第18話 2巡目

 アナウンスの指示に従い、郁斗は素早く入力キーをタイピングする。そしてものの数秒で打ち終わると、一歩下がりスクリーンに向け両手を合わせた。


≪入力を確認しました≫

≪——それでは、皆様へお伺いします≫


≪『年齢』は、羨ましいですか??≫


 今回のお題、郁斗としては投票が分かれるはずだと、確信を持っての出題だった。

 おそらく10代から20代と思われるゆめ、数馬、蜜、未来美は「羨ましい」へ票が流れるだろう。そして20代から30代前半あたりと想像される師谷については、不明。全く予想がつかない。だが一人、おそらく確実に「恨めしい」側にも票が入る。

 ……玉利紗代子の一票が。

 コレにはそれなりの根拠があった。単純な外見での判断ではない。

 郁斗はこの建物に来てすぐ、参加者と初対面した時の彼女の発言を思い出していた。

「やっぱり若いばっか……。ワタシが一番年上じゃない」

 耳元で嫌悪感を露わにボソッと呟いていた、玉利の呟きを。それは羨望と真逆の、負の感情に違いない。


≪投票が終了しました≫

≪開票結果を発表します。スクリーンをご覧ください≫


 結果:「羨ましい4」「恨めしい2」=1pt


 結果は一ポイント。郁斗の読みは当たり、見事に票は割れた。おそらくは玉利と、後はもう一人の誰か。郁斗はホッと一息ついた。

 そして、ゲームはすぐさま二巡目のターンへ。郁斗はひとまず、一巡目での全員の回答を思い返した。


 一巡目結果:

 ①黒川ゆめ 『ゲーム』 0pt

 ②小野前数馬 『天才』 1pt

 ③玉利紗代子 『宝くじ』 0pt

 ④師谷倫太郎 『ボーナス』 1pt

 ⑤水菜月蜜 『カネ』 0pt

 ⑥桃野未来美 『時代』 0pt

 ⑦浦城郁斗 『年齢』 1pt


 偶然にも男女で点差が分かれ、男性陣が一ポイントリードした形に。そしてこの一巡目の回答で、それとなく感じた点がいくつかあった。

 まず、ポイントを得た数馬と師谷。彼らはこのステージの趣旨を理解し、上手にお題選定をしているように思える。一方でゆめと未来美に関しては、正直掴めない。両者ともルールを理解し狙いに行ったものの、運悪く外してしまったとも考えられるし、全くそうではない可能性もある。

 そんな中。この一巡目の段階では未だ緊張や焦り、動揺が左右したのか、趣旨を理解しきれていないと思われたのが玉利と蜜だ。

 二人共、金銭関連で共通したお題を出題している。例えば師谷の出した『ボーナス』のように、金銭関連のワードだが職業や社会的地位によって意見が分かれるであろう単語とは違って、二人のお題はあまりにもストレート。これだと他の六人の票が「羨ましい」の一点に固まるのは、大いに予想できるはず。でもそれをしなかった。「羨ましい」という日本語のポジティブな意味合いに、思考が引っ張られた可能性が高い。とはいえ一巡目を経て改心し、二人とも次回からは方法を変えてくるだろうが……。


≪それでは二巡目。出題者、黒川ゆめさん≫

≪お題を入力してください≫


 二巡目がスタート。ここから先は、より一層集中して望む必要がある。一番手であるゆめがどういったお題を選定するかで、二巡目の流れが決まると言っても過言ではない。


 ≪入力を確認しました≫

 ≪——それでは、皆様へお伺いします≫


 ≪『才能』は、羨ましいですか??≫


 この瞬間。

 ゆめのみならず、郁斗と、そしてその他のプレイヤーがきっと気づいたであろう。

 このゲームのシンプル且つ、恐ろしいギミックを。

 ‟才能”というワード。それは一巡目で数馬が出した「天才」を想起させる類語。数馬はこの出題でポイントを獲得している。ゆめはその結果を踏まえ、脳内で変換し言葉を導き出した……はず。

 それはすなわち、このステージの必勝法の一つ――「モデリング(模倣)」に、ゆめは気が付いたということ。


≪投票が終了しました≫

≪開票結果を発表します。スクリーンをご覧ください≫


 結果:「羨ましい4」「恨めしい2」=1pt


 ゆめは一ポイントを獲得。票数の中身も、数馬が出した『天才』の時と全く一緒の結果だった。

 少女はパンドラの箱を開いた。

 でもそれは、偶々たまたま開けたのが彼女だったというだけ。

 そう、これがこのゲームの恐い所。短期決戦の所以。

 

 こうして——。

 二巡目では、必勝法のモデリングが炸裂していくことに。


 出題者:小野前数馬

 お題『センス』 

 結果:「羨ましい5」「恨めしい1」=1pt


 出題者:玉利紗代子

 お題『賞与』

 結果:「羨ましい4」「恨めしい2」=1pt


 ゆめに続き、数馬は『才能』から、玉利は『ボーナス』のワードを模倣し、同義語や類語に変換し出題。結果票数に僅かな誤差はあれど、ポイントを着実に獲得していく。

 この方法を駆使していけば、順当に点数を獲得することができる。郁斗含め、誰もがそう思っただろう。

 だが次の師谷のターンで、その確信に早くも揺らぎが生まれた。


 出題者:師谷倫太郎

 お題『若さ』 

 結果:「羨ましい6」「恨めしい0」=0pt


 師谷はおそらく、郁斗が一巡目で出題した『年齢』からモデリングを試みたはず。だが結果は0ポイントとなった。この開票結果に、他のプレイヤーはどのように反応しただろうか。分からない以上、常に考察と分析を繰り返す他ない。

 そしてゲームは、次の主題者である蜜のターンへ。


 出題者:水菜月蜜

 お題『老い』 

 結果:「羨ましい4」「恨めしい2」=1pt


 蜜は師谷の出した『若さ』の対義語となる『老い』を選択。その結果票は分かれ、ポイントを獲得する形に。だが『若さ』も『老い』も、『年齢』をモデリングした回答だった。

 蜜のターンによって、単純なモデリングでは確実性に乏しいことが証明される。類語を出した場合でも、そのワードそのものが持つ印象によっては結果はうまくいかないということ。理解はできるが、考えれば考えるほど頭がこんがらがってくる。それに息つく暇もなく順番が回ってくるため、シンキングタイムも短い。

 他のプレイヤーも師谷と蜜のターンを経て、再び頭を悩ましているだろう。郁斗はこの後の自分のターンでどうすべきか熟考を繰り返した。


 が、そんな中。

 頭を使い続け、純度の高い酸素を欲している所に。

 新たに、追い打ちをかけるかような展開が生まれる。


≪開票結果を発表します。スクリーンをご覧ください≫


 結果:「羨ましい1」「恨めしい5」=3pt


≪おめでとうございます≫

≪桃野未来美様、ステージクリアです≫

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