第19話 3巡目
予想外の結果。
そして、彼女に対する祝福のアナウンスに。
郁斗含め、一同に動揺が走ったのは言うまでもない。
『政治家』——それが、未来美が出題したワードだった。一発勝利となったこの結果を予め意図していたのかは定かではないが、絶妙な選定といえる。
桃野未来美。彼女は第一ステージに続き、卒なく順当にこのステージもクリアしていった。直前での勝ち抜けに、郁斗の額には脂汗が滲む。
だが待て。これはチャンスかもしれない。順番も、モデリングも。未来美の回答を模倣することで、そのまま続けて勝ち抜けることが出来るのでは。郁斗の心は瞬く間に、動揺から高揚へと変わる。
よしッ。
郁斗は意気込み、キーボードの前でスタンバイを始めた。
≪入力を確認しました≫
≪——それでは、皆様へお伺いします≫
≪『政治』は、羨ましいですか??≫
順番が未来美の後で、運がいい。郁斗は思った。未来美が築いたこの流れ。もしかすれば一発クリアが連続する可能性も大いにあり得る。
勝者のアイデアをいち早く活用すること。それはこのステージでの有効打だ。だから大丈夫……。郁斗は再び手を合わせ祈った。
≪投票が終了しました≫
≪開票結果を発表します。スクリーンをご覧ください≫
結果:「羨ましい3」「恨めしい2」=1pt
結果は一ポイント。どうにか点数は得られた。
けれど、描いていた想像とは違っていた。未来美と同じようにはいかない。そう、うまくはいかないってことか……。
思えばそうか。『若さ』と『老い』の時もそうだった。意識が未来美に集中しすぎていて失念していた。安易なモデリングは確実とはいかない、ということを。
それでもまあ一ポイント。郁斗はホッと胸をなでおろす。
こうして、二巡目が終了した。
二巡目結果:
①黒川ゆめ 『才能』 1pt =計1pt
②小野前数馬 『センス』 1pt =計2pt
③玉利紗代子 『賞与』 1pt =計1pt
④師谷倫太郎 『若さ』 0pt =計1pt
⑤水菜月蜜 『老い』 1pt =計1pt
⑥桃野未来美 『政治家』 3pt =クリア
⑦浦城郁斗 『政治』 1pt =計2pt
≪それでは三巡目。出題者、黒川ゆめさん≫
≪お題を入力してください≫
おそらく、ここからはクリアをする者が続々と出てくる可能性が考えられる。そうでなくても合計で二ポイントを獲得し、クリアにリーチとなる者が全体の八割を超えてくるだろう。プレイヤーもゲームシステムを熟知した上で挑んでくるターンと見るべきだ。……気を引き締めないと。
そうして、三巡目がスタートした。
一番目のゆめ。
彼女はこれまでの連戦を経て。
ここで、興味深い出題を繰り出した。
≪入力を確認しました≫
≪——それでは、皆様へお伺いします≫
≪『女』は、羨ましいですか??≫
これは、プレイヤーの性別によって票が上手く分かれそうなお題。友人や恋人、過去の人間関係において、各自様々な人との交友を経てきているはず。良くも悪くも。郁斗も過去に、負の感情を抱いた女性には正直、数多出会ってきた。
だが今は分析癖がついてしまっているのか、そんな回想よりも何よりも、郁斗はお題の選定へと至るまでのゆめの思考に意識が集中していた。
≪投票が終了しました≫
≪開票結果を発表します。スクリーンをご覧ください≫
結果:「羨ましい2」「恨めしい3」=1pt
人間という生き物は、恨みを抱いた人物のことをどれだけの年月が経とうと、鮮明に記憶に残っていたりする。
結果、「恨めしい」が上回る形で票は分かれた。郁斗は意識が別のルートに向いていた為、おそらく「羨ましい」に入ったのかもしれない。いずれにせよ、ゆめは一ポイントを獲得し、合計二ポイント。クリアにリーチを掛けた。スタートの彼女からリーチとなった現状に、他のプレイヤーは焦燥を見せていることだろう。
続いて二番手は数馬のターン。彼は現在二ポイントを既に獲得している。次にポイントを獲得すれば、二人目のクリア。この三巡目は、劇的にゲームが動き出すターンだ。緊張が止まらない。
だが……。
現実はそう甘くはなかった。
出題者:小野前数馬
お題『男』
結果:「羨ましい5」「恨めしい0」=0pt
出題者:玉利紗代子
お題『女性』
結果:「羨ましい5」「恨めしい0」=0pt
出題者:師谷倫太郎
お題『秀才』
結果:「羨ましい5」「恨めしい0」=0pt
ゆめが出したお題『女』を基に、数馬がモデリングした『男』。続けて、類語どころか、十中八九同じ言葉である『女性』であったのに、0ポイントの玉利。一方師谷の出した『秀才』も、先程ポイントを得ている『天才』からの同義語。
全員がモデリングを駆使していた。
それなのに……。
まさかの三人続けて、ゼロポイントという結果に。
生み出しては、すぐに崩れてゆく方程式。
一体、どうなってる。何が起きた。
このステージは単純に見えて、本当に「複雑怪奇」
……だった。
音も表情も一切わからないが、各箱部屋のプレイヤー全員が呆然としている……そんな気がした。
混乱とパニックに苛まれ、オドオドする数馬。どうすればいいのか頭を抱える玉利。まさかの二連続ゼロポイントにより、持ち点がゼロとなった師谷。動揺しつつも、きっと湧き立つ悔しさから、エレベーターの時みたく舌打ちをしていることだろう。
三者三様の姿が、郁斗の脳裏を通り過ぎた。
ん? 舌打ち?
ここで郁斗の脳裏に、先程の光景が浮かぶ。
そうか……その手があった。
まだ手はある。
第一ステージの時と同様に。またしても彼からヒントを得たことに、今は何だか複雑な気持ちが拭えない。
……けれど。
郁斗はその時、もう一つの必勝法を思いついた。
本来なら、ここまで誰も気づかなかったのが奇跡なくらいだ。これならきっと、いや確実に……「恨めしい」へ一票だけが投じられる結果になる。そして、自らの「勝利」が確定するだろう。
これは——もう一つの‟パンドラの箱”だ。
◆
≪水菜月蜜様、指定の単語は存在致しません≫
≪よって入力ミスにより、無効となります≫
怒涛のごとくゼロポイントという予想外の結果から、焦って頭が真っ白になったのだろう。師谷の次である蜜は、まさかのタイピングミスによりポイント無しに終わった。
≪それでは続きまして。出題者、浦城郁斗さん≫
そして迎えた、郁斗のターン。
蜜のように迷うことは無く……郁斗は、この世の誰よりも打ち慣れているその言葉を、キーボードへと刻み込んだ。
≪入力を確認しました≫
≪——それでは、皆様へお伺いします≫
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