第5話 白の移り気
リンネは
(恥ずかしい……でも言わなきゃ)
心の中に浮かぶ愛する人との
一見
「あ、アンタが付けてくれた私の名前の話、覚えてる?」
「あ、そりゃあな。勿論覚えているさ」
「リンネ……遠い東の果てにある異国の言葉で”
話は彼女がまだリンネと呼ばれてなかった頃に
しかし赤子の時には、流石にこれを自分で操る事が出来なかった。自分の意志と関係なく様々な音が両親の耳を行き交う。それも
後にリンネを預かる事になった施設長が、両親から聞いた話によると、夜泣きに困るなんて
嵐、竜の雄たけび、火山の爆発……それはもう、ありとあらゆる音で両親は頭がおかしくなりそうだと言ってきた。
その原因が自分の娘にあると理解した時、将来の可能性よりも、いつ終わるとも知れぬ状況に恐怖した。
なれど愛する我が子だ。文字通りにただ捨てる事は忍びなく、なけなしの金をかき集めて、施設で引き取って欲しいと泣きついた
「アンタが私の身を引き取りたいと言ってきた時、私が返した言葉覚えてる?」
「ええと……す、スマン。正確には……」
「私はこれまでこの困った能力を
言葉は言い
「
「ああ、そこから先は流石に分かるぞ。”生まれ変わりたいとすら思ったこの私を引き取る? ただの
「そう……そしてアンタはこう返した。”ならば俺の元で生きながらにして生まれ変わればいい。今日からお前の名は『リンネ』だ”…ってね」
「ハハハッ…我ながらキザな
「ホントよ……私の前に
自らの行為に苦笑する
「私…心から嬉しいと感じたの。本当に生まれ変わった気分だった…あの瞬間から既にアンタを好きだと感じた」
(そ、そんなに……そこまで想ってくれていたのか)
ヴァイロは正直驚いた。正直な所、そこまでの思い入れは当時なかった。算出した行動じゃなかった。いや……計算でなかったからこそ、彼女の心を動かしたのかも知れない。
「だから私はたとえアンタの想い人になれなくても、一生寄り
「………えっ」
「いや、だから質問に答えたでしょ? 満足したかって話。はい、次はそっちの番」
ヴァイロは本当に彼女が自分の元で、生まれ変わっていた事を自覚した。
自分の胸元で語る彼女、普段から着飾りに
リンネの存在は森の精霊ドリュアルが、男を
「ちょ……ちょっと待ってくれ」
そっと腕枕を抜くと立ち上がり、ガウンを
「な、何?」
「
「あ……う、うんっ」
ヴァイロの方からお茶を淹れて貰う。多分、この家に始めて来た時以来ではなかろうか。
「ほらよ」
「あ、ありがと……これはカモミールね。初めて淹れてくれた時はラベンダーだった」
「え……良くそんなの覚えてるな」
カモミールにはリラックスなどの
明らかにヴァイロ自身のためではなく、リンネの心情に配慮したチョイスに違いない。
一方、ラベンダーは自律神経を整えて高ぶった緊張感を
今でこそ家事担当はリンネなのだが、この4年でハーブの事から食事のメニューまで、全てを彼から教わった。
ヴァイロもカップを手にしてリンネの隣に座った。
「正直言って初めのうちは、お前の能力に惹かれて欲しくなった……そ、それだけだと思っていた」
「う、うんっ………」
「確かに俺は生まれ変わればいいと言った。でも……それだけじゃなかった。俺もお前のその
「そ、それってどういう……」
ヴァイロはハーブティーを一口飲むと窓際に置いて、彼女の肩にそっと触れる。
「お前は俺を決して”神”と呼ばなかった。お前だけは
そう言ってヴァイロは、リンネの
◇
ミリアはふと目が覚めた。そして自分の部屋の窓を見つめると、未だに
「そ、そうですか……二人は前に進んでしまったのですね……」
ツリーハウスの中まで見えた訳ではない。けれどもこの想像は彼女の中で確信に至る。
先を越された悔しさは当然感じた。されど涙は流れなかった。
「むしろこれでもう遠慮は不要という事ですわ。私と同じ未成年のライバルに幸せが
少女と
「きっと今夜、あの家の灯りが落ちる事はないのでしょうね……」
更なる二人の進展を想像したその時、ミリアは突然東の方角から出現した白い巨大な何かを目撃し、声を失った。
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