SpaceWolf ~学園に忍び込んだ人狼を見つけ出せ~

酒呑ひる猫

ストーリー① 日堂院スカラの欲望


 飢えた感覚が癒えない。


 金銭に満足したい。

 娯楽に満ちた日々を送りたい。

 地位と名誉が欲しい。


 とある国家の宇宙関連施設に潜入していた日堂院スカラという名の少女は、施設内のコンピュータから機密情報を手元のPCに複製しつつ深呼吸する。


「わたしの夢は、大金を稼いで美男子と結婚すること」


 そしてその大金を元に、南の島で将来の旦那様と働きもせずイチャイチャするだけの悠々自適な生活を送りたい。


 その夢を叶えるため、彼女は本来ならば学業に専念しているはずの年齢でありながら学校には一切通わず、高額な報酬を目当てにフリーの諜報員として危険な任務に身を投じる日々を送っていた。


「さて、脱出するとしますですか」


 依頼者から指示されていた機密情報は手に入れた。侵入に気づいた警備軍人たちへと銃弾を放ちつつ彼女は宇宙関連施設からの脱出を試みる。普通の諜報員であればまず逃げられない状況であったが、彼女に焦りはなかった。


 この程度の危機はこれまでに何度も乗り越えてきたのだから。


 それから二日後、無事に国外脱出まで済ませた日堂院スカラは、民宿のベッドの上で成功報酬の額を数えていた。今回の任務で途方もない額を稼いだがそれでも満足感はなかった。


「もっと稼がないと、渇きが癒えねーのでしょうか」

 そのとき、ベッドの上に置いていた携帯電話が鳴り響いた。

 通話開始ボタンを押す。


「はい、誰でごぜーますか?」

『初めまして。私は世界宇宙防衛機関の職員だよ』

「世界宇宙防衛機関? そんな大層な組織の人間がこのわたしに何用です?」


 その名前は、地球で暮らす者なら誰でも知っている。


 ――地球は今、危機に瀕している。


 二〇年前、人類は初めて地球外生命体に接触した。

 それ以来、人類は何度も地球外生命体の脅威に晒され、ついには彼らと戦うための国際的組織が発足した。


 それが世界宇宙防衛機関。


 そこの所属だと名乗る電話相手はこう告げた。


「君も知っての通り、地球外生命体と戦えるのは特殊な訓練を受けて能力を獲得した少女たち――スペースガールだけだ。私はそのスペースガールズを育成する学園の責任者でね。ちょっと学園内で問題が発生しているから、君にその解決を依頼したいんだ」


「なるほど、おもしれー依頼ですね。で? 具体的には何をして欲しいんです?」


 スカラは、電話越しに相手が笑った気配を感じた。


「学園に潜入した地球外生命体を、君に見つけ出してほしいんだ」


 その依頼をきっかけに、スカラにとって愉快で危険な学園生活が幕を開けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る