▼▼ 回想:K.O.(21歳)の画像フォルダ ▲▲

「あぁぁ……緊張した」

 人付き合いが苦手な若き青年は、物心ついてからずっと、異性と面と向かって会話をしたことが無い。そのため緊張しやすく、言葉を交わせば吃音の兆候が激しく出てしまう。


 ——それでも、会いたかった。


 彼女の存在は唯一の癒し。ライブに関しては、これまでも何度か足を運んだことがある。

 でも、今回は違う。

 傍観に浸り眺める……だけでは済まない。

 直接手と手が触れ、目を合わし、言葉を交わす。想像するだけで赤面と興奮が止まらなかった。

 こんな自分が当日、果たして問題なくできるだろうか。会場には大勢の人がごった返しているはず。所詮五秒くらいの刹那。光のごとき一瞬だ。だから……。


 会いに行こう。そう決心した。


 そして、迎えた当日。

 終わって見ればあっという間だった。

「来てくれてありがとね!」と——。

 彼女は笑顔で、そう言ってくれた。

「は、はい……頑張ってください。……応援、してます」

 震えながらも何とか言葉を返す。

 緊張が絶頂で、手汗が酷かった。

 嫌がられたかもしれない。結局そのやりとりだけで、時間が来てしまった。だけども去り際まで、彼女はあどけない笑顔で手を振って見送ってくれた。

 嬉しかった。もっと好きになった。

 正直、うずくような興奮と高揚だった。

 ……可愛かった。


 その後。十二分に余韻に浸った末、会場を後にする。

「あれ? ……スマホが、ない」

 忘れ物に気付いたのは、駅に到着した時だった。ずっと夢想の中にいて、うっかりしていた。おそらく会場のトイレに寄った際だ。そこの手洗い場でハンカチを取り出す時に、一緒にポケットに入れていたスマホを一旦置いたのを覚えている。

 青年は踵を返し、会場へと向かった。

 会場は閑散としていた。それもそのはず。イベントは既に終了している。スタッフは総出で、慌ただしくも撤収作業を行っていた。受付にいたスタッフも手伝うよう現場から声がかかっている。

 青年は一言断りを入れようとしたが、誰もいない。

 別にいっか。ただトイレに寄るだけだ。すぐに終わる。青年は急いで駆け出した。

 ——と、その時だった。

「ベタベタして……ホント、嫌になっちゃう」

 その声は彼女だった。扉一枚を挟んだ先で、彼女はうんざりした声音で語っていた。思わず耳にした本音。溜息を洩らしながらも彼女は「嫌になっちゃう」、「どうにかならないの?」と繰り返していた。

 それはきっと、本音であり陰口……。青年はトイレへと急いだ。そしてスマホを見つけると、直ぐにまた走り去った。


 イベントを終えた帰り道。

 人が変わるのなんて、一瞬。さっきまでの高揚感は、濁った憎悪一色へと様変わりしていた。


 ……ふざけるな。


 自宅に戻った青年は、パソコンの前にピタリと張り付く。

「カチカチカチカチ……」

 すると、画像フォルダにこっそりと取り溜めていたアダルト画像を材料に、何やら作業を開始。

 それは、明け方まで続いた。

 よし、できた。

 ……これで、あんなヤツ。

 作業を終えた青年は、そのままベッドの中へ飛び込んだ。



 ◆



 イベントを終えた、楽屋にて――。

「ベタベタして、ホントに嫌になっちゃう……」

「どうにかならないの? この症状」

「ああ……大丈夫だったかな、ファンのみんな。嫌がられてないといいけど」


「私、汗っかきだから……」

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