第53話淡路




播磨の海岸から小船に乗って海に乗り出す。

見送りってくれる船員が大きく手を振ってくれる。

お返しに、こっちも大きく手を振った。


「早く連絡を下さい」


「分かってるよーー」


ああ、今日は海が荒れてないから手漕ぎでもスムーズに進むなー。



「この辺なら深さも十分のようだな」


おもりを垂らした暴れん坊が「規定の深さを確認しました」


ニコリ顔の暴れん坊がロープの赤い目印をこれこれって見せているよ。


「それでは仏の奇跡を見せよう」


アイテムボックスからボンッと軍船を取り出した。

ザブンッと大きな波が発生。


暴れん坊は、何事が起きたのだと小船しがみついた。

波がおさまると改めて目の前の出来事に驚愕きょうがくしている。


そして「南無阿弥陀仏なむあみだぶつ、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」と必死に唱える。


俺は、ギーコギーコと小船を漕いで縄梯子につかまる。


「暴れん坊!岸に戻って乗り組員に連絡しろ」


そう言って岸の方を見る。

あれ!もう、こっちに向かう漁船集団がいるぞ。


連絡するまで待てと言い残したハズなのに・・・

巨大な軍船が現れたことで、いてもたってもいられなかったようだぞ。




「これが深度を見えるようにした物だから、くれぐれも船が暗礁に乗り上げないよう注意してくれ」


「了解しましたであります」


「それでは三言さま、出航してもよろしいでしょうか・・・」


ああ、ちょっと緊張してるな。船長任命で舞い上がったかな。


「君が船長だ。準備出来たら船長判断でするように」


「了解しました!」


ビシッと敬礼してるよ。

陸で軍隊のようにしごいたからね。


起床ラッパを鳴らして、起床。


寝床のチェック。


軽い運動して朝食。


座学で始まり、演習や訓練で終わる。

そんな毎日。






「ああ、あれが淡路島か・・・」


「ひとふたまるまるに洲本城すもとじょうへ現着予定」


一瞬、何言ってんのと思ったよ。

そうだった。自衛隊の時刻の表記(呼称)だ。


基本的な読み方としては、「0:マル 1:ヒト 2:フタ 3:サン 4:ヨン 5:ゴ- 6:ロク 7:ナナ 8:ハチ 9:キュウ」


聞き間違いの少ない読み方で、そんな風に呼称してるみたいだな。




時刻通りに洲本城が見えてきたぞ。


船長は「総員戦闘準備」


ダダダダダと大砲に準備をしてるよ。

距離と角度を確認。


「砲撃準備完了」


「撃て!」


洲本城で爆発が起きていた。

ああ、派手に爆発してるなーー又、爆発だ。


もう、城内はあたふたしてるぞ。


「三言さま、大変で御座います」


「何かあったのか・・・」


「織田信長殿が和泉いづみに攻め入ったようです。それと・・・我らが無視し続けた石山本願寺までを包囲したと・・・」


成る程、そんな動きをしてると聞いていたが・・・淡路攻めに合わせたようだぞ。


俺らって・・・何気に石山本願寺と因縁があったが、何もしなかったから無視を決め込んでたんだよね。



たしか昔の記憶は・・・

織田信長が上洛直後に石山本願寺に対して矢銭5千貫を要求。

2年後に石山本願寺の明け渡しを要求。


顕如は大変怒ったらしい。

全国の門徒衆に対して、石山本願寺防衛のため武器を携え大坂に集結するように指示。

10年以上も戦い続けたらしい。


しかし、今は状況がゴロッと変わってしまったからね。

原因は俺だ。


ただ石山本願寺は、金を持ってるからね。

毛利や三好に助けを求めるだろう。


海から村上水軍によって石山本願寺の補給をされたら、織田軍が包囲した意味をなさない。

たしか九鬼水軍で村上水軍を追いやった。

しかし、九鬼水軍は鉄甲船が出来たって知らせなんて無い。


九鬼の本拠地、紀伊国を攻め取って日が浅いから・・・



だから九鬼水軍の変わりに俺を使ったな・・・



「三好軍は、1時間の戦闘で敗走。船を使って四国に逃げたようです」


えーー!もう、三好は負けて逃げたのかよーー。

すべて俺の存在のせいだな。



早く淡路の安宅冬康あたぎふゆやすは降伏しないかなーー。

三好兄弟の3男だから・・・



「三言さま、大変で御座います」


「あ!ムササビか・・・何があった!」


「敵方の安宅冬康が爆発で瀕死の状態で御座います」


ああ、これは厄介なことになってしまったぞ。

助けるしかないだろう。


「安宅冬康を急いで連れ出すことは可能か・・・」


難しい顔をするなよ。


「正門近くの砲撃にしぼってもらえませんか・・・そのスキをついて出来る限りのことをやってみます。それでは・・・」


あ、消えてしまったぞ。


「船長、聞いていたな・・・」


「聞いておりました」


命令が伝えられて正門周辺はめちゃくちゃだよ。


「上陸するぞ!準備をしてくれ」


軍船のサイドが開き上陸艇が下ろされた。

30人が乗った上陸艇が海面を凄い勢いで走る。


海岸にそのまま着岸。

上陸艇の前がガンと前に倒す。


「周囲を警戒しながら上陸開始だ!行け、行けーー」


「小隊長、あれを・・・」


俺の目にもハッキリ見えたぞ。

ムササビともう1人が手伝って重傷者を運んでる途中だった。


その後方で、発砲音が・・・あれはライフルの音だ。

俺は、一瞬でムササビの所に行き「安宅冬康なのか・・・」


「あ、三言さま・・・そうです。安宅冬康です」


俺は、急いで光魔法を発動。


無くなっていた左腕が徐々に再生。

あっちこっちの傷は完治。


「これが仏の奇跡か・・・」


ああ、2人は始めてみるのか・・・はじめての人は、大抵がそんな反応なんだよ。


「死ななかったのか・・・」


安宅冬康が目覚めたぞ。


命の恩人となった俺に、安宅冬康は加賀三言寺の信者になったよ。


「三好の交渉は某がいたします」


そんなことまで言ってくれたよ。


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