ゴブリンキング-1


「アラタ‼」


 僕の名前を呼ぶ声に振り返る。


 そこでは、スタンピードの最前線で無双していた騎士団長テオさんが、ゴブリン数十匹を薙ぎ払うところだった。


「アラタ、このスタンピードが普通じゃねぇことに気付いてるか?」

「モンスターの数が尋常じゃないですね」

「ああ。最悪なのが、今以上に増える気配がしやがる。それに――何か、嫌な予感がする」


 雑談をしながらも、僕たちはモンスターを斬り伏せる。


 第二ウェーブも中盤といった頃合いだ。


 あと数十分もすれば、第三ウェーブに突入する。


 そうなると、今の倍以上のモンスターがレーネに殺到することになるだろう。


「お前に言うのは筋違いなんだが、ひとつ頼みを聞いちゃくれねぇか?」


 軽口の多いテオさんが、いつになく神妙な口調で語り始める。


「何ですか?」

「ボスモンスターを倒してほしい」


 本当、筋違いも甚だしい頼み事だ。


 Cランクの、それも冒険者登録して一週間の相手にするような頼み事じゃない。


 だけど、僕はテオさんのお願いを受けるつもりだ。


 この素晴らしい世界。


 夢のような“レジサイド・オブ・サーガ”の世界から、レーネの町が消えてしまうのは、あまりにも惜しい。


「ボスモンスターの討伐、引き受けます」

「お前なら言ってくれると思ったぜ! っと、その前に道を造らねぇとな」


 今かかボスモンスターを探すとなると、迂回などせずにモンスターの群れを突っ切るのが最短ルート。


 だが、森からは大量のモンスターが湧き続けている。


 そこを駆け抜けるのは至難の業だ。


 テオさんが大上段に大剣を構える。


 そして、僅かな溜めの後、目にも留まらぬ速さで振り下ろした。


「『断風』」


 嵐のような斬撃がモンスターの大群に襲い掛かる。


 大量に舞い上がる土煙。


 それが晴れる頃には、森まで続く戦場に一条の空白地帯が出来上がっていた。


 流石、全キャラクター中、最高峰のSTRを誇るNPCのアビリティだ。


「往け! アラタ‼」


 テオさんの造ってくれた道を駆け抜ける。


 しかし、なぜテオさんはレーネに居たのだろう?


 ストーリー上では、騎士団長として国王の護衛を務めるNPCだったはずだ。


 それに、もっと冷徹で、口数の少ないキャラクターとして描かれていた。


 テオさんの人格に変化を与えるような出来事が、何かあったのだろうか?


 疑問を抱きつつも、僕はボスモンスターの下へと急ぐ。



***



 Bランク冒険者パーティー【勇敢なる剣ブレイブ・ソード】の三名にギルドマスターであるレイを加えた四人は、ウォーツ大森林を探索していた。


 彼らが狙うのはボスモンスター。


 スタンピードを引き起こした元凶である【ゴブリンキング】。


 ゴブリンキングを倒すことにより、スタンピードは収束するとレイは考えた。



 一行は、レーネの戦線に巻き込まれて消耗することを避けるべく、大きく迂回して森に侵入した。


 そのため、現在までモンスターと戦闘を行うことなく探索が進んでいる。



(それにしても妙ね。いくらスタンピードとは言え、ここまで森が静かになるのかしら?)


 レイは改めて、スタンピードについて思い返す。


 今回の件はイレギュラーが立て続けに発生していた。


 モンスターの脅威が比較的少ないレーネにおけるスタンピードの発生。


 また、そのスタンピードが、過去に例を見ないほど大規模であること。


 レイは、レーネをホームにする冒険者たちから、森の異変の報告を聞き、即座に調査を派遣した。


 調査を依頼したのはCランク冒険者数名と【勇敢なる剣】の面々。


 そして、所用でレーネを訪れていた王国騎士団長のテオと、その数名の部下。


 初動としては完璧であった。


 スタンピードの兆候が表れているとの調査結果を得て、すぐさま人員の応援と物資の確保に移る。


 さらに、町の住民たちに避難の勧告を出そうとした。


 その矢先のスタンピード発生だった。



「……見つけました」


 探知の魔法で周囲を探っていたエマがモンスターの存在を捉えた。


 一行は気配を絶ちつつ、モンスターの居る場所へと接近する。


 森の一角に作られた、即席の野営地。


 そこに、モンスターが集結している。


「鑑定します……【ゴブリンキング】レベル87です」


 パーティーリーダーのピーターが【鑑定】を使った分析で、情報を共有する。


 ゴブリンキングは亜人系ゴブリン種の中でも最上位に位置するモンスター。


 体長は2メートル強で、レベルからも分かる通り、優れた身体能力を有する。


 また、周囲のゴブリンに対して強化バフをかけるため、群れになると危険度が跳ね上がる。


「取り巻きが居るわね」

「ああ、面倒だ」


 近接格闘の【ゴブリンファイター】。


 弓による遠距離攻撃が厄介な【ゴブリンアーチャー】。


 回復やデバフを多用してくる【ゴブリンシャーマン】。


 その他、複数のゴブリン系モンスターの上位種が確認できた。


「どうしますか?」

「まず、開幕でシャーマンを倒しましょう。回復とデバフを使われれば、その後の戦闘に大きく差し支えます」


 四人は野営地とモンスターの配置を確認後、討伐のための作戦を立てる。


「私が初手でシャーマンを排除します」

「ギルマスの攻撃の後、俺が【ウォークライ】でゴブリン共を惹きつける」

「意識が逸れたところで、私とギルドマスターが取り巻きを仕留めるわ」

「その間、僕とドミニクがゴブリンキングの足止めをします。よろしいでしょうか?」

「はい。くれぐれも無理はしないように」

 

 四人は、それぞれの役割を確認した後、所定の位置に移動する。



 レイは一足早く移動を完了させ【勇敢なる剣】のメンバーの準備を待つ。


(モンスターの生息域に変化が? ……いえ、今はボスモンスターとの戦闘に集中しなければ)


 程なくして、三名の移動が完了した。


 レイは弓に一本の矢を番えると、ゴブリンシャーマンに狙いを定める。


 彼女が番えた矢には火属性の属性付与エンチャントがなされている。


 そのため、火が弱点であるゴブリン種には大きなダメージを与えられる。


 さらにレイは、アビリティを発動させる。


――アビリティ『風の一矢』


 敵からの未発見状態時、攻撃の命中率と威力が上がるアビリティ。


 音も無く放たれた一矢。


 その威力は絶大で、ゴブリンシャーマンの額を穿ち、そのまま頭部を吹き飛ばした。



「作戦開始!」



_______


『断風』

・片手剣、大剣の共通アビリティ。

・使用する武器で、攻撃の倍率は変化。

・ゲームシステムから解放されたことにより、攻撃の射程上限も撤廃されている。

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