第9話「魔物狩り」



波乱のパーティから帰って以降は、いつも通りの日常を過ごした。



その後、ナルシアとは手紙でやり取りをしている。主にお互いの近況を報告しているだけではあるが。

次に会う日は決まってはいないが、何か形に残るものを用意せねばならない。何か考えないとなあ。



そして、日々を過ごすうちに9歳になった。


ダリルは7歳になり、レーナは4歳だ。


早いなあ。

自分は9歳で精神が大人なこともあり、弟や妹の成長が早く感じてしまう。気持ち的には親と変わらない。

レーナには「にいたま」とか言われて悶絶している。かあいい。


ちなみにダリルのスキルは「明朗治定」というものだ。

これはそのまま字のごとく、明るく朗らかに地を治める。というまさに領主向けなスキルだった。

こんな西洋なのに字のごとくってなんだよ、という話ではあるが、ファンタジーだから諦めろ。俺は諦めた。


しかし、自分としてはダリルのスキルが領地の運営に益するもので本当に良かった。

これでダリルが戦闘系だと俺が継がざるを得なくなる。


正直自分の「自家発電」とかいう謎スキルは、分類ができず、未だによく分からない。

一生発現せんのじゃなかろうか。不安。


とりあえずダリルにはスキルが優秀でも人格が曲がってたら元も子もないので、このまま朗らかな良い子に育ってもらおう。



ほんで。

9歳にもなり、父から領地内の魔物討伐へ同行の許可がでた。

元々父にお願いをしていたのだが、親バカなので許可を渋っていたのだ。俺、あなたや騎士団長くらいには強くなってんだけど。



ともあれようやく討伐訓練だ。

自分の中での目標は


1 レベルを上げる

2 魔物を殺すことに慣れる

3 魔物の怖さに慣れる


と決めている。

自分は今まで命のやり取りなどはしたことがない。言わずもがな前世も含めてだ。

おそらくだけど、魔物は討伐できる。できるが震えや怯えは本能的にでてくるだろう。

それを早いうちに克服したいがためである。



「アル、準備はできたか?」



考え事をしているうちに、父から声をかけられた。



「はい。父様」



今回は魔物討伐なので、いつもの刃引きした剣ではない。腰にはショートソードを提げている。今の身長が140cm程度なので、身体に合うものを用意してもらった。



「よし。では騎士団長のセッツも待っている。門まで移動しよう」



さて。

移動中に現在のステータスを確認しておく。



アルスレイ・フォン・オルヴァス

Lv 1

HP 60

MP 225

STR 105

INT 233

DEF 55

DEX 526

AGI 252

LUK 80


スキル : 自家発電



2年前の7歳の時に比べてかなり伸ばすことが出来たと思う。

剣に関しての土台は出来上がった。受けをさせれば領内に右に出る者はいないだろう。ただし力がないため相手を倒し切ることが難しい。

魔法も併用すればそれも解決はするけどね。

ただ、スキルを使った効果不明の攻撃をされる場合もあるので、まだまだ油断はできない。



自分のステータスを確認してるうちに門に到着する。

そこには騎士団長セッツを含む10名が待機していた。



「では皆、今日はよろしく頼む」



「承知しました。本日は領内の東側にあるモルスの森へと向かいます。比較的魔物も弱く、アルスレイ様の良い訓練となるでしょう」



「セッツ団長も騎士団の皆もよろしくね」



「万が一もないよう、万全の警護をいたします。それでは出発!」



モルスの森までは馬で1時間程度らしい。

自分も馬に乗って移動をしている。乗馬は必須科目で練習したからね。まあステータス的にも余裕だったが。


そういえば気になったことがあったので、隣を走っている父に聞いてみる。



「父様、モルスの森ではどのような魔物がでるのですか?」



「そうだな。森と言うだけあって広大だ。今日は入口の浅い場所の訓練だから、モルスウルフというモルスの森を生息域とした狼のような魔物が相手だ」



「そうなのですね。ちなみに森の深い部分へ行くとどのような魔物が?」



「森の中頃は昆虫や植物の魔物が多い。エンドビー、モルスモス、マナトレント、ブラッドローズなどだ」



「森の深層は騎士団でも把握しきれてはいない。森の主は進化したモルスウルフが居るという噂くらいか」



「魔物は進化するのですか?」



「そのようだ。魔物といえども人間ばかりを襲うのではない。日々の生きるために争いをし勝ったものがより力を得て進化をするようだ。条件は不明だがな」



「そうなのですね。参考になりました。父様ありがとうございます」



「なに、大したことではない」



そんなことを話しつつ馬を走らせているとモルスの森と思われる場所まで到着した。

馬を繋ぎ、次の行動へうつる。



「それでは私を先頭に、後ろにはアルスレイ様、アルスレイ様の隣にはアースレイ様がお願いします。他の団員は周辺の警戒をしてくれ」



セッツが号令をかけ、皆で森の中へ入っていく。空気がうまい。


森の中はまだ入口ということもあり、思ったよりも鬱蒼とした感じはない。むしろ、天気も良く安全な低山を歩いているようである。

自分の感覚的な警戒網にも違和感は感じない。


しばらく警戒をしつつも、どこかハイキングのような気持ちで進んでいると団長のセッツが皆に声をかけた。



「ここら辺で小休止を取りましょう。ちょうど、見渡しも良いですしね」



訓練をしているおかげで疲れはほとんど無いが、そういう時こそ過信せずに素直に休むのが良いだろう。



「そうだな。よし、小休止だ」



父の許可もでた。

父と俺が中心となり、騎士団は半分が立って警戒をし、もう半分は腰を下ろす。



「どうだ、アル。疲れたか?」



「いえ、普段の訓練のおかげか差程疲れはありません」



「そうか。しかし警戒しながら歩いたのは初めてだろう。思わぬ疲れが溜まっているかもしれないからな。今のうちにしっかり休みなさい」



「はい。分かりました、父様」



遠慮なく休むよ、ワシは。


しっかし天気が良過ぎてポカポカしている。

魔物のことを忘れて寝てしまいそうだ。


少し半目になりつつ、前方をぼーっと眺める。

今世は視力も良いのでかなり先までも見通せる。






ふと。


100m先で、何かが動いた気がした。


慌てずに見続けてみる。


あー、いますわ。オオカミっぽいのが。


もうボケっとはしていられない。すぐに声をだす。



「前方100m。ウルフがいます!」



大声は出さず、警戒を促す。



「戦闘準備!」



セッツの声で、皆が迅速に戦える体制になる。


そこで提案をしてみた。



「父様、セッツ団長。たぶんモルスウルフだと思うのですが、もし1匹のみで現れた場合は私が相手をしてもよいでしょうか?」



「アルスレイ様、それは……」



「アル。ひとまずセッツや団員が闘う姿をみてからの方が良いのではないか?」



「それはそうなのですが……ただ、モルスウルフの攻撃手段は引っ掻き、噛みつき、体当たりくらいですよね?で、あれば自分なら捌けるかと思いまして。それに危なそうになったらすぐに割って入っていただいてかまいません」



「ぅんん〜。分かった。私やセッツの剣を受けているアルならそれほど心配はないであろう」



「承知しました。皆も良いな?」



団員もウンウン頷く。


よし。初の魔物討伐だ。ビビらずいこう。



「こちらに気がついたようです。他に仲間の姿はありません」



「分かったよ。前に出るね」



皆を背にして前へでる。

モルスウルフがこちらへ迫っている。あっちも警戒しているのか、そこまで速くはない。


接敵するまで10秒くらいか。少し観察してみよう。


大きさは1m50くらいかな?

眉間に皺を寄せ、舌と涎を垂らしている。

毛はごわごわしているかと思いきや、割とスッキリしている。夏毛かな?魔物に生え変わりがあるか知らんが。

1匹で居ることもあり、あまり賢くないのかもしれない。

生態を知らんから言いたい放題である。



さて。そろそろぶつかるな。



突っ込んでくるのかと思いきや、目の前でとまり唸り声をあげている。そら後ろに人間いっぱいいるものね。


あまり警戒されて逃げられても困る。

君の敵は俺だよ。という意思表示で目の前で軽く剣を振ってやる。



「ウァヴゥ゛ゥ゛ルルルゥ」



おっ、しっかり敵認定してくれたようだ。

さあ、ここからだ。


どこを視るともなく全体を視る。



前足の付け根に力が入っている。

頭は下がり気味。

噛みつき。

右に避け、軽く蹴り込む。

ビクともしない。

飛びかかりと体当たり。

迫ってくると大きい。足が竦む。

避けたつもりがあまり動けていない。

剣を斜めに構え、当たった瞬間に廻転をしていなす。

危ない。足元を強く踏込み、竦みを散らす。

すぐに反転して体当たり。

もう大丈夫。落ち着いて避けられる。単調だな。このくらいか。もういいか?いくぞ?



モルスウルフはそれしか攻撃手段がないのか、噛みつきをしてくる。


決めにいった俺は、動きの起こりを出さずに横へ避け、初の討伐に向け剣を振るう。








サン



剣の重さに逆らわず、自然体で振り抜いた剣はあっけなく魔物の首を落とした。


魔物が相手ということもあり、残心は怠らない。


程なくして生気が抜けたようだ。

身体の力を抜く。



「アル。よくやったな」



「アルスレイ様。お見事でした」



「足が竦んじゃいました。まだまだです」



「いや、それも含めてよく冷静に対処はできていた。特に最後の仕留めにいった一撃は目を見張るものがあったぞ」



「私は一撃に入る前の避ける動きが素晴らしいと思いました。というかあれはどうやったのです?一瞬消えたように見えたのですが……」



「父様もセッツもありがとうございます。最後の一撃は相手への敬意を込めて、本気で振るいました」

「避ける動きは……ここではのんびり説明もできませんので、帰ってからにしましょうか」



「そうだな。アル、まだいけるか?」



「はい。まだ十分に体力はありますので大丈夫です」



「では浅い位置をもう少し進んでいきましょう」



その後は現れるモルスウルフを騎士団が討伐するのを見学したり、一緒に討伐したりで日が落ちる前に帰ってきた。






「ただいま戻りました」



「アルちゃん!怪我はない?痛いところは?疲れは??」



すごい勢いである。

順調に討伐をし、特に怪我を負うことなく帰ってきたのだけど、抱きついてきた母の乳圧で窒息死しそう。



「だ、大丈夫ですよ、母様」



せっかく無事に帰ったのに、乳圧によるダメージをうける。



「クレア。アルは心配して損するくらい苦もなく討伐してのけたぞ」



「まあまあまあ!そうなのね!良かったぁ〜」



このかあいい母を悲しませることはできまい。

今後も傷を負わないように努めねば。


そこへ弟のダリルとレーナも駆け寄ってくる。



「にいたま!」



身体ごと体当たりをかます妹。しかしウルフを相手にするように避けたりはしない。ガッシリと受け止める。



「無事で良かったです!」



ふんすっと鼻息荒く心配してくれる。

抱っこしたままなでなでの刑に処す。



「兄様、魔物は手強かったですか?」



「いや、慣れてしまえば意外と大丈夫だったよ」



「さすが兄様です!」



こちらもふんすっと興奮気味だ。


ほんとよく出来た可愛い兄弟だ。

困ったことがあったら兄ちゃんに言うんだぞー。殲滅してやるからなー。



「ほら、アルも疲れているだろう。湯に使ってきなさい」



「はい。じゃあちょっといってくるね」



レーナを降ろしてメイドのミリアに案内されていき、湯に浸かりながら考える。今日の目標についてだ。


1 レベルを上げる

2 魔物を殺すことに慣れる

3 魔物の怖さに慣れる


2と3については概ね大丈夫だろう。

そして1についてだが。ステータスご開帳。



アルスレイ・フォン・オルヴァス

Lv 2

HP 60→80

MP 225→255

STR 105→115

INT 233→248

DEF 55→65

DEX 526→546

AGI 252→272

LUK 80→80


スキル : 自家発電



レベルは上がっているんだけどなあ。

1しか上がってない……モルスウルフって経験値低いのだろうか。経験値の概念はあるのか?

経験値がないとどのくらいでレベルが上がるのかさっぱり分からん。今度調べてみよう。

そしてステータスの上がり幅だが、これもさっぱりだ。一応、鍛えて値が高くなった項目が「適正」とみなされたのか、伸び率が高いようだ。



まあ、自分はあれこれ細かく気にすることは性分ではないので、値はあまり気にせずにレベルアップを図っていこう。



目標もひとまずは達成できたことだし、考えても分からないことは後回しで。

さすがに少し疲れたしね。






今日はよく寝れそうだ……。

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