、彼らの日頃の苦労が窺い知れる。
「……今すぐ彼への『ご愁傷様です』みたいな顔を止めなさい。さもないと、次の討伐作戦の一番槍は――」
「この場は異常なし! 団長は旧友殿を屋敷に招くそうなので、王城は我々のみで向かう‼」
「騎馬は馬房へ戻すよう指示しました!」
「団長と旧友殿を乗せる馬車の手配も済みであります!」
「よし! 撤収‼」
流れるような連携で戻っていく騎士たち。
そのまま、何事もなかったかのように凱旋を再開する。
流石は国防の一翼を担う第二騎士団だ。
「愛されているようですね、ローズ団長」
「……次の訓練、覚えていらっしゃい」
あっ、行進していた数人が足をもつれさせた。
十六夜薔薇さんの呟きが聞こえたのかな?
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