第59話 良くありそうなありえない話
息を切らしながら
後は私が代わりに語ろうと告げているような優しさがエターナに伝わる。
「全て
「シアン?」
「これを
もうシアンの話を聞くまでもないといったその態度に、少しだけ師匠は口を
「確かにな。
「で、でも確か……賢士達も"戦の女神よ"って、まるで祈りを
ルオラや洞窟における賢士との戦いの記憶を
「ミリア、アレは
「ど、どういうことだってばよっ!?」
シアンの顔はずっと曇り続けている。実際にはトリルの全てを
だが説明を少しでも円滑にするべく、
口を開く者の方をキョロキョロ見ながら聞いているアズールだが、全く持って理解出来ない。
「しかし司祭の力がどうしても解せなかった。エドルの力で個ではなく範囲……要は複数を相手取り、術を封じたりするあの力は、説明がつかないのだ」
「た、確かに賢士は基本一人を相手に術を。私もようやく理解が追いついて参りましたわ」
両手をパチンッと合わせて理解を示すミリア。やっぱりアズールは解せないので、
「…………あのトリルは賢士の能力を考案し、さらにエターナが構築した女神の力を、さも自身が
「はい、おっしゃる通りです。戦いに有効な賢士と、人々を救い
「
エターナの肩に置かれたシアンの手が
「す、すまない二人共。エディウスが
「あ………申し訳ございません。私はエディウスに
「あ、謝る必要はない。そ、そうか………」
(それはおかしいのではないか? 俺がエディウスを名乗るのなら真っ先に
けれど話の腰をこれ以上折るの
「
「そ、それは………」
ヴァイロの違う追及に対し、急変して応答を
「ふぅ……喋る順番を間違えたなエターナ。後者は特に言いづらいことだろう。あ、スマンッ。心の中が見えてしまったのだ、
「い、いえ……だ、大丈夫…です。私は幼少の頃、コボルトの群れに生家を襲われて…わ、私だけが……生き残りました」
土足で相手の中に入った行為をついでに謝る感じのアギド。出来る人間というもの程、実は順番を間違えている
対して
そして彼女が力を求めた理由だが、これは実に良くあると言わざるを得ない。要は同様の悲劇を生みたくないという奴なのだ。
「気に
「えっと………ヴァイロ様の軍に合流した際には、正直黙っているつもりでした。こんな
今度は少しバツが悪そうな表情に変化するエターナ。
そもそも敵軍からやって来たというだけで異様なのに、実は自分こそが
「でも………ヴァイロ様の暗黒神として戦う決意を
「んっ!? お、俺がきっかけ!?」
此処でようやくエターナに笑みが浮かぶ。周囲の連中も釣られてニヤニヤしつつ、自分達の総大将を
「はいっ! 否定されてもこれは絶対です。自分は悪だと断定しつつも皆を受け入れるいう
「え………、そ、そうなんだ。へ、へぇー……」
「正直私は神を名乗り、私の能力を皆も使って欲しいなどと大きな事はとても申せませんが……せ、せめて正義は此方に在ることを示すお手伝いが出来たらと存じますっ!」
そんなこと言ったかな……といった気分で目を泳がせるヴァイロ。少し顔を赤らめながら恐らく今出せる一番の声量を絞り出すエターナである。
自分は悪………自分は暗黒神なら、匂わす発言をしていたかも知れない。
なれど悪だと認めた覚えはないのだ。
(ま、いっか……。それで彼女が前に進めるのなら、俺は喜んで道化になろう)
開き直ったヴァイロは、笑顔を作ってエターナへの返答とした。
……に、しても彼はやはり鈍いのである。声など出さなくとも、自分のこれまでの行いが、周囲の目には悪を名乗る正義の男だと認知されていることに気づいていないのだから……。
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