第1ステージ 『ミステラス』
第7話 身捨ノ庭
≪デハコレヨリ、この屋上庭園にて「ミステラス」を開始致します≫
桐島はそう言い放つと、スクリーン画面がガラッと切り替わった。
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■第1ステージ
ミステラス ~身捨ノ庭~
■クリア条件
フロア内に散らばる大量のカギから、鍵穴に合うカギを見つけ解錠する
■ルール
●他者に肉体的暴力を加えてはならない
●解錠した者は速やかに退室すること
●制限時間は80分
●ただし残り3人になった時点で、「10分」の制限時間が発動する(3人になった時点で既に10分を下回っていた場合にはこれを無効とする)
●時間内に解錠できなかった者には「死」を与える
●全員解錠に成功した場合は、ルーレットにより1名に「死」を与える
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唖然とした表情のまま、モニターの近くに集まる八人。
「ガタンガタンガタン……」
すると突如、天井の屋根がまるでドーム球場の開閉設備のように音を立て開き始めた。直接的な陽光が、場内を明るく照らす。
だが、その数秒後だった。
今度は「ブーーーン」と風切り音を立てながら、幾つものドローンが場内に進入し始めた。それらはスズメ蜂の大群のごとき羽音を沸かせながら、機体の下部に何やらミラーボールのような銀の球体がぶら下げている。
不気味だ、これから何を始める気だ。
やがて各機体は場内に均等に配列すると「ピッ」と奇妙な鳴音を放ち、そして――。
「ガッシャーーーン!!」
「ガッシャーーーン!!」
「ガッシャーーーン!!」
「ガッシャーーーン!!」
そのけたたましい轟音に、耳を塞ごうとするも叶わない。結果全ドローンに付けられていた球体がくす玉のごとく真っ二つに割れ、中から大量の金属の束がコンクリートの床へと雪崩れ込んだ。
「ガシャンガシャン、ガシャンガシャン……」
その光景はまるで、小型爆撃機による空襲。ドローンの大群は入れ代わり立ち代わりで場内を浮遊し、ひたすらに空襲を続けてゆく。
数分後。
あっけらかんとしていたフロア内は、一瞬にしてスクラップ集積場と化していた。
その中で郁斗は、足元に転がった金属片を手に取る。
「これって、もしかして……」
「全部がカギ……なのか?」
ドローンが落としていった
「ふざけやがって! こんな舐めたゲーム、やってられっか!」
「きっと茶番よ。クリアできなかったら死ぬ? バカげてるわ」
怒りを全開にする半場に加え、玉利や水菜月蜜(美月)、桃野未来美(みっく)も恐怖を宿しつつ同様の表情をしている。一方で郁斗の額には、ジメっとした脂汗が増殖し始めていた。
そして、郁斗の数歩隣り。そこには怯えた様子の制服少女、黒川ゆめ。彼女は手足を小刻みに震わせ、繋がれた両手で口を塞いでいた。その様子から、どれだけ恐怖に打ちのめされているかが手に取るように分かる。
「大丈夫だよ」
「えっ……?」
「大丈夫。きっとこれも何かの、アトラクションによる演出の一種か何かだよ」
怯えるそんなゆめに対し、傍にいたスーツ姿の師谷倫太郎(シヤ)が励ますように声をかけ、彼女の肩に優しく手を置いた。
≪イイデショウ、ではお見せ致します≫
すると一体のドローンが、郁斗たちと同じ手錠をぶら下げ飛空を始めた。八人の視線を集めたその機体は上昇を続け、やがて中央部に到達。その後ピタッと宙に浮いたまま静止。
そして、次の瞬間。
「……ウソ、だろ」
さらなる絶望を宿した八人の瞳が、数多の悲鳴と共に塵尻になる。
充満する焦げ臭さと鉄の強烈な匂い。床に散乱した、ドローンの残骸。さらに郁斗たちの眼前には爆発し砕け散った手錠の断片。その金属片は、八人の手錠に遠隔操作で爆発するよう特殊な細工が施されていることの証明。
すなわち、このゲームの「敗北の結末」を意味していた。
≪ロンヨリショウコ、といった所でしょうか≫
≪ドウデス、興味深いでしょう≫
言葉を失う一同。静寂に交じり、小野前数馬(カズ)の小刻みな嗚咽が場内にこだまする。メガネ越しの彼の両目には、透明な苦汁が吹き出していた。
≪デハコレヨリ、ゲームを開始致します≫
≪イキノビタケレバ、ゲームに勝ち進むこと≫
≪シリョクヲツクシテクダサイ≫
直後、場内に「ゲームスタート」を示すかのような不気味なホーン音が鳴り響いた。
不安、恐怖。憤怒、動揺。悲痛、絶望。そして……現実逃避。それぞれの感情を含んだ男女のサバイバルゲームが、無情にもここに切って落とされた。
何で……。どうして……。
脳内で繰り返される疑問符の連続。ゲームやマンガで見た殺戮ゲームが今、現実として行われようとしているのか? ここに来ても郁斗はまだ、信じられなかった。
「は、はやく……」
「はやく、見つけないと」
呆然とする郁斗をよそに、現実を受け入れたが故の行動に早速移り始める者の姿が。
蜜(美月)と玉利は虚ろながらも、先陣を切り鍵の束へと向かって行った。
「ッ! チクショーが!!」
「こんなのおかしい。狂ってる」
「ッヒ……、ッヒ……」
続いて半場、師谷、数馬も、心境を吐露しつつその足を進めていく。
さらに後を追うようにして、未来美(みっく)とゆめも郁斗の視界から遠ざかっていった。
一人立ち尽くし、力を失った両腕。
「ポタ……、ポタ……」
濡れる皮膚。流れ続ける雫。隣り合う親指の先端に向け、頬をつたう汗が連打する。無意識にそれを追いかけた郁斗の視線はふと、繋がれた自身の手錠の鍵穴へと逸れた。
「フッ。何だよ、コレ……」
「
それは微細で、それでいて精巧。
こんな穴、見たことない。
「かさ、って」
郁斗の鍵穴は、「ドクロマーク」の形状をしていた。
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