2-5 それが当たり前って……さびしいよ

 昼休みも終わりがけ、すこし時間もせまってしまって早足で一年生の教室をめざす。

 ゆうと優奈は二年生なので途中で別れて、今はわたし一人だ。

 なんだかんだと大変だったけど、ゆうと優奈がちゃんと元通りになれて良かったと思う。

 元通りではないのかな?

 ゆうの記憶はほとんどが夢の中でのことで、それはゆう自身もたまに混乱しちゃう時があるみたい。

 それはともかく、屋上での二人を思い出す。

 本当に仲の良い姉弟って感じだった。もちろん、わたしとなっちゃんだって負けないくらい仲が良い。

 ……けど、最近いろんなばたばたのせいで、ちょっと心配かけちゃってるかも。なにかお返ししてあげないとかな。

 教室が近くなってきたところで、その姿を見つける。

 短い髪を揺らして歩く姿はすっと背筋がのびて、後ろ姿もキレイだなと感じる。

 声をかけようとして、すこしためらってしまう。

 ――勇気をだす!

 心の中で気合いをいれて、

「お――!」

「そらぁ! どこ行ってたのさぁ?」

 声をかけようとしたわたしの背後からゆきが抱きかかってきた。

 驚いて出そうとした声が引っ込んでしまう。

 そうする内に声をかけようとした背中は曲がり角の奥へといなくなってしまった。

「今のおき? なんか最近、いないこと多いんだよね」

 いいけどさ、と苦笑い気味のゆき。

 そういえば、学校に通いはじめてからおきとはあんまり顔をあわせる機会はなかった。

 ゆき曰く、大事な家の用事らしいとのことだけど、詳しいことは知らないみたいだった。

 ……やっぱりそうなのかな。

 あの時聞こえた声は違う人のものだったけど、でもあれは、そう聞こえるようにしていた感じだった。

 話がしたいけど、なにを話せばいいのかもわからない。

 けど、今のままじゃいけない。

 そんな気がする。

 昼休みが終わるチャイムが鳴る。

 ゆきに抱きつかれたまま、とぼとぼと教室に入る。

 う〜……幸先が悪いかも。

 そんなことを考えながら、自分の席にすわる。


 その後の授業中、あの悪寒を感じた。

 けど、それはすぐになくなって、感じたそれは誰かが鬼脅に変わったものじゃなかった。

 おきの席は相変わらず空いたままで、クラスのみんなも先生も、それが当たり前のように授業は変わらず進んでいく。

 それがわたしには――どうしようもなくさびしく感じられてしょうがなかった。

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