第5話「社交(1)」



8歳になった。



特に1年前と特に変わらない生活をしている。

スキルも相変わらず沈黙している。

どうなっとんねん。



まあいい。

こちらを振り向いてくれない無愛想なスキルなぞシカトだシカト。

こっちはそれどころではない。

なぜならパッパがめんどくさいことを言い始めたからだ。



ちなみに心の中での父親の呼び方は適当だ。気分で呼び方を変えている。



「アル、そろそろ社交界デビューするぞ」



はぁ?なんて?シャコウカイ?

車の高さとか競うんか?


なにそれ?みたいな顔をしているとパッパが説明をしてくれる。



「アルももう8歳だ。そろそろ同い年の貴族子息や令嬢との交流をもったほうが良いと思ってな」



あ、そういや貴族だったわ。訓練ばかりしてた脳筋ニート気分だった。



「なるほど......。社交界とはどういった場でどんなことをするのでしょうか?」



昔よりも丁寧な言葉使いになった。貴族ということもあり、少し大人びた口調でもさほど疑問には思われないらしい。



「そうだな......。簡単に説明をするなら貴族の交流の場と考えてよいだろう。ただ、招待された貴族はのんびり食べて喋る、という訳にはいかない。言葉の端々から相手の思惑や意図を読み取り交渉等をする場でもある」



あきらかに面倒くさそうな顔をする俺。

普通の8歳なら「ふむふむ」としたり顔で聞きそうなものだが、言っていることが理解できるからこそ面倒くさい。



「そんな顔をするなアル。おまえは顔に出過ぎだ。そんなことでは他の貴族に遅れをとるぞ」



おっといけない。つい顔に出てしまっていたようだ。



「すみません。どう考えても面倒な場のようでしたので......けど子供である僕や同じような年代の子にはそこまでのことは期待されていませんよね?」



「そうだな。子供は名目上の「交流」をそのまま楽しめば問題ないだろう。このような場での出会いが今後どのような影響を与えていくかも分からんからな」



たしかに貴族で強さを手に入れてもぼっちは辛い。たぶん学院的なとこにも通うのだろうし、知己が多いに越したことはない。



「分かりました。せっかくですので楽しもうと思います」



「そうだな。まずは楽しみ、そしてその上で場の空気や人物などをしっかりと学ぶと良い」




ということで社交界デビューしてくるわ。



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■



まずはパーティが開かれる場所だが、隣の領地で割と近い。割と、というか近いのだが馬車で2日と聞くと遠っ!という気分になる。2日あったら大体の場所まで行けた前世と比べてもしょうがないのだけどね。これから慣れていくしかない部分だろう。

まじでさっさと身体強化で高速機動できるようになろ。


で、領地はヴェルヘルムという地で治めているのは公爵家だ。現当主の名はオーヴ・フォン・ヴェルヘルムという。

どうやら昔、パッパが学院で次期当主である当主の息子と懇意になったらしく、ちょくちょくパーティに呼ばれるようだ。



さて。

社交界といえば服装にも気を使わなければならないだろう。


とはいえ自分で口を出すことはまだできない。

用意されたものをメイドによって着せ替えられていく。


意外にもスリーピースだった。

同じ生地で作られたジャケット、ベスト、パンツである。今は割と暖かい季節で、軽めの生地で作られていた。前世では機械縫製のスーツしか着たことがなかったが、この世界では全て職人の手縫いだろう。着心地が半端ない。

中世っぽい世界ではあるのだが、何故に服飾が発達しているのだろう。


このような疑問への答えはもっている。

「ファンタジー」だからだ。ファンタジーは全てを超越するのだよ。

適当だけど、知らん世界の謎文化を一から考えるほど真面目な人間ではない。

今後もこの答えで疑問にはゴリ押しでいこうと思う。


で、スーツのことだ。

涼し気な生地で色は濃いめの紺。中のシャツは白寄りのアイボリーという感じ。

全体的にスマートによくまとまっている。姿見で確認しているとちょっと思いついた。


せっかくだしお洒落していこう。



「ミリア、ちょっといいかな?」



すっかり専属となっているミリア。立派な胸元で今日も今日とて世話をしてくれる。



「はい。アルスレイ様」



「ここの袖口にボタンの代わりに嵌めることができる......そうだな、このスーツの色より気持ち薄い色の石のようなものはあるかな?」



「......探してみます。ボタンの代わりに袖口を止められるように加工したもの、がご要望の物でよろしいでしょうか?」



「うん。それでかまわない。無かったらボタンでいくから教えてね」



「承知しました。すぐに手配いたします」



所謂カフスボタンだ。もしかしたら大人はすでに持っていたりするのかもしれないが、せっかくだからたまには前世の知識も活かしていきたい。


まあ思いつきだし、無理なら無理でなんの問題もないだろう。少し楽しみではあるけどね。


さて、出発まであと1週間はある。




一応、作法のおさらいなどもしておこうかな。

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