第13話「公爵家(2)」
翌朝になった。
昨日はアルネ様にも喜んでいただき、軽く歓迎の食事会も開いてもらった。
さすが公爵家。飯が美味い。これだけでも来た甲斐があったというものだ。
さて、本日の日程はさっそく騎士団との訓練だ。朝食後に訓練場に来るよう伝えられている。
よっしゃ。脇腹が痛くならない程度にしっかり食べよ。
朝食を食べているとナルがきた。
「おはようございます。ナル」
「おはよう、アル。」
「今日はこの後に訓練よね?」
「はい。そうです」
「そう。では私も訓練しようかしら。アルの戦っているところも見てみたいし」
うぇ。主人が監視にくるでござる。
「分かりました。できればウィル様と戦えると良いのですが……」
「あら、お父様と戦いたいの?なんで?」
「父様からお強いと聞いたからです」
「そうなのね。けど騎士の皆も強いし、皆に勝てるくらいになってからね」
「そうですね。しっかりと結果をだしていきたいと思っています」
ラスボスのウィル様は騎士団という壁を越えないと戦えないらしい。とりあえず騎士団の中で自分はどのくらい強いのか測ってみよう。
オラワクワクすっぞ。
朝食後、ナルと訓練場へ移動した。
すでに騎士団が集まり訓練をしている。
「オラァ、そんなことでヘルムートが守れるかぁ!」
「腑抜けてんじゃねえ!死ぬ気でやれボケ!」
「ぬるい!産まれる前からやり直してこい!」
めっちゃ口の悪いおっさんが、次々に挑みかかる騎士を暴言とともに打ちのめしている。
「ナル、あの方は?」
「あれは騎士団で1番強いシド団長よ。口は悪いけど強いわ」
「そうだな。あの口の悪さは心まで折られそうだ」
入口でそんなことを話していると、団長がナルに気がついたようだ。
「一旦休めぇぇ! おはようございます。ナルシア様、訓練でございますか?」
「ごきげんよう、シド。そうね。訓練もするけど、今日はオルヴァス家からアルが訓練に混ざるわ。それを見学にきたの」
「ほう。そちらがオルヴァス家のアルスレイ様ですな。ウィル様より承っております。公爵家のヴィルヘルム騎士団で団長を拝命しているシドと申します。今日はよろしくお願いします」
「アルスレイ・フォン・オルヴァスです。アルスレイだと長いので、気軽にアルとお呼びください。騎士団で訓練に混ぜていただきますので、呼び捨てでけっこうですし、敬語も不要です。騎士団の皆様と同じ扱いにしてください。こちらこそよろしくお願いいたします。シド団長」
「それは……。分かりました。これより騎士団所属として接します」
「ナルシア様もそれでかまいませんか?」
「ええ。アルが言い出したことだし問題ないわよ」
「よし。ではアルよ。貴様にはさっそく模擬戦をしてもらう。相手は騎士団の第五席のマッシュだ」
「はっ!承知しました!」
「良い返事だ。マァァッッッシュ!こっちにこぉぉぉーい!!」
いきなり叫ばないでよう。耳キーンなるわ。
「団長!お呼びですかぁぁー!」
こっちもうっせえ。こういうしきたりなのか?俺もやった方がよいのか??
「マッシュ。今からここのアルと模擬戦だ!」
「了解しましたぁぁー!!」
いや、この子だれ?とか疑問も持たないんかい。
こっちまだ9歳やぞ。普通に受けるのおかしいでしょ。
「アルです。よろしくお願いします、マッシュさん」
「おう!かかってこぉーーい!!」
ダメだ。なんという喧しさ。
躾て大人しくさせてやらぁ。
「構えて!……双方、始めぇ!!」
力まずに構えてマッシュを視る。
てっきり大声をあげながら突っ込んで来るのかと思っていたが、そこは第五席。しっかりとこちらをみている。
右手に持った片手剣を中段で構え、半身気味。
普段は左手には盾とか持ってるのかな?なんかそんな感じがする。
あ、足の先に力が入った。来るね。
するどい踏み込みからの斬り下し。
受け流しても良いが、今回はやめるか。
切っ先を見切り、目の前を通過した瞬間に斬りつける。あれ。ギリ避けられた。
そうか。踏込みが甘かったんだな。
俺も少し緊張していたか。
次はこうはいかない。
今度はこちらからいこう。そうしよう。
剣を手からぶら下げ、散歩のように歩く。
間合いはそっちの方が広いんだ。
もう入るぞ。いいのか?
そうだな。さっきは反撃されたからな。
斬り下げより水平に薙いできたな。
そら。剣の腹で受け止めずに滑らすぞ。
どうだ。流れた身体をとめられるか?おっ、足に力が入ったな。
残念だな。それでは遅いな。
流れて丸見えになった首筋をもらうよ。
首に向かって剣を振り、当たる寸前でとめる。
「やめ!」
初撃を躱して二撃目を流したら終わってしまった。
「アル!強いな!!」
「いえ、まだまだです」
「団長ー!簡単に負けてすぃっせんしたぁー!」
「バカやろぉがぁぁー!後で腕立てを骨がもげるまでやれやぁぁー!!」
ひどい。
「すごいわアル!すぐに終わったわね!」
「ナルシア様。アルはとんでもないですね。おう、マッシュ。腕立ての前におまえも聞いていけ」
「私からは正直何をしたか見えなかったわ」
「俺も正直、剣が弾かれたって事だけしか分からなかったっす」
「弾かれたってのは少し違うな。アルは迫ってくるマッシュの剣に、自分の剣の腹を合わせ徐々に上に流れるように剣を誘導したんだ。流され終わったときに上段方向を斬らされていたからな」
「なるほど。それを全力で斬りにいった横薙ぎに合わせられたのか」
「ほとんど神業だ。刹那的なタイミングと間の見切りが必要になってくる。アル、どこでこんな技を教わった?」
「普段、まあ今もですが、腕力が絶対に敵わない相手との訓練ですので、正面から受けなくても戦える方法を模索しているうちに、ですかね」
「とんでもねえな。1歩間違えたらガッツリ斬られるじゃねえか」
団長の言うように最初は流せずにバシバシくらっていた。ただ、力みを取り去り脱力した状態を維持することで徐々に完成度が上がっていった。
「そうなると……四席、三席では厳しいかもしれねぇな。よし次席だ!」
そうして次席で副団長でもあるティアナが呼ばれたのだった。
女性……だと……!?
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