第11話「スキルと公爵領」



スキルが覚醒した翌朝。


倦怠感と共に起きる。






「う゛ぅぅーん」






身体を伸ばし、テーブルの水を注いで飲む。



「あ゛ー、腹減った」



夕食も食べずに寝たから空腹感がすごい。とりあえず着替えて朝食にしよう。


ミリアを呼ぶ。


入室したミリアには昨日のような恥じらいはなくなっていた。

さすがプロメイド。というか恥らわれると俺も困る。朝から変なスイッチ入ってしまう。



「朝食にするよ。着替えをお願いできる?」



「はい。アルスレイ様」



スルスルと着替え、はい完成。さすがっす。

主従とはいえ、ミリアには一生頭があがらん気がする。


食堂へいくと、父が先に朝食を食べていた。



「おはようございます。父様」



「おはようアル。昨日は大丈夫だったのか?」



「はい。ご心配をおかけしました。もう大丈夫です」



大丈夫とはとても言えたものではないが、言わざるをえない。そもそも言い訳の内容すら知らないから大丈夫って言うしかない。


それにひとまずスキルのことは伝えないつもりだ。伝えるとしても効果との整合性のとれた、嘘の発動条件だろう。

本当の条件は墓場まで持っていく。

言えるかこんなもん。



「そういえば、昨日の夕食の時に話すつもりであったのだがな。ヴェルヘルム公爵家より手紙がきた」



「ヴェルヘルム公爵家から。どうされたのでしょう」



「なに、パーティの終わり頃にウィルから公爵家の騎士団へ遊びにおいで、と誘われただろう。あの件だ」



「あ、思ったより早くお誘いがきましたね」



「そうだな。ナルシア様が会いたがっているんじゃないか」



少し笑いながらそんなことを言う父。



「どうでしょうか。して、返事は返されたのですか?」



「アルはどうせ断らないと思ってな。3日後に出発すると書いて、早馬で返事をしたところだ」



「ありがとうございます。もちろん断りません」



楽しみだな。

うちの騎士団とは修めている流派はちがうのだろうか。



「父様、公爵の騎士団はオルヴァス家と同じリース流剣術ですか?」



「基本的にはリース流剣術だ。しかし、公爵家には古代より引き継がれる秘剣があるという。ウィルと模擬戦をした上で追い詰めることができれば見ることができるかもしれないな」



秘剣!これは何がなんでもウィルさんを追い詰めなければならない。



「ウィル様はどのくらいお強いのですか?」



「そうだな。私と同じくらいには動くだろう。スキルと秘剣のことを考えると結果は分からないがな」



「そうですか。追い詰めるのは中々難しそうですが、なんとか秘剣を見るために知恵を絞っていこうと思います」



「うむ。その意気だ。期待しているぞ」



「今回は誰が同行してくださるのですか?」



「副団長のエドガーだ。それと団員が何人かだな」



「承知しました。ありがとうございます」



「気をつけていくのだぞ。では私は政務に向かう。またな、アル」



そう言い父は食堂から出ていった。

政務ってどんなことしてんのかな。今度軽く勉強してみるか。いつかダリルのためになるかもしれないし。



3日後に出発か。


3日後……。ん?


脳裏をよぎった言葉がある。










「次からは形に残る物も欲しいわ。何か考えついたらもらってあげても良いわよ!」










ナルの貴重なお言葉である。



あぁぁあー。

見繕わないといけねえぇぇぇー。



女性、しかも公爵家の令嬢に渡せるものとはなんぞや。


個人的にはサークレットを贈りたい。頭に載せるタイプではなく、髪の生え際ちょい下に装着できるやつだ。

ナルは真ん中分けの腰まで伸びる髪を先端で結わえている。

何か巫女的な雰囲気溢れるナルだが、髪型がシンプルなので、額に嵌めるサークレットが似合うと思うのだ。


ただねえ。サークレットとなると、宝飾品の要素が強い。そして貴族が高価な物を贈ることには別の意味が発生してしまう。気軽に贈れるものではない。









んんぅ〜。

思い浮かばねえ。


とりあえずスキル検証でもしてから考えるか。



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■




さて。


町から少し離れた場所の草原にやってきました。


先日の魔物討伐以来、近場であれば外出の許可がでている。



まずは現在シコ値。150P。



シコ値ってなんだバカ。この値に慣れることはなさそうだ。



この150Pから50PをAGIに振ってみる。

AGIが274→324となった。


少し動いてみる。

お、ちょっと素早くなった。

ステータスをみながら身体を動かしていると2秒に1ずつ減っている。

1分で30P減る計算か。しかも、ピークは発動直後で徐々に衰えていくだけである。

長期戦闘には向いてないな、これ。

次々と広域の殲滅魔法のようなものをうつ場合には良いかもしれない。

近接の場合は戦闘中に突然使うことで効果が望めそうではある。



そして、うっすらとではあるがオーラのようなモヤが身体から発生している。



色は……なんだろう、白いんだけど真っ白ではない。乳白色というかなんというか……



おい、まさかアレの色をイメージしているんじゃなかろうな。

さすがに考えすぎだと思いたいが、なにせシコ値などというアホワードを使ってくるスキルだ。

疑念は晴れない。


もうスキル使わなくても負けないくらいに強くなろ。それが1番の解決だろう。


それにしてもスキルの検証!って意気込んできたけどスキルが単純すぎて検証の必要すらなかったわ。なんなら屋敷でもできたわコレ。



だってシコって強くなるだけなんだもん。











「ねーねー、アルくんのスキルってどんな効果なのー?」



「シコって強くなります」



「えっ?」



「シコって強くなります」











絶対言わないが、こんな会話はできるわけがない。


そういえば人に伝える時に考えてた嘘効果だけど、怒りで一定時間ステータスが増加する、でいいだろう。怒りの内容は適当でもいいし。

というかこのスキルに怒りを覚えているし。


はぁ、とりあえず屋敷に帰ろ。


気が抜けてとぼとぼと歩いていると、ナルへの贈り物が閃いた。



「おっ。コレなら良いかもしれない。帰ったら母様に相談してみよう。作れたら母様も欲しがるだろうし」



沈んでいた気分だったが、閃いたおかげで足どり軽く屋敷へと向かった。







「ただいま〜」



「おかえりなさいませ。アルスレイ様」



「母様はいるかな?」



「クレア様でしたら自室にいらっしゃいます」



「うん、分かったよ。ありがとう」



さっそく母の部屋へ。



「母様。アルです。よろしいでしょうか」



「どうぞ〜」



のんびりとした返事が聞こえ、扉が開く。



「ここに来るのは珍しいわね。どうしたの?」



「母様に相談がございまして伺いました。よろしいでしょうか?」



「あらあらあら、それは嬉しいわ〜。アルちゃんてば、なんか勝手に育っていっちゃうんですもの」



勝手にて。雑草か俺は。



「是非ご意見をいただければと思います。それで相談ですが、私が公爵家の騎士団の訓練に行くことはご存知ですか?」



「アースから聞いているわよ」



「それでですね、以前のパーティに母様が爪のアレを手土産変わりにしてくださった時にですが、ナルシア様から今度は形のあるものも欲しい。と言われまして……」



「ははぁ、それで何が良いか相談しにきたのかしら?」



「いえ、何が良いかを思いついたのですが、それが喜ばれるか、または作ることができるかを相談したいと思いまして」



「そうなのね。アルちゃんの考えたことだから楽しみね。教えて教えて」



「こういった物を考えているのですが……」








……………。








「良いわね!作れるし喜んでくださると思うわよ!」



「良かったです。作るのは専門の方が良いでしょうし、母様から指示をだしていただいてもよろしいでしょうか?」



「もちろん良いわよ!私も使うしね!」



「ありがとうございます。3日後の出発までに間に合いますかね?」「間に合わせるわ!せっかくアルちゃんが考えたんだもの」



「分かりました。試作品ができましたら私もお呼びください。一緒に検討してもらえたら助かります」



「それも大丈夫よ。すぐに呼ぶわね」



良かった。これで肩の荷がおりた。

母様に任せておけば、変なものにはならないはず。ましてや自分が使うことも考えているものだ、絶対に作るだろう。



「では、これで失「ちょい待ちなさい」ふぁい」



「ナルシア様のことはどう思ってるの?」



ニヤニヤしながら聞いてくる母。


どうと言われましても家来なんすけど。









その後、質問攻めにされた。

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