第98話 我が従属となる勇気はあるかな?
ヴァイロ・カノン・アルベェリア。
ミドルネームのカノンは
彼の
やはり同王国で貿易商を
両親共に
実は父の職業柄、カノンに眠るといわれる地下資源が、錬金術の研究において興味が湧いたというのが、本音のところであったらしい。
母が43の時に、ヴァイロが生まれた。両親がそもそも余り家を出る生活をしていなかったの上に、父は研究用の書物を大量に所有していた。
母も貿易で様々な国から収集した珍しい物品をコレクションにしていたので、それらが幼いヴァイロにとっての玩具となってゆく。
元々身体が弱く、出産が遅かったことも
父が元々は騎士を夢見ていた証拠に、当人の剣を
加えて妻に先立たれたことで気力を
しかし親が残した財産があり、金には余り不自由することもなく、暫くは家で独り暮らしを続けながら、いよいよ誰にも邪魔されることなく、家にある本に
カノンという土地に唯一の不満があったのは、樹木のある山が極端に少ないことであった。
「ファウナ……森の女神様……」
そんな緑に飢えていたヴァイロ少年が見つけた森の精霊達を
もっとも最初に興味を抱くきっかけになったのは、そのファウナの挿絵が余りにも愛らしかったという、実に少年らしい理由であるのだが。
しかしまさか自分が、ファウナの
やがて両親の残した家が独りで暮らすには大き過ぎると感じ、これも本で読んだ知識を参考にツリーハウスを作り始めるようになる。
もっとも初めのうちは鳥小屋……ですらマシと思える程の鳥の巣のような雑な作りで、これに少しづつ増改築を繰り返し、何れリンネと暮らすことになる家に進化してゆく。
そんな
◇
鎧も装備も、長い髪の色や肌の色すら白であった麗しき女性の姿を完全に失ったばかりか、最早、人の形すら成していない状態。
右手に辛うじて握られた
皮肉にもアギドの姿でマーダが告げた身体と能力を乗っ取るための最低条件と完全に一致したのだ。
「く、苦労したよ暗黒神。……だがこれで貴様は私のものだ」
本来ならば堂々とした声で勝利宣言をしたいエディウスだが、こうもボロボロではそれすら叶わなかった。
けれどそんな
「ヴァ、ヴァイロ様が……」
「エディウスに吸い込まれてゆくだとっ!?」
黒が白に飲み込まれてゆく……。その状況を目の当たりにしたハーピーのルチエノが言葉を失い、レアットは驚きを隠せない。
ブラックホールに吸い込まれる哀れな星々のように、ボロ雑巾であったエディウスへ吸い取られ、主を失った
そして
それは時間にしてほんの数秒の出来事であった。
「おおっ! こ、これが暗黒神の身体ッ! 力ッ! す、素晴らしいぞッ! アギドとかいう小僧とは比べようがないッ!」
新しい肉体を得たマーダが
「おっと、落ちるな。お前の主は此処にいる」
落ちてゆくのを待つだけの筈であった
「ふむ……。この剣も悪くない……。ほぅ、成程。この剣は貴様の父が錬成したのか。貴様があの
自らの身体の中に魂毎取り込んだヴァイロの意識から、マーダは
「………にしてもこの身体、いや能力すら既に
こうしてさらにマーダが、ヴァイロの中を
◇
ヴァイロ12歳の時であった。まだまだ住居として不出来なツリーハウスに
赤い竜の
「……お、お前はい、一体何者だッ!」
重くてとても持ち上げられない
「俺か? 貴様の御父上殿を騎士の選別試験で叩き落としてやった有能な聖騎士様よ。今日はその剣を譲り受けに来たァ!」
「こ、これは……ぼ、僕の、も、物だっ!」
「おーおーっ、これはこれは随分と
何とこの騎士は、ヴァイロの父の夢を断ち斬った男だという。しかもあろうことか
ヴァイロ少年にしてみれば何とも腹立たしい認めようのない話だ。けれど身体と声の震えが止まらない。
騎士はヴァイロに向かって盾を投げ込んで来た。子供相手に盾なぞ要らぬという気持ちの表れか。
「グワッ!?」
その盾すら
それでもなお、
「御立派だな、実に
「ヒッ……」
聖騎士は自らのロングソードを
このままでは武器はおろか、自分の命すら奪われるであろう。それは後ろの鳥小屋が少しの風で吹き飛んでしまう程に当然の
―フフッ……我が好きな少年よ。身も心も我が従属となる勇気はあるかな?
突如ヴァイロ少年の心の中に、麗しき女性の声が働きかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます