第14話「公爵家(3)」



団長に呼ばれ、こちらへくるティアナ。


副団長というだけあり、眼孔が鋭い。



「団長。次は私がアル様と模擬戦をおこなうのでしょうか」



「そうだ。アルは強い。だが俺にはまだ敵わないだろう。だからお前だ」



「分かりました。アル様、よろしくお願いいたします」



「はい。よろしくお願いします」



なんだろう。すごいビシッとしている。

あれだ。秘書だ。


ティアナさんは上着にジャケット、インナーはブラウス。そして下にはなんかピタッとした物を履き、ブーツにインしている。


困った。いや困るのか分からんが、下に履いているのがスパッツレベルの薄さのパンツだ。

しかも白。正面からでも下着が透けてしまいそうである。異世界素材すげえ。


違う。素材に感心している場合じゃない。

模擬戦に集中出来るのだろうか。

これはスキル(を溜めるため)の餌食になるのではなかろうか。


そんなことを考えていたが、始まりの合図がない。

不思議に思っていると、騎士団の連中がなにやら蠢いている。なんか気持ち悪。


そうして聴こえる鬨の声。








「ボぉぉぉオォォー!」(野太い声)


「姉御!姉御!ティ!ア!ナ!」


「殺せ!殺せ!ティ!ア!ナ!」








殺しちゃダメだろう。なんかティ!ア!ナ!の声に合わせて人体文字を作ってるし。

審判がいねーと思ったら最後の文字やってんの団長だし。ダメだこいつら。



「すみません。始めましょうか」



「そうですね。さっさとやりましょう」



審判がいないので自分たちで始める。


ティアナは細めの片手剣で、緩めに構えている。なるほど。あまり対峙したことがないタイプだ。男ばかりと戦ってきたからなあ。


対してこちらも半身で剣は下げて構えている。

色々試したが、この構えが落ち着くのだ。


先程はあまり攻めなかったので、今回は俺から攻めてみようか。


起こりを出さずに詰め、上段斬り下げ。

フワッと避けられる。

斬り下げの反動で斬り上げ。

まだまだ避けられる。

できた隙に細かい一撃。は当たらない。

自分の行動の結果は予想出来ている。

手数を多くし、お互い受けと攻めを繰り返す。



一拍できたところで話してみる。



「凄いですね、柳を相手にしているようです」



「アル様こそ。手前味噌ではありますが、私とこれだけやり合える方は団長以外にはおりません」



「それは光栄ですね。それではもう少し頑張ってみましょう」



さて。少し攻め方を変えてみるか。


少し間が空くと、また外野の野太い声が発生する。撃ち合っている間は黙るっぽいからサッサと撃ち合おう。



「いきます」



そう言って普通に歩いて近づく。

このまま普通に剣を振るっては同じ繰り返しなので、やり方を変えてみる。


普段は行動の起こりを出さないよう動いているが、それを態と解除し、いくぞいくぞと相手に知らせる。突然の予備動作には逆にとまどうこともあるだろう。


ティアナも細かい斬撃や刺突でこちらの行動を封じにでる。

しかし、何合か打ち合わせたところで起こりをなくしティアナへ肉薄する。


この動きにはなんか呼び名つけようかな。その方が自分の思考もスムーズにいきそうな気がする。

まあ名前はまた今度だ。今はそれどころじゃない。


剣を剣にぶつけて身体を押し込む。

体格、体力差があるので、鍔迫り合いみたいな事まではしない。









ただ、一瞬。




ぶつけた瞬間にティアナが剣を握る手、小指を取りにいく。

取られたままでは小指は折れる。折るつもりはないので、折れるギリギリに曲げて、離す。

その結果、ティアナは剣を離すわけにはいかないが、握る手には力が入らないので反射的に距離を取ろうとする。


そこが隙だ。


予備動作のない一撃を胴へ撃つ。


が、自分も初めての行動のためティアナを撃つまでは至らなかった。


ただ、掠ったブラウスが斬れて白いお腹とヘソが見えている。


あ、ちょっとムラムラする。


仕切り直しでこちらも少し距離を取り、ティアナを観察するが様子がおかしい。

なんか震えてね?なに?怖い。


外野が「「「ヴォォー」」」となんか言ってる。

声が野太すぎてもはや言語の体をなしてないのよ。


そして、おもむろに上着を脱いで投げ捨てるティアナ。


お腹の見えるブラウスと、ブーツinピタパン、かいた汗も相まってなんか色々とヤバい。

主に俺の股間が。



「凄いですね、アル様」



いきなり声をかけてくるティアナ。なんか……空気が不穏な感じが……



「突然の指取り。正直焦りました」



「いえ、こちらも必死でしたので……」








「だがなぁぁ、調子にのんじゃねえぞガキィ」



えっ!?


キレた??



「俺の本領をみせてやるよコラァ!」



ちょい。人格チェンジに俺っ子への属性チェンジまでしとるやないか。

どうなってんだこの騎士団。外野は「キター!」とか言ってるし。キターじゃねえよ。団長が1番喜んどるやんけ。仕事せえ仕事。



「死ねコラァ!!」



言葉と同時にとんでもないスピードで突っ込んでくるティアナ。


さっきまでの柳のような剣技は見る影もない。

そのかわりパワーもスピードも段違いだ。


うぉぉおぉ! 手数が多すぎる。

パワー差があるので直接は受けることは出来ない。流して捌いて勝機を見出す。



「お気に入りだったのによぉぉぉー!斬りやがってコラァぁぁあぁー!!」



「親父はいつも書類ばっか押し付けやがってよぉぉおぉー!!」



「団員の糞どもは気持ちわりぃ目でみてくるしよぉぉぉおぉぉー!!」



「雄ァァあぁ亜荒ァぁぁーらァァ!!」



普段の愚痴まで噴出させて、上乗せして攻撃をしてくる。

ムチャクチャやこの人……



!? ヤバい!!


捌きが甘かった一手が返す切返しで顔に迫ってくる。

間に合うか! 間に合え!!


斬撃方向に首をそらせ、ギリギリで避ける。ただ、完璧にはいかなかったので、顔に薄らと斬撃の跡が残る。



「ちっ!しぶてぇなぁオイ。まだまだボコらせてくれんのかぁぁ」



ほんとに元の人格に戻るんですかねえ、コレ。


ただ、今のままでは手数が足りない。ちょっとお願いをしてみる。



「ティアナさん、ちょっとお待ちいただけますでしょうか。シド団長!武器を1つ増やしてもよろしいでしょうか!」



応援に熱中していた団長は声を掛けられ我に返る。仕事せえ。



「うむ。ティアナはどうだ?」



「かまわねえよ。さっさとしろガキィ」



「ありがとうございます! ではこの剣の半分くらいの長さの鉄の棒みたいなものはありますでしょうか?」



「んー、どうだか。マッシュ、ちょっと探してこい」



命令をう受け、走り去るマッシュ。


こちらを睨みつけているティアナ。

先程は夢中で気が付かなかったが、とんでもない姿になっている。

キレて運動量が上がったせいで汗だくだ。

額に張り付いた髪が色っぽく、ブラウスとパンツから透ける下着から視線が外せなくなる。

ふむ。色は青か。グッド。

夜が楽しみだ。


ふと思ったけど公爵家でやるのはどうなんだろ。普通にやべえ奴な気がする。



「ありましたーー!!」



良かった。あったらしい。



「おら、アル!受け取れええ!!」



全力でぶん投げられる鉄の棒。を途中でキャッチするティアナ。



「コラァ、こんなもんガキがキャッチ出来るわけねえだろうか。考えろクソがぁぁ」



おっ。キレてても優しい。



「このガキは俺が殺すんだからよぉぉ」



気のせいだった。


ティアナから鉄棒を放り投げられ、キャッチし、少し振る。うん。ちょうど良さそうだ。



「おまたせしました。ティアナさん。それでは続きを始めましょう」



「おう。死ねぇぇー!!」



開幕フルスロットルである。


だが今度はそう簡単にやられんよ。


鉄の棒を盾替わりにしてティアナの攻撃を弾く。

弾くと同時に斬り下しもくれてやる。


斬り下ろしを避け、少し距離をとるティアナ。



「なるほどなぁぁ。俺は感情で手数を増やしたが、お前は物理的に増やしやがったかぁあ。ならこっちも更にあげていくだけだぁァ!」



まだギアがあがるんか。

しかし、最近ものになってきたこの戦い方は攻防どちらも自信がある。

大人しく負けてスキルの餌になりやがれ。


ほぼほぼ同時に右袈裟、逆袈裟、刺突と撃ってくる。

しかしこちらの一刀一棒を攻略するには至らない。

適当に呼んだけど一刀一棒はねぇな。かっこ悪い。


数多の剣戟を捌き切り、息を吐ききったティアナに伝える。




「いきます」




スゥっと目を細め、ティアナを含めた自分の間合いに没入する。



瞬発力をもってティアナへ一瞬で迫る。

迎撃の斬り下し。

もう捌かない。

棒で飛ばすように弾く。

こっちは右斬り下し。

そのまま身体を流し右回し蹴り。

更に回転して左手鉄棒。

回転から急制動。

右前蹴り。

まだ入らない。しぶといな。さすが。

ただ、もう反撃の暇は与えてやらない。

刺突三連撃。

三つ目の刺突が終わる前に鉄棒を投げる。

剣で塞がざるを得ない。

終わりだ。



鉄棒を弾いたと同時に極限の脱力から剣を振り切る。


昔は音が聞こえる程度のスピードだったが、今はそれももう聞こえない。あるのは相手の抵抗を許さずに残される斬撃の軌跡だけだった。



「それまで!!」



おっ、仕事した。


ティアナは剣を断ち切られ、呆然としている。



「キレたティアナに勝つ……かぁ……。さすがにちょっと予想外だったな」



「アル!なんだかよく分からなかったけどすごかったわ!!」



あ。ナルのことすっかり忘れてた。元気?



「お手合わせありがとうございました」



ティアナさんはボッーとしている。

大丈夫かコレ?

近づいて目の前で手を振ってみる。


あ、戻ってきた。



「はっ!?アル様。失礼いたしました」



「どうしたんだ。ティアナよ」



「いえ、最後の斬撃で死んだかと思いまして」



「そうだな。最後の一撃はそう錯覚させるに値する素晴らしいものだった」




意識と共に人格も戻ったようで安心である。



「いえ、まだまだです。ところでシド団長。私の戦いをみて、どこか足りないものはありましたでしょうか?」



「あるぞ」



「!! 是非ご教示ください!」



「身長と筋肉だ」



「えっ?」



「身長と筋肉だ」



「そうですね。身長と筋肉ですね」



ティアナまで言ってくる。



「正直今の年齢では技に身体がついていかないだろう」



「あぁ。たしかにそうかもしれません……」



「なに、その歳で公爵家騎士団の次席を破ったんだ。大いに誇ってよいだろう」



「そうか。そうですね。ありがとうございます。身体が出来上がるまでは更に技を磨いていきます」



「うむ。アルも連戦で汗もかいただろうし、ティアナと風呂でも浴びてこい。アルは今日は上がっていいぞ。また明日から基礎も含めて訓練をしていこう」



「はっ!承知しました!」



ウィル様は来ないようだし今日は素直にあがるか。部屋でやる事もあるしな。やる事が。



「ナルシア様はどうなさいますか?」



「そうね。私も訓練しようと思ったけど、アルの模擬戦を見て満足しちゃったわ」



お腹いっぱいになったらしい。



「アル、午後から空いているなら私の部屋に来なさいな」



「分かりました、ナル」



そう言ってメイドと戻ってしまった。



「アル様。それでは宿舎の方の浴場へご案内いたしますので行きましょう」



「分かりました。よろしくお願いします。あ、シド団長。午後からはオルヴァス家の副団長エドガー以下4人の団員が訓練に合流しますが、公爵家の騎士団と同様に扱ってくださってかまいません」



「おう。わかったぞ。血反吐吐かせてやろう」



なんてこと言うんだこの人は。



一礼してティアナの後ろについて案内をされる。

ええ。もう尻しか見ていません。



「アル様。こちらになります」



「ありがとうございます。それでは私はこちらの男湯へ」



と言ったところでティアナに腕を掴まれる。



「初めての浴場では使い勝手も分からないでしょう。こちらで一緒に入りますよ」



力にものを言わせ、引きずられていく。


問答無用で脱がされ洗われる。裸のティアナに。


うぅ……穢され……てないな。役得だコレ。


ただ、洗っている最中のティアナが後ろでハァハァ言ってて今にも穢されそうではあった。


子供然として、普通に入り普通にあがる。


そして最速で部屋に向かう。













《「ショタ好きの裸婦」を解放しました》


《「ショタ好きの薫る汗」を解放しました》


《「ショタ好きの透ける芸術」を解放しました》


《「俺っ娘の透ける芸術」を解放しました》






ティアナ……ショタ好きだったんだな……

なんかすまん。

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