第39話天皇、将軍、三好




京の御所。

天皇の朝の御膳が遅れ気味であった。


「備蓄した米が御座いません」


「なぜ無いのだ」


「昨日届くはずの米が届いてないからで御座います。どうも卑しい者に襲われたそうです」


「なんと嘆かわしいこと・・・京の治安の悪化はいちじるしいではないか、将軍や三好は何をしておるのだ」


「加賀の献上された加賀米を使うしかありません」


「やもえないのーー、これ以上遅くしては、お叱りをうけよう」





「のう、今日の白米はちと違うな。何があった」


「はい、御膳に出された白米は、加賀より献上された加賀米と申す米で御座います」


「加賀米とな・・・良き名よ。もう一杯、白米を食すぞ。して、これは椎茸か・・・」


「それは、椎茸の佃煮と申します。それも加賀より献上されたものです。それに先の毛利と同じ額の献納がなされました」


「なんと・・・なぜ早よういわなんだ。それに誰が献納したのじゃ・・・」


「加賀の田宮千秋たみやちあきと言う娘で御座います」


「なんと娘とな・・・ちと難しかろうが官位を考えねばな」








足利義輝あしかがよしてるは激怒していた。

御膳を蹴飛ばして「なぜだ!なぜ返事を寄越さぬのだ!この義輝を愚弄ぐろうしておるなおか」


困り顔の家臣が御膳を片付けていた。

殿は、逃げ先の朽木が無くなり困ってるのだろうと察している。

どこへ逃げればいいのだと悩んでいる。


頼りの近江国六角氏も滅んだ。

それに若狭国の武田親子まで死んだと聞いたのだ。


なにより腹ただしいのが美濃の一色と尾張の織田であった。

上洛した時は、三好討伐に良い返事だったのに、加賀三言寺と同盟を結び近江や伊勢まで奪い去ったのだ。

そんな素振りを見せない一色と織田に、たばかれたようで憎かった。



足利義輝とってはたまったものではない。

三好討伐に賛同した今川氏は、もういない。

来年には京へと大軍を引き連れて三好討伐に来る予定だったのに。


それに上杉からも三好成敗は、無理と断るに書状まで届いた。


全てが加賀三言寺がやらかしたのだ。






屋敷には、三好長慶みよしながよし三好実休みよしじっきゅう安宅冬康あたぎふゆやす十河一存そごうかずまさの兄弟が揃っていた。


十河一存は、讃岐十河城主の十河景滋の息子が死んだために、長慶の命で養子となった。

その四男の一存が重い雰囲気の中で話しだした。


「兄上、加賀三言寺をどうお考えですか・・・このままでは、京へ攻め込まれるやも・・・」


「わしが思うに・・・奴は京へは来ぬとみた」


「なにゆえにそうお考えに・・・石高では負けております」


「分からぬか一存」


「分かりませぬ」


「近江、若狭を攻め入ってから動かぬ。なにゆえに動かぬのだ。それは京を重要と思うておらぬのだ。しかも係わりたくない土地と思っていよう」


何通もの書状を広げて見せた。

内容は足利義輝が送った書状に対して、加賀三言寺はいっこうに書状を返していない事実。

それに対して足利義輝が激怒していることなど・・・

それは、義輝に近し者の内通者が居ることを示している。



「忍びを放ってみたが帰って来ぬ。死んだか向こう側についたかの2択だが、向こうについたと考えるべきだろう。武田に始まり織田や一色に上杉まで同盟を結んだ。武田など弱っているのに攻め滅ぼさなんだ・・・これをどう考えるかだ」


「それについて報告があります。一色は重い病気だったらしく、その病気を三言が治したようで・・・それ以降加賀三言寺のとりこになってると・・・」


「ああ、そのような不思議な力も聞き知っているが、まことなのか・・・よう分からん人物よの」


「甲賀では、外科手術なる腹を切り開いて治すと噂されています。それも加賀三言寺の教えのようで・・・」


「腹を切り開くとな・・・切腹でもあるまいに・・・」


「・・・・・・」


「堺にも加賀屋なる店がでているようで、ちゃくちゃくと売り上げを上げているようで・・・」


「堺か・・・」


「ここは様子見しかない・・・一色と織田から情報を引き出すのだ。加賀には、手出しをするな。決して虎の尾を踏むことはならん」



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