第2話 キスをしなければ出られないダンジョン(ジオ、アジュ)
ジオはアジュと共に『キスをしなければ出られないダンジョン』に閉じ込められた。
「えと……そういうことで、キスしないといけないらしいけど、どうしようか」
四方を石壁に囲まれ、出口がないのを確認しながら、アジュの反応を窺う。
「勿論しよう。ジオさんをこんなところで足止めさせる訳にはいかないもの」
「……そう。それじゃ、さっさとクリアして皆と合流するとしようか」
事務的になるのを残念に思いながら、ジオはアジュの肩に触れた。
シュバン!!!!
一瞬で少女が目の前から消える。
「え」
振り返ると対角に位置する方向で、こちらを牽制している彼女を見つける。
「……アジュ、どうしたの?」
「あ、ご、ごめん。ちょっとびっくりしちゃったみたい。もう大丈夫だよ」
改めて彼女に近づき、今度は両肩に手を置き、顔を近づけた。
ヒュン!!!!
寸前で風と共に消える少女。振り返ると後方にて、ガタガタブルブル震えている彼女を発見する。
「え、そんなに嫌なの?」
「そ、そんなことないよ。ジオさんは私の憧れの人だもの。役に立てるなら嬉しいよ」
「それじゃ、何で逃げたの?」
「逃げてないよ。ジオさんとの距離が自然と空いちゃうだけ」
「それ、逃げてるよね!?」
ジオが一歩寄れば、アジュが瞬時に一歩離れる。
二人はまるで鬼ごっこをしているように、ダンジョンの中を駆け回った。
「ねぇ、嫌なの!? こんなに逃げるってことは嫌なんだよね!?」
「そんなことないよ! ジオさんを飢えさせる訳にはいかないもの! 早く終わらせてこんなところ出ようね!」
「なら早くさせてくれ!」
しばらく追いかけてみるが、アジュが必死に逃げ回っていることが見て取れる。
それ程に嫌なのかと肩を落とし、ジオはその場に立ち止まった。
「それじゃ、こうしよう。アジュの好きな時に、君から僕にしてくれる? 僕は座って目を閉じてるからさ」
「う、うん、わかった」
あわよくばこれを機に彼女とお近づきになれればと思っていたがと、少し悲しい気持ちで、ジオは目を閉じた。
1時間後、アジュは目を閉じて胡座をかいているジオに、恐る恐る近づいた。
(ああ、心臓が爆発するかと思った。ようやく落ち着いてきたし、今の内にしちゃおう。あまり待たせちゃうと、ジオさんを傷つけちゃうものね)
すでに逃げ回ることでジオが傷ついていることにはアジュは気づかない。
決心し、目を閉じて顔を近づける。
(……そういえば、キスってどこにすればいいんだろ。特に説明がなかったけれど。ていうか、私今どこにしようとして……?)
程なくしてアジュは理解する。
自分がジオの唇を奪おうとしていたことに。
「ごめんなさいいいいいいいいい!!!!」
「ボギャ!?」
「ごめんなさいいいい!! 私なんかがジオさんの唇を!? あ、あああああ、なんて烏滸がましいことを……! ごめんねごめんね、身の程知らずにも程があるね! それで、どこにすればいいか教えてくれるかな? 腕でも足でもどこでもいいよ! あれ、キスってどこにするもんだっけ? あれ、キスってどうやるんだっけ? キスって何だっけ!?」
憧れのジオからの返事はない。
無防備であったところをアジュに殴り飛ばされ、ダンジョンの隅で気絶していたのである。
実はその時アジュの拳がジオの口に触れており、ダンジョンにはすでに出口が現れていた。
そのことには、気絶しているジオはさることながら、錯乱しているアジュにも、しばらくの間気づくことができなかったという。
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