第一章 はじまりの町

はじまりの町-1


 ウルフとの戦闘した地点から北へと進む。


 すると、平原の向こうに石造りの壁が見えてくる。


 ここが最初の目的地、スタング草原の只中に佇むこの町の名は『レーネ』。


 通称『はじまりの町』の名でプレイヤーたちの間で親しまれていた町だ。


 ストーリー上では確か、田舎の村から出てきた主人公がこの町を足掛かりに活動の輪を広げていく、といった設定のある町だったはずだ。


 町をぐるりと囲む壁はモンスターからの侵入を防ぐためのものであり、出入りするためには東西南北四ヶ所にある門を利用する必要がある。


 懐かしい。


 レベルの上昇によって能力値が上がれば、序盤の町やフィールドにはクエストを進行するでもない限り殆ど訪れる機会はなかった。


 よって、このレーネの町はスタング平原同様、久し振りに訪れるエリアだ。


 記憶は薄い町だけど、ここでやるべき事は分かっている。


 ゲーム序盤でまずしなければならないのは、能力値の向上とスキルの取得。


 そのためのレベル上げに、このレーネは最適な立地だ。


 レベル10前半までは南にあるスタング平原で弱いモンスター相手にキャラ操作の練習。


 慣れてきたら東にある『ウォーツ大森林』でコンスタントに経験値を稼ぐというパターンが定石だった。


 これからしばらくの間、このレーネを拠点に活動していく。


 レジサイド・オブ・サーガでは、ステータスの能力値による優劣は当てにならない。


 確かに、高水準のステータスを持っていた方が戦闘には有利だけれど、状況によっては幾らでもアドバンテージを覆すことができる。


 極端な話、相手とのレベル差が100あろうが1000あろうが、能力やスキル構成次第では倒すことができる。


 アイテムや不意打ち、特殊な装備を使えば、一撃で相手を倒すこともできる。


 しかし、それはの話。


 いくつもの要素が、奇跡的に噛み合った場合の話だ。


 実際、レベルが1000も離れていれば、相手が余程の馬鹿か間抜けか、それとも初心者でもない限り、勝つことは不可能。


 精々、200か300上のレベルの相手と対等に渡り合えれば御の字だろう。


 しかし、ここはゲームではなく、ゲームを基にしたであろう


 感覚や経験なんて不確定要素がある以上、万が一に備えて能力値を上げるに越したことはない。


 それに“痛覚”なんて要素もある。


 痛みは動きを鈍らせる。


 鎧が破損するような打撃を受けても、ポーションを飲めば回復、みたいなことができる訳がない。


 そして、おそらく、この世界の“死”は文字通りの死に繋がる。


 コンティニューはもちろん、蘇生魔法すら使用できるのか不明。


 新たに授かった第二の人生。


 このチャンスを棒に振るような真似はしたくない。


 全ての行動はゲーム遊びではなく、実生活全てに帰結し、戦いに表われ、何よりも生きることに繋がる。


 気を引き締めるべく、両手で頬を叩く。


 手のひらと頬からヒリヒリとした感覚が伝わり、心なしか頭がスッキリしたように思う。


 僕はレーネの町へと一歩を踏み出した。

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