第99話 従属する神々
騎士に成れなかった父が自らの錬金術で
息子であったヴァイロは、自分に父が思いを託したのだと、身勝手な思い込みでこの剣の所有権を主張した。
そこへ現れたフォルデノ王国の聖騎士が「自分にこそ
「ふぁ、ファウナさまっ!?」
「んっ? 何言ってんだこの
突然降って湧いて出たファウナを名乗る女性の声。当然ヴァイロにしか聞こえていないので、相手は全く要領を得ない。
―おっと口に出してはいけないよヴァイロ君。君はまるで女性の
―んっ!? ……そ、それは…その、あの………。
―アハハハッ、良いのだ良いのだ。実に健全な男の子の気を
この命を
声だけなので見た目は、その
―……で、どうするかい少年?
―えっ、ど、どうするって…………。
―いやだからさあ、僕の
従属神…………。要するにファウナにこそ逆らえないが「神様にならないか?」と
いよいよ訳が判らない話であるが、目前に迫る
―わ、判りましたっ! その話、御受け致しますっ!
―うむっ、
―え………。そんなお気軽に!?
―さあ私の可愛い従属神ヴァイロ君。あのふざけた騎士へ向かって左手をかざすのだ。
飼い犬のように従う少年に対し、満足気に
「ガキっ! 一体何のつもりだっ!」
「「おっとそれ以上近づいたら、その
(ぼ、僕は一体何を言っているんだあぁぁ!?)
怒りを
声変わりを迎える前の少年の甲高い声と、ファウナの低音が混じり合い、異様な音質に変化する。これを聞いた騎士は流石に気味が悪いと少しだけ
「ば、爆炎の
「「我は森の女神ファウナの従属神だぞっ! 貴様の首なんぞ
(ふぁ、ふぁ、ファウナさまぁぁ!?)
直ぐに我を取り戻し、再びヴァイロへ向けて剣先を突き付ける騎士。もう一歩踏み込めば少年は串刺しだ。
それにも関わらずファウナは
「森の女神ファウナっ!? 知らんな、そんな神は」
「「何とっ!? 知らぬと言うのかっ! ……ヤレヤレ、これはとんだ三流騎士だ。その鎧、確かにフォルデノの聖騎士には違いないが、きっと末席……。いや、万年見習いに違いあるまい……」」
(あ、嗚呼……。な、何てことを)
よって
「ま、魔法だと? とんだお笑い草だ。騎士を諦めて錬金術師になった親父と、
「何ィ!? い、今なんて言った?」
これにはヴァイロ、心底驚き、つい今しがたまでファウナに
「何だ知らなかったのかガキ? 今言った通りだ。お前の親父が母を買い、もう互いに中年を過ぎていたから、こんな枯れ果てた
(し、知らなかった……っ!)
騎士にして見れば、叩き斬る前に挑発で気を
なれどヴァイロは、両親を心底尊敬していた。
「だったらどうしたって言うんだァッ!!」
「生きる価値なしって言ってんだよッ! 死にやがれこの
「「
心の中に浮かぶ両親。相手はこの少年の
加えてこの少年の全てが気に入ったファウナすら巻き込んで、初詠唱の叫びが激化する。これはもう魔法というより、魂の怒りの解放に近しい力だ。
敵は曲がりなりにも騎士だ。その剣先さえ詠唱よりも先に届けば、相手はただの
だがツリーハウスを支える樹の枝葉が急激に伸びて、その初太刀を
後は短い
「ハァ、ハァ………」
―良くやった、素晴らしいよヴァイロ。私の可愛い従属神……。
初めての魔法、初めての殺人、初めての勝利。余りに無我夢中で興奮も罪の意識も爆炎と共に吹き飛ばしたヴァイロ。
後に残ったのは燃え残った炭火の如く熱い息を漏らすくたびれた少年の姿だ。見える筈のない、触れる筈のない森の女神が後ろから抱き締めて、小さな勇者の勝利を
「「これより我はファウナの従属神ヴァイロを名乗るっ! この陽の目を見ないカノンにおいて我はその暗黒を飲み込む神と成ろうぞっ!」」
最後に勝利の宣言代わりにそう告げてから、少年は前のめりに倒れた。
この少年の立ち振る舞いは、カノンのみならず、フォルデノ王国や、隣のラファンにも
カノンという
それを
……にしてもファウナ、緑髪のあの少女に瓜二つであるのかも知れない。
◇
「暗黒神………。クククッ、実に良き響き。喜べ、これより我がマーダが引き継いでくれようぞ」
―い、いけないっ! ライラ姉さまっ!
―………判っているトリル。
胸を張り、この世に生ける者全てを見下したかのような態度でマーダが宣言する。同じ暗黒神でも人の礎になる気は毛頭ない存在の誕生に、傭兵シアンの中にいる妹トリルの思念体と、姉ライラが一早く反応した。
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