第6話 狂乱の幕開け
「……ん」
「っ、んああ」
何だろう。背中が痛い。いつもの布団とは違う気が。
床が固くて、どうにも寝付けない。
——ん? いや、違う。
ここは……家じゃない。
「ハッッ!!」
慌てて目を覚ました郁斗の眼球を、乱反射した陽光が襲い掛かる。その眩しさに目を背け身体を起こそうとするが、腕が思うように動かない。
「って、え……何だ」
「これは、手錠……か?」
通常のモノとは異なるプレートのような形状。
「おい!」
「これは一体、何のつもりだ!!」
その後段々と視界が冴えてくると、他の参加者たちも手錠を掛けられた状態で、同様に横たわっている光景が目に映る。
あれ? ポケットが軽い。手を当ててみると、スマホや財布といった貴重品が全て抜き取られていることに気付いた。
「おい!」
「聞いてんのか!!」
そして——。さっきから鼓膜を痛めつけてくる男の大声。それは目覚める前までの記憶で、眠り呆けていたツトムだった。彼は声を荒げながら、終始叫び狂っている。
「ん、んん……」
「ええっと……ここは?」
度重なるその怒号に、他の六人も次々と目を覚ましていった。
郁斗たちがいる場所はコンクリートの床を除き、その他全面が透明なガラス張り。天井を見上げれば、窓越しに空が近く感じる。室内全体は、学校の体育館と同じくらいのスペース。そして振り返ると、後方の一番奥には下に続く階段もしくは通路があると思われる鉄の扉が見えた。だがその一角だけが、鉄格子で厳重に取り囲まれている。
そんな中、煌々と差し込み続ける光。ここはまさか、屋上か?
「ちょっと!」
「何よコレ、何なのよ!」
ツトムと同じく、事態を把握したタマリやみっくも声をあげ始める。
——と、次の瞬間。
『ギーーーン』
ガラス張りのタイルの一部分が真っ黒なスクリーンに変わり、その中にツラツラと不気味な文字の羅列が浮かび上がった。
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以上 プレイヤー八名
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「これは……」
真っ先に目に留まる、自らの本名。
それらはおそらく、今この場にいる八人の本名と思しきものだった。
「ちょっと。何なのよ、いったい」
「あたし、本名なんて教えた覚え……」
「ボ、ボクも」
「匿名でやりとりしてたのに、何で……」
誰一人として状況を呑み込めてはいない。ここにいるメンバーは皆「メセラ」を通じて招待され、集まった人々。メセラでは全員匿名で運用していたことが、眠りにつく直前までの会話で明らかになっている。
郁斗も企業とのやりとりの際、相手側に「浦城郁斗」と本名を伝えてはいない。何がどうなっているのか。唖然として言葉が出なかった。
ざわつきが収まる様子も無く、カオスの兆しを見せる室内。
だがその直後。
『キーーーーン』
不意打ちのごとく飛び込んだハウリングに、身震いする郁斗たち。そこに加え「ブチッ」っと、スピーカーの電源が入ったかのような音が耳元を揺らした。
≪ミナミナサマ、どうかご静粛に≫
突如として流れ出した音声。
おそらく成人男性と思しきその声は機械音に化け、部屋全体を凍てつかせた。
≪
それは、まるで。
狂乱前の、殺し文句かのように。
忌々しいアナウンスに、一同言葉を失う。
≪ワタクシハ、この「シンサイド・スクエア」の管理人を務める「桐島」です≫
桐島——。それは招待メールに記載のあった「広報」の人間と同一苗字。肩書きを偽っていたということか。ここまで手の込んだ真似をして、一体何をしようと。それに「せいいきなきせいいき」って……。どういう意味だ。
≪サッソクデスガミナサマ、いかがされましたか≫
≪ナニヤラサワガシク、されているようですが≫
とぼけたセリフ。ググッと歯を食いしばり憤る参加者たち。管理人を名乗る桐島の声はボイスチェンジャーで加工され、ネズミ声となって郁斗たちに語り掛けた。
声が違えど体の芯まで伝わるその冷酷さと淡々さに、フロア内は異様な空気に包まれる。
「おいてめえ! さっさと外しやがれ!」
「そうよ! ワタシたち、招待客でしょ?」
「何よ……この、プレイヤーって!」
荒らしく半場勤(ツトム)が声をあげ、それに続き玉利紗代子(タマリ)もスピーカーに向け威勢よく言葉をぶつける。
≪ナニモ、間違ってなどおりません≫
≪アナタタチハ、選ばれたのです≫
≪ソシテコレカラ、狂乱の宴に興じて頂くわけですから≫
「なに?」
≪ミナサマニハコレヨリ、このパーク内にて生死を掛けたゲームのプレイヤーとなって頂きます≫
「生死を掛けたゲーム? ふざけないで!」
「どうしてこんなこと……」
だがこちら側の抵抗など完全無視し、ネズミ声は続けた。
≪デハコレヨリ、第一ステージを開始致します≫
≪ダイイチステージ——≫
≪ ‟ミステラス” ≫
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