第56話京洛清涼殿




京に武田信玄の一行がやって来たのは、7月であった。


「なんて暑さだ」


「御館さま、やっと上洛じょうらくの行き先の京洛清涼殿きょうらくせいりょうでんで御座います」


「なんと優美な館ぞ」


漆喰しっくいの壁が白を強調して屋根瓦の黒が対比して、コントラストが落ち着いた雰囲気をかもし出している。



「これより先は、御刀を預かる決まりで御座います。お連れの方は、こちらで御待ち下されませ」


「御館さまを、1人で行かせてなるものか・・・」


「よいのだ。書状にも書いてあったのを言い忘れていた」


「しかし、御館さま」


「よいのだ」


武田信玄は、言い残してしずしずと歩きだす。



長い廊下を先導する者の後について行く。

かぐわしい香りがする。

前に歩く女子おなごが立ち止まり、振返ってひざまずくと引き戸を静かに開く。


武田信玄は、何も言わずに入る。



「なんだ、この涼しい部屋は・・・」


円卓には、4人の男がすでに座って待っている。


「遅かったな・・・」


信玄は睨んだ。

そこには、上杉謙信が座って居たからだ。


「色々あってな・・・出発が遅れ申した」


「早く言えば、その色々を手助けをしてやったにのに・・・今からでも遅くないぞ」


「嫌、手助けは無用」


「2人は知っているようだね。こちらが尾張の織田さんでこちらの方が三好さんです。あ、それがしの紹介がまだでしたね。三言です・・・今回、集まってもらったのは将軍職の代行を、この5人で合議にて行なうことの確認です。帝さまからも頼まれたのでよろしくお願いしますね」


なんで・・・

誰も話さないぞ。困ったな。

ちゃちゃと決めて終わらせよう。


千秋と田吾作じいさんの企みにまんまとはめられたよ。



「それでは帝さまからの伝言を話します。毛利にも参加するように伝えたそうですが、なぜか拒否しました。公家さんは、帝の面子が潰されたとめちゃめちゃ怒ってます。そこで、ここに丸投げしました。選択は3つ。1つは放置する・・・そのかわり公家さんからお叱りがあるでしょう。2つは、説得して納得してもらう。ちょっと難しいでしょう。3つは、毛利を攻めるです。オフレコですが公家さんの考えでは、2割の領地が欲しいって言ってます」


織田「それでは、攻め取った者の領地にして、2割を献上すれば良いのだな」


ああ、ガッツリと話に乗ってきたぞ。

織田信長は、戦が好きだね。


三好「某は、2つ目の説得を3ヶ月間しても無駄なら攻めるのも仕方ないと・・・」


そうか、努力しましたよって帝にも言い訳が出来るな。

帝は、毛利から大金を貰ったからな・・・



「三好さんの意見に賛成の方は、手を上げて下さい」


俺だけだよ。手を上げてるのは・・・

手を上げる行為が分からないのかな。


「三好さん、あなの意見ですよ。ここは手を上げて」


やっと手を上げたよ。


あ、織田信長も手を上げたぞ。


後は武田信玄と上杉謙信だけだな。

多数決で決めちゃってもいいかな。


ああ、ゆっくりと2人は手を上げたぞ。


「それでは、全員一致で説得してダメなら攻めるで決まりました。公家にも報告しておきます。帰る時にモールス信号の電鍵セットをお持ち帰り下さい。出席出来ない時に使って下さい。説明書も一緒にあるので、分からないなら誰かを寄越して下さいねーー」


ああ、ようやく帰ったよ。






「三言さま、よろしいのですか・・・織田軍が播磨に居座って毛利を恫喝どうかつしてますよ」


「仕方ないだろう。説得してますって言っているから」



「三言さま」


「なんだ服部か、何かあったか」


「三好が伊予に頻繁に話し合ってます」


なんだよ・・・大人しそうにしてたのに、伊予と協力して毛利を攻める気だな。


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