日常回① この中に一人、男がいる!
「世界が退屈なら、自分たちで面白く変えればいいんだよ!」
ド金髪ギャルである葛西・マジェスティ・夕凪がそう叫んだ。
そして彼女は広報委員会の室内に置かれた安っぽいテーブルを叩きながら宣言する。
「というわけで、うちらで新しいゲームを考えよう!」
右腕を掲げて楽しそうにしている夕凪を、日堂院スカラはじっと見つめる。
葛西・マジェスティ・夕凪。
本名かどうかも疑わしいこいつはこの学園に通うスペースガールズ候補生であり広報委員会の委員長で、ウェーブがかった金髪と丁寧に装飾された爪が特徴的なギャルっぽい見た目をしている。しかしその一方で、科学研究部にも所属しており常に白衣を身に纏っている――博識なのかそうでないのかよくわからん少女だ。
夕凪の熱量に圧されるまま新しいゲームの考案が始まろうとしたとき、それをせき止める声が上がった。
「え、ゲーム作り!? せっかく昨日、
「あと回しで! どうせ誰も読んでない学内新聞だし! 楽しむこと優先で!」
「広報委員長としてあるまじき発言だ!」
ショックを受けた表情とともに机に突っ伏す、中性的な顔立ちの青いボブヘアの生徒。
ラン・フォン。
この学園に通う台湾出身のスペースガールズ候補生。
夕凪と同じく広報委員会に所属していて、曲者揃いの広報委員会の中では比較的真面目で、いつも夕凪をはじめとした委員会メンバーに振り回されている、不遇可愛い生徒だ。
項垂れるラン・フォンを無視して、夕凪が腕を組んで考え込みはじめる。
「ゲームといっても、うちら素人で作れる物は限られてるからなー。できればボードゲーム……それも、人狼ゲームみたいに事前に用意する物が少なくて会話主体で進められるゲームが作りたいな。それでいて奥が深くて面白いやつ」
要求が多い奴だった。
そのとき、ひっそりと手が上がった。
「そ、それなら、一つ提案いいかな……」
手を挙げたのは、目元が隠れるほど前髪が伸びた黒髪の美少女。
黒崎芳香。
彼女もまたスペースガールズ候補生で、広報委員会の一員。
基本的には引っ込み思案な性格でザ・インドアな趣味をしており、聞いた話によると広報委員会とは別にゲーム部にも所属しているらしい。猫背気味ではあるものの、その一方でスタイルは学園でも随一に美しく高身長かつ豊満なボディをしている。しかも前髪に隠れた素顔もまた驚くほど整っており、学内には秘密のファンクラブが存在するとさえ噂されている。
そんな黒いダイヤの原石である彼女はおそるおそるゲーム内容を提案した。
「こ、こういうのはね、一から完全オリジナルゲームを作るんじゃなくて、既にあるゲームを元にしつつコンセプトを変更するのがいいと思うの。だから、芳香が提案するのは、人狼ゲームをもとに新しいコンセプトを加えたゲーム……『この中に一人、男がいる』だよ」
なるほど、それは面白そうだと日堂院スカラは思った。
女性しかいないこの学園でなら特に流行りそうだ。
そう感じたのは他のメンバーも同様のようで、夕凪が手を叩いた。
「おお~バリ面白そう! 天才じゃん、芳香ん!」
「でへぇ、でへへへへぇ」
褒められ慣れていない芳香がまるでクレヨンしんちゃんのキャラクターのように顔面崩壊させながらにやつく。美人が台無しだった。
「スカラっちはどう思う?」
夕凪に話を振られて、いよいよ広報委員会最後のメンバーである日堂院スカラが口を開いた。
「とてもいいコンセプトだと思いますですよ。あとはゲーム内容ですね。人狼ゲームは狩人や占い師、村人といった役職の人々が暮らす村に人狼が紛れ込んでしまい、毎夜、人狼によって人間勢が殺されてしまう。なので話し合いによって人狼と疑わしき者を決めて処刑しよう、という内容だったかと思います」
スカラは首を傾げた。
「『この中に一人、男がいる!』はどういうゲームになるんでしょう?」
「へ、へへ、それならちゃんと考えてあるよ!」
黒崎芳香がおずおずと手を挙げた。
「まず、舞台は女性しかいない学園なの。でも、その中に超可愛い女装男子が侵入してるんだ。女生徒側はその女装男子を見つけ出すのが目的。反対に女装男子側は、バレずに女生徒たちを次々に手籠めにしていくのが目的なんだよ」
「手籠めに」
「人間側の役職はね、普通の女生徒、魅惑の女教師、飢えた百合厨だよ」
「魅惑の女教師、飢えた百合厨」
聞きなれないワードを無意識に口にするスカラ。
芳香が頬を紅潮させながら妙に早口で喋りはじめた。
「魅惑の女教師はね、女装男子に襲われても返り討ちにして食べちゃうぐらい性欲が強いの。だから守りたい生徒の寮室に忍び込んで、もしそこに女装男子がやってきたら撃退できるの。人狼でいう狩人の役職だね! 飢えた百合厨はその鍛えられた百合鼻を使って一ターンに一度、生徒を一人選んでそれが本当に女生徒かどうか判別できるの。人狼でいう占い師の役だよ!」
「とりあえずその女教師は即刻クビにしたほうがいいですね」
生徒の寮室に忍び込むな。
なんなら女装男子より危険まである。
話を聞いていたラン・フォンが不思議そうに首を傾げた。
「ところで処刑はどうするの? 学園が舞台だと流石に殺してしまうのはやりすぎな気がするけど」
「はいはいはーい! それならうちに妙案があるし!」
夕凪が手をあげてハツラツと声を発した。
そして腕を組み、神妙な顔つきで語りだす。
「確かに学園が舞台である以上、人殺しはリアリティにかける。だけど相手は女生徒を次々に襲っていた不届き者。よって死にはしないが死に相当するぐらいの罰を与えるのがバリ望ましい。つまりうちが提唱する処刑方法はこれだぁ!」
夕凪は立ち上がると、黒板にその処刑方法を勢いよく書き殴った。
「残された女生徒全員で、侵入者の金玉を思いっきり蹴り上げるっ!」
「それは死よりも恐ろしい罰だよ!?」
黒板の文字を見たラン・フォンが青ざめた顔で叫んだ。
確かに男性の股間を蹴り上げる行為は現代でも拷問に用いられると聞く。
女性である日堂院スカラにはその感覚まではわからないが、きっと恐ろしい処刑方法に違いない。
ゲームの方向性がある程度決まったそのとき、夕食の時間を告げるチャイムが鳴った。
この学園は全寮制のため、この時間になったら全ての生徒たちは用事を切り上げて夕食を食べに向かう。それが毎日のルーティーン。
チャイムの音を聞き終えたところで、委員長である夕凪が立ち上がった。
「よーし、じゃあ明日は『この中に一人、男がいる!』の各役職のイラストを完成させよっか! ではではー? 今日はこれにて解散!」
夕凪、スカラ、芳香の三名が帰り支度をしてゾロゾロと委員会室を出ていく中、真面目な性格のラン・フォンが一人、大声で叫んだ。
「広報委員会の仕事はぁ!?」
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