第12話「公爵家(1)」
公爵家への出発当日となった。
屋敷の前に馬車もあり、準備は万端である。
「アルちゃん気をつけてね。それと、アレも割らないように持っていくのよ」
そう言って馬車の荷台部分に目線を送る母。
無事に完成し、満足のいく物になった贈り物は大事に荷台に積まれている。
「そうですね。いざ渡して割れてましたじゃ笑えませんからね。けど予備も含めて4つあるので、多分大丈夫かと思います」
「そうね。アルネ様にもしっかり渡してね」
そうなのだ。ナルが喜ぶもの、というよりか女性が喜ぶもの、となってしまったのでアルネ様にも渡すことにしたのだ。
「承知しました。ところで母様、ちょっとお聞きしたかったことがあるのですが」
「なぁに?」
目線を合うようにしてからの上目遣い。
かあいい。母じゃなかったらスキルの餌食である。
「爪に塗るアレには呼び方とかはあるのですか?」
「あー、それね。この前のパーティの時にアルネ様ともその話になったわよ。それでアレのことはキュアと呼ぶことにしたの」
「キュアですか。呼びやすくてよいですね。ついでに今回の贈り物にも呼び名をつけていただけませんか?」
「え〜。そうねえ〜。じゃあね〜」
くねくね悩む母。
「パルフェ!」
「パルフェ?」
「そう!パルフェよ!」
「なんか意味とかは?」
「ないわよ!」
ないんかい。
まあ響きはなんかそれっぽいし良さげ。
「なんとなく浮かんだけどどうかしら?」
「そうですね。なんか合ってる気がします」
「でしょ?公爵家に着いたら広めてね!」
ん〜。適当。しかし嫌いじゃない。
「しっかり広めてきますね」
「よろしくね。じゃあ楽しんできてね」
観光に行くんじゃないんだから。騎士団の訓練がメインだから。
「話はおわったようだな。しっかり学んでこいよ、アル」
「分かりました。父様」
「帰ってきたらどんな感じか教えてくださいね!」
「帰ってきたら遊んでね!」
弟妹もいる。一家総出の見送りである。
「分かったよ。ダリルもレーナも良い子で過ごすんだよ」
「レーナは良い子だけど、もっと良い子になってるね!」
かあいい。高速なでなでの刑に処しとく。
「レーナのことは頼むな」
ダリルにもしっかりとなでなでしておく。
こちらは少し照れくさそうだ。
「では行ってきます!」
そういってエドガーの待つ馬車の元へ移動した。
今回も以前と同じ道だ。
変わり映えはしないが、なんとなく馬車からの景色にはワクワクする。
そして、公爵家のウィル様にもワクワクしている。もちろん、騎士団の方々も強いとは思うのだが、秘剣とやらが中二心をくすぐるじゃないの。
なんだろうなあ、秘剣って。
気づいたら足や腕が無いとかの分からんやつは勘弁してほしいが。使うときに「秘剣!〜!」とかって言うのかな。
楽しみだな。
ワクワクさんな気分でいるうちに、公爵領についてしまった。ずっとニヤニヤしている俺は気持ち悪かっただろう。すまん、エドガーや騎士団の皆よ。
そして公爵家が居る街、ヘルムートにつく。
外壁も立派で外部から来るものに対して威圧的な作りをしている。
一般の方々は普通の門からの出入りなので時間が掛かるが、招待された貴族なので別門からサクサク入る。特権万歳。
ひとまずまっすぐヴィルヘルム家へ。
寄り道してましたー、てへぺろ。なんて言った日には首が飛ぶ。俺じゃなくてエドガーの。
そんな不憫なことは出来ないので、真っ直ぐ向かう。
久しぶりの公爵家へ着いた。
出迎えにはウィル様と、隠れるようにしてナルがいた。
「ご招待に与り、ただいま参上しました」
格上の貴族なのでね。挨拶はしっかりせねばなるまい。
「いいよいいよそんなの〜。アルくんとナルの仲じゃないか」
俺とナルの仲なら挨拶は省略しても良いらしい。俺とナルの仲って主従なんですが。建前上は。
「ほら、ナル」
後ろのナルを促す親父。
「久しぶりね。家来として公爵家の騎士団でしっかり腕を磨いていきなさい」
やっぱりまだ家来だった。
いつも通りで少し安心はしたけどね。
「違うだろうナル。ん〜?」
見てるこっちもウザいと思える顔でナルをつつくウィル様。
「オルヴァス家の騎士団の皆様もお疲れ様でした。こちらの者について移動をお願いします。アルは私と一緒に来てね」
まさかのシカトである。
「分かりました。ナル」
取り残されたウィル様は少し泣いていた。
ナルに案内をされた俺は部屋で一息つく。
もちろんミリアも一緒に来ている。専属だからね。
というか案内って令嬢自らするもんじゃないでしょ。なにしてんのあの子。
「夕食は18時からよ。それまでは休んでいるといいわ。ちなみに私の部屋は外のメイドに聞けば分かるわ!」
などと言い、どこかへ行ってしまった。
今は13時か。1時間ほど休もうか。
当然のように時計があるが、なぜ?とか聞くのは野暮だ。ファンタジーだからね。
休んだらナルのところへ行こう。
そしてお土産も渡してしまおう。アルネ様にも渡したいので、ついでにアルネ様の元へ連れて行ってもらおうか。
渡すお土産を用意して、紅茶を飲んで、荷解きしているミリアを見ていたら1時間はあっという間だな。
そろそろミリアを見る視線で気持ち悪がられていないか不安である。
まあいいや。開き直ろ。
ナルのところへ行くか。
ミリアに外のメイドへの連絡をお願いし、大袈裟だが先触れをだしてナルの部屋へ行く。
実家とは違うからね。
「アルスレイ様をお連れしました」
公爵メイドに案内をされ、ナルの部屋へ入る。
メイドのレベルが高すぎて、道中はずっと見てしまった。後ろからミリアの視線が痛かったが……。
「よく来たわね、アル。そちらへどうぞ」
向かいのソファを指定される。良かった、前みたいに隣とかじゃなくて。
「久しぶりですね、ナル。元気にしていましたか?」
「手紙で知っているでしょう?元気だし最近はお父様に剣術の手ほどきも受けているわ」
「そうなのですね。どうですか?剣を握った感触は」
「思ったよりしっくりきたわ。これなら飽きずに訓練していけそうよ」
脳筋姫であったか。もしかしたらナルにも秘剣が伝えられるのかもしれないな。
「それは良かったです。ところで本日はお土産をお持ちしました」
「あら!なにかしら!」
パァァと輝く顔。嬉しそうでなによりだ。
「ナルの爪は……。キュアをされていますね。ちょうど良かった。ミリア」
「はい。アルスレイ様」
ナルの爪を見てみると、瞳に合った薄い緑で塗られている。これから贈るものを使うのにちょうど良いので、ミリアから受け取る。
「はい。どうぞ、開けてみて」
包み紙を取り、箱を開けるナル。中には小瓶と小さな刷毛が入っていた。
「これは……なにかしら。刷毛が入っているということは、どこかに塗るのかしら?」
正解。
「それは、パルフェと言いまして、爪に塗ったキュアのさらに上に塗るものです。その小瓶の中の液体には匂いがついていまして、いわばキュアに香料を上乗せするような感じでしょうか」
まじまじと小瓶をみるナル。神秘性は薄れ、年相応の顔をのぞかせる。
「今塗ってみても?」
「是非、どうぞ」
「プラナ、塗ってちょうだい」
メイドの名を呼び、爪をみせるナル。
呼ばれたメイドは迅速に動き塗っていく。
大したことではないけど、メイドのために少し助言しておく。
「爪にキュアやパルフェを塗る場合は、腕を置く台みたいな物を用意した方が、塗る側は塗りやすいし、塗られている側も楽だよ」
! みたいな顔でこちらをみるメイドとナル。ついでにミリアも「なるほど」みたいな顔をきている。
これなら導入されることだろう。
とはいえ、さすが公爵家メイド。台なぞなくともサラサラと塗ってしまった。はっや。
乾かさなければならないので、微風を爪に向かってかけてあげる。
「あら、ありがとうアル。というかなんで風だけ何も言わずにだせるの??」
そこはまあ、色々あるんだよ。
「その話はまた今度しましょう。どうですか?パルフェは」
匂いを嗅いでみるナル。
「良いわね!強くも弱くもなくフワッと香るわね!」
「匂いはなんの匂いかは分かりますか?」
「ん〜、ちょっと分からないわ……」
「それはオックスという木の匂いになります。ナルは花の匂い、というより森林というか木のイメージが強かったので、それを選んで作りました」
「アルが自分で選んだの??」
「そりゃそうですよ。考えたのも私ですし」
「…………。ぁりがと」
ソファのクッションに顔を埋めながら感謝するナル。
「あ、そうでした。アルネ様にも違う匂いではありますがパルフェをお持ちしています。このままアルネ様の元へも渡しにいくことは可能ですか?」
「…………。プラナ、お祖母様の予定はどうかしら?」
謎の沈黙するなし。
「はい。アルネ様は居室に居られます」
断言するメイドさん。なぜ分かる。
「そう。では今から行くから知らせてちょうだい。アル、行くわよ」
こちらへ来て自然と手を繋いでいくナル。
やだ、男らしい。
そんなこんなで無事にアルネ様にもパルフェを渡すことができ、初日は終わったのだった。
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