▼▼ 回想:M.T.(27歳)の描いた夢 ▲▲

「ちょっとちょっと、キミ」

「えっ? あ、はい……あたしですか?」

「そう、キミだよ」

「キミさ、何かパッとしないっていうか」

「え?」

「ハッキリ言うとさ」

「地味なんだよ」

「ほら、この子みたいにもっと愛嬌を出さないと」

 その男性プロデューサーは、とある女性の写真を見せつつ、嘆息した。

 何よ、自分の好みを押しつけてるだけでしょ。さっきから抽象的な事ばっか言って……。

 もう。

 ここじゃダメ。

 もっと別の場所を探すべきだ。 



 ◆



「はーい、ストップストップ」

「ちょっとそこの。キミなんだけど」

「え? はい」

「キミ、背が高いから、一人だけバランスがなぁ。悪目立ちしてるっつうか」

「それに妙に小慣れてて、フレッシュ感が無いっていうか」

「悪いが、後ろの子と配置変わってくれるか?」

「え? でも……それは」

「はい! わかりました!」

「えっ、ちょっと……」

 返答を遮り、順応する相手。

 なんで。あたしより、歌も踊りも劣るあの子が一列目で……。どうしてあたしが、後列なんかに……。それに小慣れてるって何? 上手い方がイイに決まってるじゃん。

 ここの事務所も見る目が無い。

 ホント最悪。

 ……もういい、辞めてやる。




 あたしは自分で言うのも何だが、歌もダンスもできる。

 顔だって、昔から「整ってるね」ってよく言われていた。

 そう、あたしには才能がある。

 繰り返しのオーディション。結果の大半が合格だった。

 なのに、受かれど受かれど……。

 マネジメントの奴らは後になって結局、「地味」だとか「愛嬌がない」、「バランスが」とか言って、あたしを前線から遠ざけようとする。

 どれだけ技術を磨いても意味が無い。

 上京して憧れた夢を追い続け、気付けばもう二十六歳。再来月には二十七歳になる。

 それでもあたしは、努力を続けた。

 ……チャンスを、掴むために。


 そんなある日。

 日頃から口の悪いプロデューサーは言った。

「キミは脇役なんだから、そんな出しゃばらないでくれ」

「この業界の中で言えば賞味期限切れ間近なんだし、せめて若いスタメンの子たちの、引き立て役に徹してくれないと」

 その瞬間。

 あたしの夢は、脆くも崩れ落ちた。



 ◆



 数ヶ月後。

 あたしは職業を変え、一般企業のOLとして新たな人生をスタートさせた。正直言って今の生活は、それほど悪くはない。安定もしてるし、社内のオジサンたちもチヤホヤして甘やかしてくれる。

 そんな中、ある日。

 仕事を終え帰宅したあたしは、いつものように夕食を摂りながらテレビをつけた。

「そっか~」

「じゃあアイカちゃんは、アイドルになるべくして生まれたんだね!」

「いえいえ、そんなことないですよ」

「わたしなんて背も低いし、踊りだってすっごく苦手で……。できるならスラッとした長身の女性に生まれ変われたらって思うくらいです」

「でもでも、アイカちゃんは愛嬌があるから! そこが何よりの魅力だって

 そう思ってる人が多いんじゃないかな」

「えっ、ホントですか!? そんな、ありがとうございます」

「特に自覚は無いんですけど……。でも、これだけは思ってます」

「地味な存在に思われたら、終わりだなって。アイドルなんだし」

「だからどんな時も元気に、明るく、スマイルです!」

 彼女のその言葉は、あたしの心の臓を深々とえぐり取った。

 あたしがしてきたこれまでの努力を、踏みにじられたような気分だった。

 元気に? 明るく? スマイル? 

 そんなのはただのまがい物。

 嘘で塗り固めてるクセに……。

 

 その夜。

 あたしは画像編集ソフトを起動し、夜通しで作業に没頭した。

 わかったわ。

 じゃあ元気に、明るく、笑ってみなさいよ。


 ……コレでも。





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