ゴブリンキング-2


 戦いはレイの一矢によって開幕した。


 ゴブリンシャーマンの頭部が吹き飛ぶ。


 突然の襲撃に、モンスターたちの間にも動揺が走る。


 しかし、ゴブリンキングの統制により、すぐさま平静を取り戻した。


「作戦開始!」


 レイの号令に、モンスターたちの注意が向く。


 そこに盾持ちのドミニクが、アビリティ【ウォークライ】を発動させた。


 モンスターのターゲットが、レイからドミニクへと移り変わる。


 しかし、ゴブリンキングは【ウォークライ】の効果をレジストしたようだ。


 他がドミニクへと走り出す一方、キングはレイを狙って動き始めた。


「させるか!」


 キングは手に持っていた棍棒を掲げ、剣士のピーターが使うアビリティ『スラッシュ』を受け止める。


 その隙に、レイは移動を開始した。


 ゴブリンキングはピーターが足止めしている。


 残りのモンスターも、ドミニクに注意が向いている。


 戦いの流れは、完全にレイたちのものだった。


「『ファイアストーム』」


 魔女のエマが詠唱を完了させた魔法を解き放った。


 彼女の杖から現れる、巨大な炎の渦。


 渦はドミニクを目掛けて走っていたモンスターたちを、横から飲み込んだ。


 レイも移動を完了させ、エマの魔法が討ち漏らしたモンスターを排除していく。


 正確無比な矢の雨が、モンスターの急所を狙い撃つ。



 開幕から数十秒で、取り巻きは地に伏せた。


 残るは、キングのみ。


「来いよ、木偶の坊!」

「ガアアアァ‼」


 ドミニクの【ウォークライ】により、キングのターゲットがピーターから移り変わる。


「喰らえ!」

「ギヤアアァ‼」


 がら空きになったキングの背を、ピーターの剣が斬り裂いた。


 HPが大きく減少し、堪らず叫び声を上げる。


「『ファイヤアロー』」


 レイの矢とエマの魔法が、反撃のために振り上げたキングの腕を貫く。


 蓄積されたダメージに、ゴブリンキングは膝をついた。


「これで終わりだ‼」


 ドミニクの振るったメイスがキングの頭部に直撃し、その頭蓋を粉砕する。


 白目を剥いたキングはその場に倒れ、軽い地響きを轟かせた。


「やったか?」

「待ってくれ……目標の沈黙を確認した」

「これでスタンピードも収束ね」

「……」


 ボスモンスターの討伐に安堵する【勇敢なる剣ブレイブ・ソード】の面々。


 その中でレイだけは、ゴブリンキングの亡骸を浮かない顔で見つめていた。


(終わったの? このゴブリンキングが、あれだけの規模のスタンピードを引き起こした? 本当にそうなの?)


 あまりにも呆気なさ過ぎる。


 レイの胸中には、言い様のない不安が渦巻いていた。



――地響き


 静まり返る森。


 動物も、鳥も、虫も。


 森に棲む生物は皆、嵐が通り過ぎるのを待つかのように息を潜める。


「なに……コイツ?」

「ゴブリンキング……なのか?」


 レイの不安を体現するかのように、それは森の奥から姿を見せた。


 一見すると、そのモンスターはゴブリンキングのような見た目だった。


 異なる点は巨大であること。


 五メートルを超える巨躯は筋肉質で、一歩踏み出す度に小さな地鳴りが起こる。


 さらにその巨人は、右手に岩を削り出したような大斧を携えていた。


 レイは即座に【鑑定】でモンスターの情報を確認する。


「【ゴブリンエンペラー】? レベルは……【129】?」


 ギルドマスターを任されるだけあり、レイのレベルは80を超えていた。


 その彼女を以てしても、現れたモンスターが【ゴブリンエンペラー】という種族であること。


 そして、レベルが【129】であるという情報しか得られなかった。


 これが示すのは、ゴブリンエンペラーがゴブリンキングとは比較にならない力を持つことに他ならない。


 そして、この場に居る四人では、到底敵う相手ではないということだ。



 ゴブリンエンペラーの眼光が四人を捉える。


 ターゲットに選ばれたのはエマ。


 大斧が空に掲げられる。


「! 回避‼」


 レイが【勇敢なる剣】のメンバーに指示を出す。


 それは恐怖に戦慄する、レイ自身を鼓舞するための号令だったのかもしれない。


 しかし、突如として現れた強大なモンスターに、臆したエマは動くことができなかった。


 熟練と言われるBランク冒険者であっても、ゴブリンエンペラーの放つ圧には逆らえなかった。


「エマっ‼」

「クソが‼」


 ドミニクが大楯を掲げ、エマとゴブリンエンペラーの間に入る。


 そして、アビリティを発動させた。


 アビリティ『アイアンウォール』。


 その効果は、使用者のVIT防御力をアビリティ発動中1000%にするというもの。


 盾持ちで素のVITが高いドミニクは、装備によってもVITが上昇している。


 さらに、大楯【ミスリルシールド】は、物理攻撃の10%を軽減する効果もある。


 彼の使う【アイアンウォール】は、絶大な防御力を誇っていた。


 振り下ろされた大斧とミスリルシールドが激突する。


 重々しい金属音が森に響く。



 競り勝ったのはゴブリンエンペラーだった。


 吹き飛ばされたドミニクは、数十メートル先の樹に激突する。


 彼が手にしていたミスリルシールドは、大斧を防いだ衝撃で完全に大破してしまっていた。


「このっ‼」

「待ちなさい!」


 自棄を起こしたピーターがゴブリンエンペラーに斬りかかった。


 彼の使うアビリティ『アークスラッシュ』は、【剣術】スキルのレべルによって与えるダメージ倍率が変化する。


 ピーターの【剣術】のレベルは7。


 倍率700%にもなる高威力のアビリティ。


 それを前に、ゴブリンエンペラーは冷静に大斧を構えた。


 飛び散る火花。


 剣と大斧がせめぎ合う。


 一瞬、ピーターの剣がゴブリンエンペラーを押したかのように見えた。


 ただ、それから一向に、両者の立ち位置が変化することは無かった。


 アビリティを防がれ、隙のできたピーターに、ゴブリンエンペラーの拳が迫る。


 そこに、レイの放つ火属性が付与された矢が飛来する。


 アビリティ『天弓』により、属性攻撃の威力が高められた一撃。


 火に弱点を持つゴブリン系のモンスターならば、大ダメージは免れない。


 はずだった。


「嘘っ……」


 レイの矢は、ゴブリンエンペラーの腕を吹き飛ばすどころか、分厚い皮膚に浅く刺さるに留まった。


 腕に刺さる矢を鬱陶しげに引き抜いたゴブリンエンペラーは、ピーターを殴り飛ばすと、巨大な手でレイを掴んだ。


 万力のような力に骨が悲鳴を上げる。


 レイのHPは凄まじい勢いで減少していく。


(ゴブリンキングじゃない。スタンピードを起こしたのは、コイツだった)


 薄れゆく意識の中、レイは己の過ちを悔いた。


 最期に彼女の頭の中に思い浮かんだのは、守れなかった町や人々に対する謝罪の言葉だった。








――その時、一本のダガーがゴブリンエンペラーの眼球を貫いた

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