第6話「社交(2)」



「アルスレイ様」



「ん?なんだいミリア」



「先日ご要望されました、袖口に嵌める石について用意ができました。ご確認いただいてもよろしいでしょうか」



「あ!できたんだ!確認するね。全体の雰囲気もみたいから着替えもするよ。ミリアお願い」



「かしこまりました」



なんとかできたみたい。どんな感じかな〜。


そして今日もスルスルと脱がされ、スルスルと着せられる。目の前では双丘がプルプルしている。そろそろ性欲が湧いてきてキツいんだけど。

そろそろ禁断のひとり遊びを解放しなければならないのかもしれない。


スーツを着用し、袖口にカフスを嵌める。

お、これは良い出来だ。濃紺のスーツの色に袖口から覗く、主張をし過ぎない程度に光るカフス。

いいねいいね〜。



「どう?ミリア」



「よくお似合いですよ。アルスレイ様」



そう柔らかい笑顔で褒めてくれるミリア。

転生してからの付き合いだけど、安心する笑顔である。



「父様や母様にも見せてこようかな」



そういってミリアを連れだて父の部屋へ。

貴族的には先に伺いをたてるものだろうけど、オルヴァス家はそこらへん割とうるさくないのでアポなしでごめんください。



「父様、今少しよろしいでしょうか?」



父の部屋をノックし、聞いてみる。さすがに扉ドーンはしない。オルヴァス家でも怒られる。



「アルか。入っていいぞ」



許しがでたので部屋へ入る。あら、母もいる。

午後のティータイムだったかな。



「母様もいらしたのですね。ちょうど良かったです。パーティへ着ていく物が揃いましたのでみていただけますか」



そういって謎のポーズをとってみる。

子供だから真顔で恥ずかしげもなくできるぜ。



「あらあら、アルちゃんたら嬉しそうね。けどよくお似合いですよ」



「おお、よく似合っているな」



良かった。似合っているようだ。カフスには気づいてくれるかな?



「あら、アルちゃん。その袖口に付いているのは何かしら?」



「本当だな。アル、それはなんだ?」



即バレでした。



「これは袖口をとめるのに、ボタンの代わりに石を使ってみようと思い、作ってみました。カフス、と呼んでいます。ミリア、そういえばこの石は何を使っているのかな?」



「はい。アルスレイ様。こちらはヘルムナイトと申しまして、ヴェルヘルム公爵領から産出される石となります。パーティがヴェルヘルム様主催と聞いておりましたので、公爵様への敬意を含めこちらの石でお作りしました」



おぉぉ......なんという有能メイド。これは公爵様も嬉しいだろうな。



「ちょっとよく見せてくれ」



父の側まで近づき、袖口を見せる。



「これは......良いな......ミリア、私の着る服にも似合うものを作ることは可能だろうか?」



「お似合いになる色や大きさの石があれば可能かと思います」



「そうか。では私も......「あなた?」」


母からのインターセプトが入った。

なんじゃろ?



「せっかくのアルちゃんのお披露目も兼ねているのですから、あなたが話題をもっていくのは感心しません」



「それに(ゴニョゴニョ)」



父の耳へ近づきヒソヒソと話す母。なんだなんだ。



「そうか。それは良いな。すまないクレア、そのようにしようか」



どのようにだよう。



「アル。そのカフスというのは公爵様へ挨拶へいくまでは他の人へ極力見せないようにしなさい」



あ、なんとなく分かった。

売り込むやつだコレ。



「おぬしも悪よのう」



「こら。どこでそんな言葉を覚えてきたのだ。まあせっかくアルが考えた価値のあるものだ。せっかくだから売り込んでみよう」



たぶん領内から普及しても良いのだろうけど、貴族社会への影響力の高い公爵から広めてもらうことで権利関係をはっきりさせつつマージンを貰う感じかな。販路を考えると貴族と裕福な平民くらいなので、そこまでの儲けにはならないだろうけどね。

公爵様の覚えがめでたくなるだけでも良しとしましょ。



「よろしくお願いします。それでは明後日の出発を楽しみにしていますね」



「あ、アルちゃん」



「どうしましたか、母様」



「私には何かないかしら?」



「何か、というと?」



「新しいお洒落のアイディアとか」



「えぇ......」



中々無茶を言いおる。女性のファッションの知識とかはあまりないのだけど......

しかし美人の母でもあるし、せっかくの社交場で話題もほしいのだろう。



「ちょっと考えてみますね」



そう言い、じーっと母を見つめる。

こら、モジモジすんな。



............!

お、これならどうだろう。


「母様、お手を拝借してもよろしいですか?」



「?。はい、どうぞ」



母の手を見てみる。爪を含めてよく手入れがされている綺麗な手だ。頬ずりしたくなる。



「母様。とてもお綺麗な手ですが、爪に関しては皆様はいかがされていますか?」



「そうねえ。皆綺麗に整えて艶をできるだけだすようにしているわ」



「なるほどなるほど。それではですね、爪に色を塗ってみませんか? 着ているものに合わせた色味で強い色でなければアクセントとして良い具合になるのではないでしょうか」



「............!? アマルナ。部屋へ戻り3日後までになんとかするわよ」



突然の宣言。ピーンときたのだろう。

アマルナは母の専属メイドである。

そして3日後と言っているが、出発は明日の午前中だ。間に合うんか?



「アースレイ、そういうことなので戻るわね」



「あ、あぁ......」



父、何も言えず。

女性のお洒落への情熱には男は隅で待つしかないのである。



「あ、母様。あまり塗りすぎると爪が痛むと思いますので、あくまで爪の保護をしつつ、着ているものを引き立てることができる色味が良いと思いますよ」



「アルちゃんありがとおぉぉぉー」



遠くなっていく声。

3児の母とは思えないほど若々しい。



「さて。父様、僕も失礼しますね」



「うむ。ではな」



父もなんか疲れたようだ。

こればかりはしゃーない。






お披露目も上手くいったし、俺も部屋に帰って魔法訓練でもしようかな。

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